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秋雨  作者: 桜田環奈
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夏終わりて


冬休みを迎える頃には、


ほとんどの生徒が内定をもらい、


卒業制作も何とか無事に終わり、


就職が決まっている生徒の中には


インターンシップとして既に仕事をはじめている生徒もいた。



「先生、冬休みはさすがに休みでしょ?」



ヒラケイも例外でなくインターンシップで、


冬休み明けはほとんど登校しない予定だった。



「25日までは学校来てるよ、


それからは年明け4日まで休みだけどね。」



昨日までクリスマスムードだった街中は、


たった一日で年末モードで、


先生達と忘年会で少し飲み過ぎたせいか


22時を回る頃に同じく忘年会終わりの友人と合流し、


行ったこともないお洒落なバーにでも行ってみようと


普段よりワントーン高い笑い声をあげながら


賑やかな街を歩く。


視界がユラユラ揺れるのは、


きっと酔っているからだろうと認識しながらも、


今日くらいは羽目外したって、と笑い合う。


学校からは1時間以上も離れた場所だし、


どこか安心していた。



「イケメンがあんたの事見てるけど知り合い?」



ビニールカーテンのひかれたオープンテラスのバー。


外の通りからは中の様子がよく見える。


通りに背中を向けて座る私と向かい合って座る友人、


菜々子は大きな目が既に座っていた。



「イケメンの知り合いなんているわけないでしょ。」



ヘラヘラ笑いながら振り返る私の目もまた座っていたと思う。


カーテンを開けて中へと入ってきた姿を見て、


一瞬背筋が伸び、少しでも平然を装おうと本能的に動く。



「やっぱり。


絶対先生だと思った、俺、見間違うはずないし。」



外は真冬で、どれだけ寒いのか、


赤らんだ頬を見るだけですぐに分かった。



「お願いー、見逃してー。


見なかった事にして、ほら、帰って帰って。」



椅子を引き、置いていた鞄を下のカゴに入れると


上着を脱ぎながら座るヒラケイ。


いくら平然を装ってもいきなりアルコールは抜けない。


呂律こそ回っているものの、


ワントーン上がったいつもより少し大きい声、


座った目にテーブルについた肘。


ヒラケイは私の顔を見ると声を上げて笑った。



「見逃してって、先生未成年じゃねーし。


そもそも飲んでもいい年だから。」



近付いてきた店員にグラスを一つ追加すると、


半分ばかり残っている赤ワインのボトルを指差す。



「あ、郁先生の生徒で、俺、平木です。


ご一緒してもいいっすか?」



同じく酔っ払っていて気の良い菜々子は、


グラスを運んできた店員からそれを受け取ると、


グラスいっぱいにワインを注ぎ、もちろん、と


ヒラケイに手渡した。



「待って、待って、未成年って事ないよね?」



「先月で二十歳になった。」



カチン、と小さな音を鳴らしてグラスを合わせた。


時計は23時30分を回ったところで、


前に座る菜々子はニヤニヤとタチの悪い笑みを浮かべ、


私は一旦思考を停止させて、


グラスに残るワインを飲み干した。



「バイトの居酒屋がそこで、


家がここから少し行ったとこなんすよ。


あの角曲がった所に自転車止めてて。


そしたら先生がいたから、つい、ラッキーって。」



「…ご馳走してもらえる、って?


なかなか賢いね、平木くん。」



菜々子はアハハ!と声を上げて笑った。


そして私と菜々子もこの近くのマンションに住んでいて、


帰りはタクシーでどちらかの家に帰る予定な事、


高校からの同級生だという事、


過去に一度同じ人を好きになった事、


だけど結局どちらもうまくいかなかった事、


余計な事までペラペラと軽口を叩いた。



「先生って彼氏いないの?」



「あのね、先生だって、」



「いないいない、もう知る限り長らくいないよね、


郁は。


無駄に美人とかってよく言うじゃん?


郁はその、すごく美人ってわけじゃないんだよね。


でも、まぁそこそこっていうの?


なんて言うのかな、手が届きそうな感じ?


いけるかな?いけたらいいなって感じね。


だから、それなりに需要あんのよ。


でも、なんて言うかなー、もったいないね、


うん。それだ、もったいない。」




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