陸の仕事7 川原
すでに日は登っていたが、まだ人々が仕事だの学校だのに行き出す前で、現し世では誰ともすれ違わなかった。
目的の家の門鈴(玄関に着ける鈴)を乱暴に鳴らしていたらババアが一人出て来た。
「和枝さんをお願いします。」
おそらく、和枝の義母だろう。
「昨日の夜から帰って無いよ。そもそもあんたは何かね?」
「………。」
何て言おう。そう言われて興奮していた頭がすーっと冷えた。この人は嫁が那由他であったことを知らない、言わば「関係のない人」だ。とは言え何の因果かこの姑は過去に俺が片腕を取ったババアだ。俺が何も応えられずにいたらババアは深くため息をついた。
「まったく、ウチの息子たちと来たらマトモな嫁をもらって無いよ。」
冷静になった頭は「息子たち」ってことは少なくとも二人はいるんだなとか考えていた。
「和枝が時々いなくなるのを止めずに、なにを許してんだか。そんなんで孫だって言われても本当に息子の娘か分かりゃしない。」
「次男は次男で息子だって言って化け物を連れて帰って来るし。」
義母は発言の途中から俺ではなくその後ろを見ていた。振り返るとあの子の体の然さんが立っていた。
「なんだい、帰ってこなくて良かったのに。」
然さんでは無くてあの子の方が耐えられなかったのだろうか。彼らはその場から逃げ出してしまった。
俺はそれを追いかけた。
「待って!君!」
もう、こうなるとあの子を追いかけてるのか然さんを追いかけているのか分からなくなる。
「然さん!」
呼び方を変えて呼びかけたが相手は走るのをやめない。
二分ほど走り、川原に付くと走るのを止めた。
久々に長く走ったからか俺も息が上がったっていた。互いに息が整ったら然さんの方から口を開いた。
「陸、この体になってから会うのは初めてだな。」
目が合った時。相手の白目が赤くなっていた。
「はい。娘の居場所は分かりますか?」
「和枝が絶対に安全なところに移したと言って、教えてくれないからない。」
「それでは困ります。那由他はどこですか?それに何故娘は撃たれたんですか?」
「あの時、己が撃たれた貴羅を見つけて、卯ノ花と那由他が処置してくれた。まだ分からないことは多いが貴羅を撃った拳銃、京を撃ったものと同じかもしれない。」
「なぜわかるんですか?」
「弾丸に付いた傷だよ。京が手紙をくれた。」
弾丸は発砲の際に跡が付き、それは銃ごとで違うのでどの銃で撃ったかが判るらしい。
「手紙の通りだと、この向きで京は発泡して…」
然さんは手紙を広げて位置を確認しているようだ。
そう言えば、京は発砲した後に体半分丸のみにされたみたいな事言ってたな。一瞬であれだけ体を持っていかれたら鬼のままだったとしても致命傷だよな。
ここから詳しくは見えないが図が書いてあるのか、川を斜め後ろにして指を差したりして当時のことを再現している様だった。しばらくすると川原かわらの腰掛に使われている倒れた木に近づいた。
「あった。」
然さんはしゃがんで地面に埋め込まれた弾丸をつまみ出し、俺に渡した。
「卯ノ花に届けてくれ。貴羅から出した弾丸もそこにある。」




