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嫌われ鬼娘と彼女に恋した─僕と己─  作者: ラーテル弓倉


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鬼と鬼娘5 前途洋々

少年の体を返さなくて良い。更に貴羅はこう付け加えた。

「そのままアドルフとして生きるのなら、もう私は体を借りてることを(とが)めない。」


「なぜそう言い出すんだ?」

この貴羅の申し出には驚いた。


「アドルフのお父様は私やネコの様に事情を知ってる人なの?あの震災の中、生きていた息子が実は死んでいて、また死ぬ予定になってますって言える?私に対して自然とアドルフが出ているのならお父様にもそうなのでしょう?」

「…否定しない。」


父親からの愛情とか優しさの様な物を受けるのが(オレ)は初めてだったので、とても嬉しく、充たされたのを感じた。だがその分、少年のふりをしてそれらを受けることに『彼を騙している』と言う罪悪感もあった。


「私たちは人間(ひと)の何倍も生きる。貴方がアドルフとして振る舞うのを止めるとしても、アドルフのお父様が亡くなってからでも遅くないでしょう?」


「己に少年として生き続けろと?」


「今更何を言ってるの。はじめからアドルフの様にお父様に対応していたのならそうするべきだと思う。

あのまま動かないアドルフのままだったなら、時間がかかっても私は彼の死を受け入れられたと思う。けれども身長が伸びたり、声変わりがあったりと身体が成長したことと私に対してアドルフが出ていて今更死んだことを受け入れろと言われても難しい。」


この前、貴羅のことで墨夫を投げたのは大きかったのだろう。事実、少しずつだが貴羅は己に対しての攻撃的な匂いは減ったし、成長した少年を貴羅が異性として意識しだしたのかもしれない。だが貴羅の好きなのは己じゃなくて少年なのだ。どんなに少年の影響でこの娘を手に入れたいと思っても己が貴羅の相手をしてはいけない。


「なら(おれ)から一つ頼みがある。狐のことが終わったら、この体にその左目を返してくれ。」

「それなら今でも構わないけど?」

貴羅は両手を左目に添えようとした。仕方ない。今、伝えるかのが最良だろう。

「今はまだ早い。眼帯を取って見てご覧。」


貴羅は眼帯を外して布を開き出した。

中に入っていた血の付いた布が何なのかをすぐに理解した様だ。


「本当に巧くいくと思う?」

「わからない。正直賭けだ。」


飼い猫の卯の花ー、もとい、袮呼の父親が陸(貴羅の父親)へ手紙を渡すときに一緒に入れさせたのだ。

血は少年のものだ。指を切り、持っていた手ぬぐいで即興で血を使い書いた術式だ。


貴羅の使っている少年の左目…そこに貴羅が食べて体内に散らばった少年の魂を寄せる様に元いた魂が集まる様にしたのだが、喰われた魂は時間が経つと体や精神に消化、同化される。貴羅が眼帯を付けだすまでに時間が経っていたので成功し辛く、成功しても魂が薄くて己の魂に影響される可能性のある旨を貴羅に伝えた。


「こんな物を見せられたらアドルフが戻ってくるって期待する。それに『殺したー殺された』者同士が元の関係に戻れると思える?」

「どう付き合って行くかは少年と会ってから二人で決めなさい。」


これに対して貴羅が何かを言おうとする前に己は口を開いた。

「もうすぐ日が暮れる。早く(ろく)の元へ帰りなさい。人でない姿を己と僕(オレら)は見られたくない。」

今夜は満月…そうでなくても日が暮れる前に貴羅は帰るべきなのだ。



「私はアドルフが狼の時も受け入れるつもりよ。」

貴羅は眼帯を整えて装着すると部屋を出た。

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