鬼娘4 嫌われ者たち
川原で石を投げて『退屈な夏休み』の最後の日を終わらせている。横に投げて水面に何回もバウンドさせるなんて器用な事は僕には出来ない。
「まさか夏休み中、1日も会えないとはねぇ…」
近くに人がいなかったからか自然と悪態をついていた。
何か約束をしていたわけでもないし、彼女の家は下手に尋ねる事ができない。偶然でなければ会えないのも仕方ないのだ。
「誰に?」
振り向くとキラがこっちを向いて立っていた。どこかに行く途中だったのか体は別の方向を向いていたがそのままこっちを向いて近寄ってきた。
「あ、いや、その…」
そのまま彼女は僕までは近づかずに川に平行して置かれてある枝と根っ子を切り落としてベンチとして使えそうな木の幹の端に腰をおろした。
「座ったら。」
僕はキラと適度に距離を開けて座った。
今日のキラは洋装で靴を履いていた。片方の靴を脱いで中に入ってた小石をひっくり返して出していたのを見てそのことに気づいた。髪はアッパッパーの時と同じだから夏休みの中も櫛を使ってくれているんだと思い少し嬉しかった。
僕が横目でキラの様子を伺うのに対し、もう片方の靴の石を出し終えた彼女は真っ直ぐと川の方を見ていた。
思えばキラと二人きりになるのはこれが初めてだ。
きっと今の僕は『彼女が好きだ』と書いてあるのを必死に隠そうとしている顔をしているだろう。
それを彼女に見られるかと思うととても恥ずかしい。このままこっちを見ないで欲しい。
この先どうしようかと思っていたら彼女の方から口を開いた。
「転校前は独逸にいたのよね?」
「うん、そうだよ。」
「どうして日本に?」
『興味のある相手なら個人的な質問をしたりするんじゃないかしら?』
前にネコにキラが僕のことをどう思っているか聞いた後にそう言われたのを思い出したけど、この質問内容に僕は喜べなかった。
「父親が東洋人なことと母親が狼女ってことで狼男だの混血児だのってすごくいじめられて、みかねた父親が日本に連れて来たんだ。」
事実だ。冗談やイヤガラセじゃすまない様な命の危険を感じるようなことも何度もされたこともあった。何をされたかまではキラに言いたくはなかったのでこれ以上は言わなかった。
「その狼女…男?って言うのは遺伝ではないの?」
「遺伝するけど僕が生まれた後になったんだから僕は違うよ。」
国が違えばこんな当たり前のことも説明しないとならないんだよな。この国の血が半分流れているはずなのにここでは僕は『よそ者』だと思った。
「それは鬼とどちらが嫌われてるの?」
「それは…」
「ムリにこたえなくて大丈夫よ。」
少なくとも僕とキラ、どちらも知ってる人間からは明らかに… そんなこと彼女に答えられるわけがない。
答えられない代わりに今度は僕から疑問をぶつけてみる。
「…前から気になってたんだけど、ネコでもキミの家の土地に入ったらエサになるの?」
「そうよ。」
「あんなに仲が良いのに?」
「同族じゃないからね。」
「友達なんだろ?」
『そう決まっているから』ではなくて『彼女の本心』のところが聞きたかった。
お互い黙ってしまったので。どうしようかとかんがえているとため息をつかれた。