陸の仕事2 名前
俺が成人する頃に、あの土地が管理できる者を政府が探していた。
俺達を確実に殺るためか、敷地に結界を張られて隠り世への生き来ができなくなったばかりでなく結界の内外へ魂だけの状態では生き来が出来なくなったのだ。
ある時、敷地の中で死んだ者がいて、それを天の魂が乗っ取り、何人もの政府関係者を惨殺…なんてことがあったので、それで慌てて手を打ったのだ。
『天』のたった一度の蛮行は政府の人間を恐怖に陥れるには十分だった。
鬼の魂が消えるまで、誰かがあの土地に入って鬼に体を乗っ取られないように、また、入った者がいた場合はどうしても良い(厳密には殺してくれ)という条件でもらった。
まあ、俺らからしたらあんなことするのは天以外にいないから運良く他人に干渉されずに使える土地を手に入れられただけである。
せっかく治外法権で鬼のものとなったので殺生石をばらまいてやった。殺生石のせいで女狐の方から接触しやすい様にワザと敷地を覆う柵は中が見えるような作りにしてやった。また、敷地に入った者は石の影響で体を壊し、死ぬ様になったので余計におっかないものとして認知された。一応、無駄な殺生はしたくなくったのでこの土地を得てからすぐに注意書きは出した。
『コノ土地ニ入ッタモノハ
何時如何ナル時モ
同族以外餌トミナス』
柵の真ん中には屋敷を。柵の外側に隣接させて小さな家も作った。出入り口が2つ。柵の中からのものと外の道からの物だ。来客があるときに屋敷の敷地に入らずとも同族以外と会うことができる。
物品の依頼を受けたり、占いや呪いをするために作ったのだ。その離れに『鬼 屋』と書いた看板を出した。
この店に来る客は週に一人、来るかどうかだったがきちんと生計を立てるために医者や金持ちなんかに目を付けて俺が訪問することで今の仕事の形になった。そしたらそちらが主となり、店を構える必要はなくなった。
看板を外して間もない頃、依頼主に品物を届けた帰りに家の敷地に手を伸ばす人間がいた。
どうやら、この前植えた日本にはない大陸の花を取ろうとしてるみたいで、俺はこの若いと言えなくなった女ー、ババアに気づかれない様に一瞬で近づき、柵の隙間から敷地に入っているババア片手を俺の左手を下から振り上げる形で千切り取った。
「ぎゃああああ!!」
片腕は柵から二尺(約60センチ)くらいのところに落ち、ババアは転がる様に逃げて行った。ババアはもちろん、俺も地面も血だらけだ。これら見た人間は敷地に近づこうとはにしないだろう。
敷地の入り口まで回って、中から落とした腕を取るには距離があるので外から柵の中に片手を入れてそれを取った。
そのやりとりをずっと近くにいた女が見ていた。俺の取った腕を欲しそうに見続けていた様だったので俺から話しかけた。
「欲しけりゃやるよ。」
腕を放り投げてやると相手は少し驚きながらもしっかりと掴んだ。
「こんな物渡されても困ります。」
他の女なら大騒ぎして腰を抜かすだろうが、この女は淡々と腕を突き返してきた。
俺は突き返された腕ではなく、女の腕を掴んで歩き出した。
「ちょっと!」
「こっちに来ると柵の隣に小屋がある。人目が気になるなら、そこを使うと良い。」
「………。」
そこまで言うと女は黙って付いてきた。
俺以外、みーんな殺されて、魂は近くにいるとはいえ、あやふやにしか意思疎通が出来ないので俺は一人になったも同然だったのもあって単に人恋しかったのもあるが、正直この時は性欲を満たせたら良いなーってのもあったと思う。
『鬼 屋』につくと女は服を脱ぎ、着物を綺麗に畳んでから腕を喰いだした。そう言ったことを知っているのだろう。服を汚さないためだ。
また肉をくれてやるから性交を求めても良いか聞いたら血穢(生理)のとき以外なら良いと言われた。
「貴方くらいの容姿なら相手に困らないでしょう?稼げるならお金でもっと良い女とも出来るでしょうに。」
「女から性病を貰っても俺達には全く症状が出ない。それで他の女に伝染して殺したヤツを知っている。その手の揉め事はゴメンだし、お前がその手のことに無関係でいられるのは見ればわかる。」
「優しいのね。」
その血だらけの口元から笑みが零れた気がした。この女は人間の体を使っているが物の怪、しかも人や獣の類では無いのは明らかだった。
三回くらい会った後に女の名前を聞いた。
「どんな字を書く?」
「字までは知らない。」
「自分の名前なのに?」
「死ぬたびに変わるから余程目立たない限りは拘る必要は無い。」
俺は自分の名前は嫌いだ。
「独り遺された状態ではロクな育ち方はしないだろう。」
然さんに合う前に、そう言われて来たことだけは覚えている。
然さんのところに貰われてつけられた名前が陸だった。
なんでも俺がその時いた子供たちの陸人目にだったかららしい。
読みが同じだったが、理由が違うので気にしないことにしていたが、「ロクでもない」のロクと同じ字だと知ってがっかりした。
「今まで嫌な名前とかなかったか?」
「長くても五十年くらいの話でしょう。」
「今までのを覚えてるか?」
「ええ。」
彼女は遡る形でいくつも名前を出した。
歴史に関係するものもあったのですこし驚いていたら、途中から明らかに日本のものではなくなった。
「你是大陆的吗?」
堪らずに彼女に大陸の出なのかを質問した。
「是的。你也是?」
彼女は肯定した後、俺に同じ質問を返した。
違うことを説明するために自身の生い立ちや、名前や隠り世のこと。そこでは朝鮮語や中国語も普通に話されていること、なぜこんな土地を持っているかを簡単に説明した。
「そう。」
それだけを彼女は言い、俺に対しての質問やねぎらいの言葉は無かった。
「私の話もしたほうが良い?」
彼女が何者なのか知りたかったので話してもらった。
彼女は楽器の精だと言った。おそらく、「付喪神」みたいなものだと思う。
大陸では彼女に姉貴分が二人いて、三人で国を1つ滅ぼしたそうだ。そして処刑され、その時に付喪神だった時の体を失い、その後、何度も体を使い終えてから日本に来たらしい。
しばらくすると姉達と再開して一緒に行動したそうだ。そしてまた何回も体を替えて今にいたると。
…話のとおりだと俺はかなり年下になる。
もっともらしく、この女を引っ張ってきたことが少し恥ずかしくなった。




