鬼娘1 角のない鬼
「そりゃあ中に入った方が悪いけどさぁ、あーゆー事があった時は普段からエサと思われてるんじゃないかって思っちゃうのよね。」
「失礼ね。」
休み時間、キラとその友人は昨日の事を話している。怪訝な顔で話す友人に対し彼女は表情をまったく変えずに本を読みながら返事をする。
物心がついた頃から僕は混血児等のことをネタにいじめとか、嫌がらせを受けて来た。ある日騒ぎになってお父さんの提案で1923年(日本だと大正十二年)の新学期から日本の学校に転校して来た。彼女とは通路を挟んで隣の席になったので今の様な会話は聞き耳を立てなくても入ってくる。
キラの家は元々は処刑場で父親と二人暮らしだとか。友人は化け猫で父親が医者、小さい弟がいるとか。
詳しくは分からないが『土地に入ったモノはエサ』と言うのは何かしらの治外法権や特例のようだ。とは言え、聞こえる会話だけでは分からないことがたくさんある。好奇心が勝ってしまったのか声にだして聞いていた。
「ねえ、看板にあった同族って何?」
「鬼よ。」
キッパリと応えてくれたがまったく表情を変えずこっちを見ない。
「鬼?なら昨日入った彼は…」
「化け狸よ。」
今度は愛想良く友人が応える。
「看板の読めない小さい子が入ってきても…」
「エサね」
「知らずに迷いこんでも?」
「エサ。」
当たり前だと言わんばかりに淡々と彼女が応える。このまま何を言っても『エサ』っていわれそうな気もする。
「昨日みたいに君をバカにしたならともかく、それじゃああまりにも理不尽じゃないかな?」
その疑問に彼女は「どうしてそう思うの?」と言わんばかりに僕を見た。初めて目が合った。思っていた以上に可愛い顔をしている。
「言い換えれば同族以外の全てに対して平等ってことでしょ?」
少し困った笑顔で友人が応える。もっともらしいことを言われたが腑に落ちない。
「もちろん混血児だろうと帰国子女だろうと関係ないから何があっても入らない様にね。」
僕に近づきながら友人が続ける。キラが本を見だしたのを見計らってに僕にしか聞こえない大きさで続けた。
「食われたら肉体だけじゃなく霊魂も残らなくなるから絶対に入っちゃダメよ。」
「『鬼』…日本だけでなく、朝鮮半島や中国大陸を中心とした亜細亜圏に生息する。人間と等しい容姿をとることや交配が可能で、頭に角を持ち、自然の断りを理解し、呪いを施し、他種族への力となること多々有。人間の比にならないほど強い力を出すこともでき、他種族の肉を好み食す傾向があるとされる。また、生きたまま冥界を往来出来る数少ない種族でもある。」
日本に来る際、僕が困らないようにとお父さんが日本の種族についてかかれた本をくれた。その中の『鬼』の説明を思い出したが、正直、僕にはツノのない彼女は人間の女の子としか思えないのだ。
「鬼ってツノがあるって聞いたんだけど?君は本当に鬼なの?」
「これから生えるのよ。」
僕はそれが信じる気になれなかったが、それよりも単純にこの娘と仲良くなりたくなった。
この日を境に僕は彼女とその友人に声をかけるようにした。