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嫌われ鬼娘と彼女に恋した─僕と己─  作者: ラーテル弓倉


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鬼と鬼娘7 門外不出

取りあえずさっきまでいた部屋に戻った。

己が貴羅を返さなかったらあんなことにはならなかっただろうに…頭から血を流していた。おそらく撃たれたのだろう。鬼とは言え、助かるか分からない。


とは言え、なぜ貴羅は拳銃を自身の頭に突きつけてまで己を止めさせたのだろう。


「クソッ…」と思えどこの体だと声が出せない。もし貴羅が死にでもしたら(ろく)にも申し訳ないし、それ以上に己自身も耐えられない。


ただひたすら心の中で狼狽するしかなかった。


ガチャッと部屋の扉が開く。祢呼が開けた様だ。祢呼は狼の姿の己と目が合って体をビクッとさせた。


祢呼の後ろに貴羅を抱いた那由他が立っていた。

「大丈夫、この人は私達に危害を加えないわ。」

そう祢呼に言うと那由他はベットに貴羅を寝かした。意識は無い様だ。頭から血が出ている。微かに焼けた臭いが血に混じってるのを感じる。撃たれたで間違いないのだろう。


那由他が傷を覗き込む。

「早く来ないと玉を取る前に傷がふさがって仕舞うわ。」

「ええっと…」

和枝(かずえ)です。穂浪(ほなみ)さんの叔母にあたります。」

那由他は祢呼に応えると己を見た。

「鬼だから死ぬことは無いだろうけど、脳の損傷がどうなるか…。」



「今狐の坊や達に卯ノ花を呼んでもらってます。一緒に式神も飛ばしたので大丈夫でしょう。」


おそらく、『那由他』では無く『和枝』として名乗ったのは祢呼は部外者と言う認識なんだろう。その方が良いと思っていたら祢呼が脱いである靴や服に気付き、その後に己を見た。


「いつまで狼のままでいるのよ。」

返事が出来ない己に祢呼が続ける。

「ふでこちゃんを襲ったのだってキラを守りたかったからでしょう?ふでこちゃんも擦り傷程度で済んだんだからそれで然を攻めるほどアタシは心が狭くないわよ!」

「自分の意志に関係なく、穂浪さんの体は満月の夜は狼になるのです。」

那由他はどこからか棒状のものを出して、「塞がっては成らない」とキラの頭の傷口をグリグリ仕出した。祢呼は引いていた。


「あと(ろく)にはまだ伝えてませんよ。面倒なので。」

その時、卯ノ花が狐等を連れて来た。

「え、お父さん?」

祢呼が目を白黒させた。

「おまたせ、頭を撃たれたと聞いたが?」

女狐に唸っていると祢呼が己のところに来て耳打ちをした。


「撃たれたキラが貴方を止めたんだから、それなりに理由があるはずでしょ?赦せないのは解るけどキラが目覚めて訳を聞いてからでも遅くはないはずよ。今は我慢しよう。」


どんな理由があれ、貴羅を傷つけた者を赦せるか。

怒りが身体中をめぐり行き場を失っているが、祢呼の言う通り、ここは我慢するしかない。


「早く処置しないとな。さて、患者と和枝さん以外は出てっておくれ。」

そう言って卯ノ花と那由他は己と祢呼と狐達を部屋から締め出された。


「一緒に来なさいって言ってそれはないだろ?」

「知らないわよ。」

墨夫が祢呼を睨むが、己とも目があったからか萎縮した。

祢呼が何か言いたげに己を見たが、今はどうしようもないので目を反らした。


祢呼と狐等が5分ほど帰るの帰らないの話していたら

那由他が扉を開けた。

「もう大丈夫なんですか?」

祢呼の問に那由他は首を横に降る。

「これを出し忘れただけです。」

那由他は己が来ていた服と靴を祢呼に押し付け扉を閉めた。


「やっぱりアドルフじゃねえかよ。ちゃんと説明してくれよな。」

ふてくされたように墨夫が言う。

「夜のうちは人の姿に戻れないそうよ。」

「そうよ。ってなんだよ。さっきのおばさんにそう言われ…」

『ドンっ!!』っと扉が殴られた様な衝撃があった。

おそらくは墨夫の『おばさん』に反応したのだろう。那由他ってそう言うの気にするんだなと少しおかしくなった。


「(コワッ!)そ、そうだ、探検でもするか!」

「ちょと、人様の家でしょ?」

「キラ達は今住んで無いんだろ?ほぼ廃墟で何言ってるんだよ。」

「それはそうだけど…」

そう言いながら祢呼も好奇心が勝った様だった。この状況で女狐から目を離すわけにはいかないので一応保護者としても3人に付いていくことにした。



どの部屋もこざっぱりしていてこれといったものはなく、暗く、壊れかけた建物が子どもたちには余計に不気味に見えただろう。

「お兄ちゃん、戻ろうよ。」

「みんな一緒だから大丈夫だよ。」

無視した墨夫にかわって祢呼がなだめた。貴羅が止めた手前、我慢はしているが女狐にはイライラする。年相応に怖いフリをしているのが余計小賢しい。



最後は半地下みたいになってる書庫の様な部屋だった。階段を降りた先に二つの本棚があり、並べられてる本は日本語だけでなく中国語、朝鮮語と見れる本も沢山あった。

中国も日本も漢字を使うので背表紙を見たら何の本なのかは予想がつくが朝鮮語の方はさっぱりだ。



「キラって日本人じゃないのか?」

「さあ?お父さんが仕事で中国や朝鮮に行ってたからその関係でじゃない?」

「何のお仕事なの?」

女狐が聞いてきた。

「日本に売ってない漢方薬や薬の材料、食品、工芸品なんかの注文を受けて異国で調達してたって。あと翻訳も仕事にしててキラも手伝ってたみたい。大学教授から町のおえらいさん、学者やお医者さんとか成金やら…」

「どんなに良い薬をそろえてもそれがヤブ医者なら意味ないだろう?」

墨夫が祢呼に嫌味を言い出した。この様な発言を続けることで周りが彼を浅はかで、幼稚に見るということをまだ理解できないのだろう。

「しつこい!」



「お兄ちゃんこれ。」

女狐に言われた場所の本棚と本棚の間に、一寸ばかりの隙間があった。暗くて見落しそうだが己も含め、ここにいる者は(みな)夜目(よめ)が効く。


墨夫が本棚をずらすと、そこには三畳ほどの隙間があり大きな木箱があった。


「他はドロボーに入られてたみたいだったけど、ここは手付かずみたいだな。」

「やめなさいよ。」

開けようとする墨夫を祢呼が止めようとしていたが、何を(ろく)がここまで大切にしまい込んでいるのかが気になってしまい己も止めようとしなかった。そんな俺の様子を見て祢呼も諦めた様だった。



中は一番上に人形、その下に着物や帯があり、更にその下に箱があった。箱の中は財布や手鏡、櫛などの小物で、どれも成人した女が普段使いしていそうな物だ。


「隠したかったみたいだな。」

墨夫が少しがっかりした声を出した。


隠すほど、(ろく)にとっては特別な物だったのだろうか。着物や帯の柄に見覚えがあった。少しして艶さんが着ていた物だと思いだした。貴羅のために取っていたのか、貴羅に見せたくなかったのか、心神喪失だったであろう陸に代わって示尾(ジオ)がやったのかもしれない。

そう言えば陸が艶さんと中国語と日本語を交えて話していたのを思いだした。


「さすがにもう片付けるわよ。」

祢呼が着物を丁寧に畳んで箱に戻した。



祢呼が箱を閉じたあとに隙間が出来ない様に祢呼と墨夫とで本棚を戻し、己が先頭で最後が女狐の順で部屋を後にした。























「………。」

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