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嫌われ鬼娘と彼女に恋した─僕と己─  作者: ラーテル 弓倉


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陸の仕事4 再会

津耶(つや)から許可をもらったらすぐに俺の元へ連絡が行く様に念を込めてに、懐紙を燕の形に折って奈子さんに渡した。燕にしたのは一番速く飛ぶ鳥だからだ。



卯ノ花の診療所をあとにした後、屋敷に付くとすぐに燕が飛んできた。


「イチジカン、チカクノミルクホールデマツ、ツヤ」


燕の体にそう書かれてあった。

ミルクホールは屋敷の近くと、診療所の近くに二軒あるが、診療所から出しただろうからその近くの方だろう。急いで行くと店内に奈子さんがいた。


俺に気が付くと手招きをして通路を挟んだ席に案内された。

その席には出入り口を背に向けて津耶が座っていた。


座る時に奈子さんから耳打ちされた。

「貴方が取り乱した時の為にお呼びしておりますから。」

奈子さんの向かい側には入り口に背を向けるかたちで那由他(アネキ)が座っていた。和枝になってからは人間として人生を謳歌しているそうで安心してる。

二人は餡を挟んだカステラの様な物を嬉々と食べていた。


「美味しいー♡」

「初めて食べた♪」

「生きてないと出来ない楽しみよ(^_^)」


興奮状態の二人を見ると俺を見とくのは建前で、本当は菓子を食べるのが目的にしか見えなかった。


そんな二人に呆れたのか、少し冷静になれたと思う。正面に座る彼女の顔を見ると『鬼 屋』でのことを思い出してしまい、少し(やま)しい気持ちになった。

「やあ。」

平然を装って出た言葉がこれだった。


「私を探してると聞いたけど?」

「急に来なくなったから気になった。」

心配になったと言えなかったのは、彼女にのめり込んでしまったのを隠したかったのだと思う。

「そう言った挨拶が必要な間柄だと思っていなかったから。」

この返答にはガッカリしたが、嫌悪感とか拒絶とかそう言ったモノは感じられなかったので少し安心した。


「何か頼まなないとお店の方に失礼ですよ。」

そう続けると津耶は頼んでいたホットミルクに口をつけた。

この時に何かを頼んだ記憶はあるが、それが何だったのかは覚えていない。



「来なくなった理由は?」

「人間を食べるの、しばらく控えようと思って。」

「えっ?」

あんなに嬉々とした笑みで腕を喰ってたのに?あの表情が見たくて楽しみにしていたところもあった。

「もし、私のために用意して無駄にさせたのならすみません。」

「それは良い。なぜ喰うのを辞めた?」

「身籠ったの。」

「いくら物の怪とは言え、私は人間の体を使っているからこの子の半分は人間。残りの半分が鬼とは言え、共喰いさせるのは抵抗があった。」

「鬼ってことは俺の?」

「ええ。」


頭が真っ白になった。

嬉しいとか、嫌だとか、では無くただただ、驚きすぎてどうしたら良いのかわからなかった。

あれだけ回数を重ねたのだがら出来ない方がおかしい。

厄介事だとは思わなかったけど何をどう返したら良いのか分からなかった。



「…今の津耶(つや)のことを教えて欲しい。」

「どういうこと?」

「名前のこととか、どこに住んでるとかそんなありふれたことで良い。そういったことが聞きたい。」

少し黙った後、彼女は津耶になってからの話を始めた。

震災で死んだ女の体に入ったこと。独り身なので好きに出来ると思ったら家族がいて、奉公に行くことが決まってしまったこと。その奉公先としてこっちに来て女中として、働いていたこと。休みの日にフラフラしてたら俺に会ったこと。


「こう言う話で良いのかしら?」

「ああ。」


そして、妊娠がわかって出ていくように言われたこと。


「ならうちに来いよ!」

子供が出来たことでこの誘いに津耶は断れないだろう。今後も一緒にいられかると思うと気持ちが高ぶったし、今、約束を取り付けないと二度とこの(ひと)には会えない気がした。

「それは駄目よ。」

那由他(アネキ)が割って入った。

「アネキには関係ないだろ。」

「同族ではないなら絶対に駄目。」

「中に入らなくたって土地にくっついて店がある。あれを改装すれば良い。」

那由他(アネキ)が溜息を付いた。

「あの土地に入ったことで貴方は今まで何人殺した?治外法権で守られているとは言え、(あなた)は充分に恨まれてる。やり返したくても鬼相手に太刀打ちできる相手はそう無いから絶対に彼女に向うよ。この人を守りたいのなら、特別な関係であると見せたら駄目だよ。」


仮に夫婦(めおと)だとしても、四六時中一緒にいて守れる訳ではない。


「…つやさんでしたっけ?どこか行く宛はあるんですか?」

今度は奈子さんが声を出す。

「ありません。実家に手紙を出したら、帰ってくるなと言われました。」

「なら尚更(なおさら)…」

「じゃあ(うち)に来ませんか?」

俺の言葉を遮ってニコニコしながら奈子さんが続ける。


「病院だから産まれる時はすぐに対応できるし、余裕のあるときに一緒に家事でもしてくれたら良いから。生まれたらうちの子と同じ年になりますもの。一緒に育てましょうよ。」


嬉しそうに奈子さんはお腹を擦る。

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