学校1 ひとみ
通っていた学校は見事に燃えてしまった。なので十一月に入る前に焼け残った建物を借りる形で授業は再開となった。
良くも悪くもキラの家の前を通らなくて良くなったので登下校中に会わなくて済みそうだ。
あと、人数の問題で上の学年と下の学年とで別々の建物になったけど互いに目と鼻の先に合ったので兄弟児で別々の学校だとしても大した問題は無さそうなのがよかった。
初日の今日は取りあえず学校があった時と同じ席順に座る指示だったけど空席がちらほらある。学校に来なくなった子でも、被災してない地域に親戚がある人はそっちへ移ったりするので無事だったと信じたい。
「尾白。」
アタシを名字で呼ぶのは限られている。
「石見くん。」
白狐である彼は綺麗な白肌、白髪の持ち主だ。狐耳と尻尾の先だけ茶色く、同じ茶色の瞳の細い瞳孔はアタシと同じで夜行性を表す形だ。
「筆子のこと、ありがとな。」
「いいえ。ふでこちゃんどうたった?」
「妖狐だからな、けっこうな深手だったみたいだけどもうキレイに治ったよ。」
「それは良かった。」
女の子だもの。傷が残るようなことにならなくて本当に良かった。そんなふうにぼんやり教室の入り口を眺めていたら丁度キラが教室に入ってきた。目があったけどアタシはすぐにそらしてしまった。
「お前らケンカでもしたのか?」
「…まあね。」
ケンカ…いや、正確には絶縁になるのかな?
「ってか鬼でも怪我するんだな。」
「え?」
「左目。明らかに色が違うだろ?」
確かに左の瞳の色が違う。言われるまで気づかなかった。たしかに違う。茶色がかった黄色い目…アタシがよく見ていたアドルフの目で間違いないだろう。
アタシが最後に見たキラは、然にお腹を蹴られたときだった。アタシはキラの右側にいたから左目なんて見てないし、その前に見たのはキラの家でだ。キラはずっと家の方を向いていてアタシの方を見てなかった。もしかしたらその時はキラは左目を負傷していて、アタシが去った後にアドルフの目を奪い取ったのかもしれない。
だとしたらアタシがアドルフの死体を見たときにあった両目が、然として再会したアドルフの体に片方無かったのも合点が行く。
知りたいが肝心の然が来ていないし、もしかするとあのまま転校した可能性もある。それともアドルフのお父さんが用心して家から出してないか…
「そんで?杉下はどっちの味方なの?」
杉下はアドルフの名字だ。
「アドルフもキラと揉めてるけど、どっちの味方ってわけじゃないよ。」
正確にはアドルフの中の然に…だけどね。
「ホントか?キラの左目、あれ杉下のだよな?目玉をやれるとか、どんだけ惚れてんだよ。」
気がつくと左右違う色の目で本を読んでいるキラの通路を挟んで隣の席に然が座っていた。




