石長媛の幸
私は、ぼーーーーっとしているのが好き。
ぼーーーーっとして気が付いたら一日が終わっている。そんな日が続けばいいと思っている。
昔は、どうしたもんかなー。と、考えていたが、そう思っていると一日が終わってる。
よくお母さん怒られた。
そんなお母さんも、もういない。
私のお母さんは、売れ残っていた。
同じ集落の人達が次々とくっついていく中、お母さんに声をかける男性はいなかった。
別に嫌われ者だったわけじゃない。
色々と頼られてはいたそうだ。
でも、配偶者には選んでもらえなかったんだと。
んーーー。ようは、いいように使われていたんだね。
なんとなく居辛くなって、山の麓に一人で住み始めた頃、お父さんが声をかけてきたんだそうだ。
すぐに、そうゆう関係になったそうだが(子供になんて話してんだ)、結婚はしてくれなかった。
理由は簡単で、お父さんには正妻さんがいた。
しかも、子供が8人。
お父さんがこの地にやって来たのは、正妻さんが子供ばかりかまって、ほっとかれたんだって。
家出して、いざ一人きりになると、寂しくなっちゃったんだって。
そしたら、お母さんが一人でいたから、丁度いいから相手をしてもらおう。と、思ったんだって。
なんだそれ。
まぁ、そのお陰で私は産まれたんだけどね。
ある日、お父さんが新しい女性を連れてきた。
漆黒の髪に白い肌。すらりとしたとても綺麗な女性。
「よろしく」という、声も綺麗だ。
お父さんの鼻の下は伸びっぱなしだ。
そりゃ、これだけの美人だもの。そうなるのが普通だよね。
私も、あまりの美しさと良い匂いに、ぽ~~~~っとしてしまうよ。
ふわ~~~。世の中には、こんな綺麗な女性がいるんだね~~~。
でも、お父さん。ちゃんとこの女性に正妻さんの事、言ってる?騙してない?
「これからは、この方を、お義母さんと呼ぶように」
は?この女性を、お義母さんと呼ぶの?絶対、私の方が年上だよね。
ねぇ、お義母さん。やっぱり騙されてるんじゃない?
間違いなく集落一・・・ううん。この島一の別嬪さんでしょう。言い寄る男性は、数多いた筈だよね。
それが、なんでこんなお父さんのお妾さんになんてなりにきちゃったの?
父には正妻さんがいるんだよ。
お母さんは知らなかったみたいだけど、私のお母さんと会う前にもお妾さんが一人いて、その女性との間にも子供がいるんだよ。
つまり、10人の子持ちだよ。
もしかしたら、他にも、もっといるかもしれない。
本当に、こんな男でいいの?
信じられない。
ステータス?ステータスなのか?
そんなに【神】の女であるって事は、御大層な事なのか?
そんな事をぼーーーーっと考えてたら、綺麗なお妾さんが、更に綺麗な赤子を産んだ。
名前は、阿多都。
父もご満悦だ。
そうだね。こんな綺麗な子は見たことないよ。
私も本当に可愛いと思う。
綺麗な子供はすくすくと育ち、すぐに綺麗な乙女になった。
「私、絶対、【神】の妻になるわ!」
ある日、異母妹は言い放った。
「やっぱり、女に生まれたからには、最高位を目指すべきだと思う!」
うん。間違いなく、お義母さんの影響だね。
お義母さんは、妻にはなれなかった。
どれだけ愛されても、妻にだけはなれなかった。
「阿多都ぅ。あんた、どうやって【神】と出会う気なの?」
素朴な疑問を投げかけてみる。異母妹は、にや~と不適に笑った。
「ふっふっふっ。お父様から聞いたのぉ。なんでも、太陽神のお孫さんが、この地を治める為に、今、笠沙の岬にいるんだって~~~ぇ」
ふーーーーん。
そっかぁ。目星は付けているのかぁ。
これは、おねえちゃん一本とられちゃったなぁ。
そうかそうか。うん。がんばれ。おねえちゃんは応援するよ。
大丈夫。出会いさえあれば、たとえそれが【神】だとしてもイチコロだ。
周辺一帯の男性陣は、あんたが通っただけでメロメロになってるって事、おねえちゃん知ってるよ。
木花之佐久夜媛と言われ、崇拝されてる事も、当然、知ってる。
「私、絶対、求婚させてみせるから、おねえちゃんも一緒にお嫁に行こうね」
はい~~~~~っ?
なんですって?
異母妹よ。今、なんつった?
私の幸せは、ぼーーーーっとする事。
日がな一日、ぼーーーーっとしてれば、それだけで幸せなの。
なのに、なんで、嫁になんていかなきゃならないの!!?
言いたい事を言うだけ言って異母妹が、笠沙の岬にナンパされに行ってる時に、父がしみじみと言った。
「お前には儂の血が色濃く出た様だなぁ」
そう、私はあまり年をとらない。
今のところ、取り合えず阿多都の姉に見えるだろうけど、もう100年もすれば、阿多都は老いて亡くなるだろうけど、多分、私は、今とそんなに変わらないだろう。
これが【神】の血の恩恵なのだたしたら、宝の持ち腐れなんだろうな。
「いいんじゃないか?どうせ、ここにいてもぼーーーーっとしてるだけなんだろ?お前と瓊瓊杵様の子供なら長く生きる子供ができるだろう」
あ、そうですかーーーー。
まぁ、娘が売れ残っていたら外聞悪いもんねーーーー。
10日も過ぎた頃。
阿多都が帰ってきた。当然、瓊瓊杵様も一緒だ。
笠沙の岬に着いたその日に、声をかけられたらしい。チョロすぎるだろ。
「佐久夜媛を、是非、私の妻に迎えたい」
瓊瓊杵様がお父さんに嘆願した。
「もちろんでございます。貴方様に貰って頂けるなど望外の喜びです」
お父さんは、それはそれは浮かれている。
そりゃそうだろう。太陽神のお孫さんの義父になれるなんて、普通にありえないからね。
「つきましては、この子には姉がおりまして、姉も一緒に差し上げましょう」
こらっ!勝手に差し上げるんじゃねー。
誰が、いつ、了承したんだ。
ああ、ついつい言葉使いが乱暴になってしまった。
はぁぁ。
気が重い。
さようなら、私のぼーーーーっとした日々よ。
嫁入り支度を終え、瓊瓊杵様のお住まいである笠沙の岬に向かう。
異母妹はルンルンだ。
なんでだか知らないが、私は異母妹に異常に懐かれている。
多分、異母妹は、最高スペックの男と大好きなおねえちゃんに挟まれて超ハッピー。って感じなのだろう。
でも、気づけよ。異母妹よ。お前の夫の顔の暗さを見よ。どう考えても「厄介なのを押し付けられちゃったよぉ。どうしようかなぁ」って顔をしているぞ。
笠沙の岬に到着すると、案の定、瓊瓊杵様は私に土下座をしてきた。
「申し訳ございません。佐久夜ちゃんが、どうしても。と言うので、ここまで連れてきてしまいました!」
あ、うん。頭上げていいよ。
うん。普通そうだよね。ナンパした相手にこんな抱き合わせ販売されるなんて思わないよね。
多分、頑張ろうと思ったんだろうね。
「あ~~瓊瓊杵様。私も儚い夢を見られて幸せでした。これからは異母妹だけを愛して幸せにしてあげて下さいませ」
瓊瓊杵様。
流石、太陽神の孫だな。顔が光輝いるよ。
そこまで大っぴらに喜ばれると、私も傷つくのだが・・・うん。ま、いっか。
そーして、私は、懐かしの高千穂に向けて帰っていった。
あれぇ。なんでだろ。なんか、景色が歪んでるなぁ。あれぇ。おかしいなぁ。
異母妹は、他の女には目もくれず異母妹だけを愛してくれる男性をゲットできたんだ。
こんな良い事はないよ。
あれぇ。なんで私、泣いてるんだろう。おかしいなぁ。
テクテクテクテク。後ろを見ずに私は、帰った。
「それで、お前はおめおめと帰ってきた・・・と?」
「はい。やっぱり夫婦は、一夫一婦がいいでしょう?」
あ、お父さんには禁句だったかしら?あら?何故でしょう?お父さんの顔が真っ赤になってるわ。
「こ、こ、こ、こ、この愚か者ーーーーーーーーーっ!!!」
わぁ、吃驚した。やばい。これは、本気で怒ってる。
でも、なんで?
綺麗な綺麗な阿多都を娶れば、私が返されるのなんて、なんの不思議もないよね。
阿多都とだけイチャイチャしていたいと、私が男だったとしても、そう思うよ。
私が、お父さんに雷を落とされた直後に、瓊瓊杵様がやってきた。
阿多都とイチャイチャしていたら、「明日はおねえちゃんとイチャイチャしてね」と言われ、私を返した事を、正直に言ったらしい。
そしたら、阿多都にメチャクチャ怒られ、メチャクチャ泣かれたんだそうな。
うん。災難だったね。普通、ありえないよね。
「貴方様は私が二人の娘を差し上げた事の意味が解っていない。御子を成された後、貴方様は高天原へお戻りになるのでしょう?阿多都は死に逝く娘です。阿多都だけを娶った貴方様の後胤は、花の様に短いものになるでしょう。そして、貴方様は、永い長いながい歳月を一人で生きていかなければなりません」
あら?瓊瓊杵様ったら、何だかショックを受けていらっしゃるわ。
まさか、阿多都が老いて死ぬ事を知らなかったのかしら?
もしかして、“老い”や“死ぬ”って事も知らなかったのかしら?
でも、あれだけ綺麗な異母妹を妻に娶ったのだもの。私みたいな醜女が傍にずーーーーっといるより、その面影を偲ぶ方がいいわよね。
瓊瓊杵様・・・なんだか、どっと老けた様に、フラフラ帰っていかれたわねぇ。
なんだか心配だわ。ちゃんと笠沙の岬に帰る事ができたかしら?
仕方ないわねぇ。取り合えず、辿り着くまで、ここから見守っていましょうか。
ほら?綺麗可愛い異母妹が、出迎えてくれてるじゃない。
ふぅ。やっぱり異母妹は綺麗だわ。姿を見るだけで、香しい匂いが、御山まで届いてきそう。
あら?なんだかお腹が大きいような。・・・まあ、素敵。身籠ってるのね。
ん・・・なんだか様子が変ね?
あ、解っちゃった。
あの異母妹、浮気を疑われちゃってる。まーーー“最高位”にしか興味のない異母妹が、そんな事するわけないじゃない。
それなのに・・・なんなの、あいつ。責任とらないつもりかしら?・・・最低。
あら?異母妹ったら、なんか小屋作り出しちゃったよ。お腹、大きいのに。
えええ~~~~~~~っ。何やってんの。あの異母妹。何やっちゃってんの。中に籠って火つけて・・・どーするの。あんた、自分が、死んじゃう体質だって自覚、無いんじゃない!!?
うそぉ。
生きてる。
子供は・・・(キョロキョロ)・・・無事、なようね。
あーーー。吃驚した。あーーー寿命が縮んだわーーー。
あれ?私の寿命って?・・・ま、いっか。
何はともあれ、無事、産まれて良かったわ。
あーーーなんか、もう疲れちゃった。
もう、お父さんも「嫁にいけ!」なんて言わないだろうし・・・っていうか、どっか行っちゃったし。
しばらくぼーーーーーーっとしていよう。
ボーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
西洋の文化を色々調べていたら、自分のキャパを遥かにオーバーし、ぼーーっとしたくなった。
現実逃避の物語。
はい。
私のペンネームは、この姉妹からとってます。