狐と狼 おべんとう
「一緒に良いかな?」
昼御飯の時間、弁当を持って然が、スミオの席のところまで来た。珍しい組み合わせになったので教室のみんなが二人に注目している。
「…どうぞ。」
スミオは素直(逆らえず?)に然を受け入れていた。
「昨日は放り投げて悪かった、ごめん。」
「ん、うん。」
アタシやキラ相手でなければ然ではなく、アドルフとしてふるまわないといけないから大変でしょうに…。一応、本人のけじめなのか謝っている。
スミオは生きた心地がしないと言う顔をしていて、私の方を見て助けを求めようとしているけどアタシはそれをキラとご飯を食べながら気づかないふりをしている。
「す、す、杉下君も、オレと食べるだなんて、どういうかぜの吹きまわしだい?」
いつもはそんな話し方をしないでしょ、緊張のしすぎなのかとてもよぎこちない。笑いそうになるのをこらえて、アタシは聞き耳だけはたてている。
「この前、放り投しまったことをきちんと石見くんに謝りたかったのと、今まで話して来なかったからちゃんと話をしたいなぁと思って。」
「そ、そうなのですか?」
「グフッ」
思わず吹き出してしまった。どんだけアドルフのこと苦手なのよ。キラは面白くないのかしら?それとも左側(眼帯をしている方)だから見えてないからなのか全然表情が変わらない。
「それもだけど、一番の目的は弁当かな。」
「弁当?」
「学校が再開したころから、毎日弁当に肉がはいっているのは君だけなんだよ。日本に来てから全く肉を食べれてないから正直羨ましいってのもあって…」
「………。西洋人って人間でもしょっちゅう肉を食べるって本当?」
「日本人に比べると明らかに多いよ。」
「東京がめちゃくちゃになったってのにどこで手に入れてるんだい?」
「兄ちゃんの大学あたりが震災の被害が無くてそこの肉屋から買って来てくれるんだよ。」
「それは羨ましいね。お兄さんと二人兄弟?」
「妹もいる。三人兄妹。」
しげしげと弁当を見る然に「よかったら一つ」
とおかずを分けなくてはいけないスミオだった。
「ありがとう。」
そう言って然が口に肉を運んだ。
そんなわけでお昼時間に然はスミオの元へと行く様になり、そろそろ一週間ほど経とうとしていた。
そして今日のスミオは元気がない。
「杉下君…」
「アドルフで大丈夫だよ。」
然がスミオの弁当を見ると少しがっかりした。ようだった。
「肉なら今日は無いからな。」
いつもと違って今日はスミオが強く返した。
「己がとってしまうから?」
「違う。昨日の夜、兄貴が大怪我したんだよ。」
たしかに、肉どころではない。
「…それは大丈夫なのか?」
私は今朝、スミオからお兄さんは大学近くの病院で入院しているとだけしか聞いてない。
「うん、医者は命に別状ないってさ。いやぁ、尾白んとこのヤブ医者とは大違いだ。」
「悪かったわね!」
全て聞こえているのでそこはしっかりと言い返してもらった。
アタシが然から助けなかったから怒ってるのかとおもったけど、それに限らず今までもなにかにかけてスミオはウチを『ヤブ医者』と言ってくる。本当にしつこい!
「地震のせいか物騒になったよね。己のおじさん警察官なんだけど、昨晩、川から死体が発見されたから寝てるのを叩き起こされてバタバタ出掛けて行っていたよ。」
アドルフはじぶんのことを己と言わない。そこは僕よと言いたかったけどさすがに今はムリね。 それに然がアタシのために話題を変えてくれたような気もしたので後からでも黙っておくことにした。
地震…あれがなかったらアドルフとキラ(と私)は今まで通り仲良く過ごしてたのだろう。
とは言え地震がなかったたらここまでスミオとは仲良くならなかったでしょうし、源平も死ぬことはなかっただろう。
「…源平どうしてる?」
キラにだけ聞こえる声で彼のことを聞いた。
「おばさん、妊娠してたんだね。この前弟が生まれた。」
「!?」
「茂ちゃんって名よ。」
「…そんなことってあるの?」
「出産経験があったから隠り世でも産めたんだとおもう。たいていの場合、産まずに母子ともに成仏されることが多いけど、おばさんの場合、生きてた時の延長で考えたみたいだからそのうち産むって意識がしっからあったんでしょうね。」
「?」
「妊娠したまま母親が成仏したら赤ちゃんもそれについていくように成仏するんだけど、産んで体が別になってると母親が成仏する時に一緒にいけなかったら赤ちゃんだけが残ってしまうことがある。」
「なんで?」
「大人は今自分が死んでるからいずれ成仏なり、なんなりで次の段階へ行くってのがなんとなくあるんだろうけど幼い子供や赤ちゃんとかだと生き死にの概念すら無いからじゃないかな。」
「…もし残ったらどうなるの?」
「その後成仏できるかどうかはその子の周り次第ね。何年も成仏しないと鬼になる。とは言え、親もいなできなかったら多くの場合、ろくなことにはならないでしょう?」
たしかに、小さい子供は独りでは生きられない。あの世であっても天涯孤独になった幼子がどうなるかなんてのはあまり考えたくはない。




