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「ハル~。暇だしなんか面白い話してやるよ。AコースからYコースまであるけどどれがいい?」
「あと一つなんだしZコースも作りなよ」
「それが思い付かないんだなぁこれが。じゃあSコースの、お前が好きなバンドマンの話で。お前最近帰らんと、ライブハウスで夜遊びばっかしてるもんなぁ。」
「夜遊びはしてませんライブ見てるだけ。で、どんな話?」
「俺元は飼い猫なんだけどさ、学校の先生が飼い主で。で、そいつが面白いやつでさ!先生やりながらプロ志向のバンドやってて。スリーダースバンドのギターボーカルやってたんだけど──」
「違う違う。スリーピースバンドって言いたいんでしょ?」
「いやスリーダースであってる。全員で三十六人。まず四人が、ギタボ。リードギター。ベース。ドラム。残りの三十二人はサクラって楽器担当してた。いやぁ懐かしいなぁ。あいつら、全員キノコみたいな髪型で笑顔でタックルしあったり叫んだり、ロックってキノコ星人が踊り狂うもんなんだって感激しちまったよ!!」
「サクラは楽器じゃないから。あと三十二人全員マッシヘアはさすがに怖い」
少しの休憩をとった後、あたしとブーちゃんはこんな調子で実のない会話を展開しながら歩いていた。
あたしが四足歩行に少し慣れたことに気づいたのか、ブーちゃんはやや歩くペースを上げた。わずかに空腹感を覚えた頃、正午を知らせるチャイムが街に響いた。
「おーもう十二時かぁ。ちょうどいい時間だ。ハル、メシにすっか!」
「あーうんお腹すいた。でも、悪いけどあたしネコの食べ物は食べたくないかな。」
さっき水のことで我儘を言ったので、多少罪悪感があるが、それでもキャットフードなどのネコ用の食べ物は食べたくなかった。
「あー大丈夫大丈夫。俺が手本見せてやるから。ちょっと見てろ」
そう言うと、ブーちゃんはコンビニ前でゴミを漁っている、不潔なおじさんの元へ走り、あたしに甘えてくる時と同じ、甘い声で鳴いた。
「あーネコちゃんかぁ。お前お腹空いてるんか?今日はこれしかないんや。ごめんなぁ」
おじさんは、古びたジャケットのポケットからパンの耳を取り出し、地べたに置いた。
それを咥えたブーちゃんは、こちらに帰ると、いったんパンの耳を地面におき、悪人面を浮かべて、淡々と話す。
「いやぁ楽勝楽勝。野良猫歴十年の俺が選ぶカモ人間ランキング一位が、ホームレスのおっさんなんだけどさ、あいつらだいたい寂しい思いしてるからさ、俺みたいな可愛いネコが近づいて甘えてやったら、だいたいメシくれるんだよ。」
「ちょっと何その陰湿なランキング!?」
「陰湿言うな生きるためだ!ちなみに二位が女子小学生。母性本能てやつ?が芽生え始めてるんか知らんけど、笑顔で駄菓子とかくれるカモな子が多い。」
「ちょっと待って。あたしとブーちゃんが出会ったのって確か小学校の頃だよね。じゃああたしのことカモだと思って近寄ってきたってこと?」
「いや、そんなわけ・・・。フハハッ」
「今笑ったでしょ!!絶対カモだと思ってたじゃん!あーあマジサイテー。見損なっちゃったな~」
「まあそう怒んなって。雨降って痔が治るって言うだろ?だから仲直りしようぜ」
「雨降って痔が治るなら痔の薬要らないから!なんで母性本能知っててこれは間違えるのよ」
「あーまたミスったかぁ。さっき言った元飼い主がさ、自分のことだいたい理系だから。って説明してたからなあ。俺の語彙力伸びねえのそのせいかも」
「だからネコって奴はこういう生き物とかいって誤魔化してたのか!ほんっと、今まで可愛がってきて損した気分」
「ちなみに元飼い主様が言うには、女の八割は、生き物を可愛がるあたしカワイイでしょ!見て見て!とか考える自己顕示欲強めのぶりっ子メンヘラちゃんだって言ってたからそれに基づいて──」
「だれがメンヘラじゃ!」
バシッ!!
「痛い!ネコパンチの威力ましとる!」