隙
「何作んの?」
「んー、適当に、軽くおつまみになるもの。」
部屋に上がってから一度も目を合わせてない。
それにヒラケイはとっくに気付いてる。
そして、そんな私に苛立ってる。
買い物袋をとりあえずキッチンに置くと、
長い髪を後ろで一つに束ねた。
さっさとキッチンに入ってしまい、
何か話す前に調理をはじめる。
その間ヒラケイはリビングでテレビを見ていて、
特に会話する事もなかった。
時折、今の見た?と笑い声をあげて聞いたけど、
見てない、とだけ答えた。
1時間ほどたっただろうか。
テーブルにズラッと作ったものを並べて、
スマホの画面を見ると、
京太から今会社出たからと連絡が入っていた。
スマホを置き、
束ねた髪を解くとそのまま緩く抱き締められた。
ほらね。だから嫌なんだ。
「離して、京太帰ってきちゃう。」
ヒラケイが苛立っている事を忘れてた訳じゃない。
「じゃぁ、なんで、隙作んの?
本当に嫌ならもっと抵抗して拒否すればいい。
一切受け入れず、軽蔑すればいいのに、
先生さぁ、本当、ずるいわ。」
返す言葉がなかった。その通りだったから。
本当に嫌なら隙作んなきゃいい。
ノコノコ来なきゃいいし、
簡単に抱き締められなきゃいい。
「なんで、泣くかな。俺、自惚れてんの?
先生、俺の事好きなんだよね?
あの時からずっと、
どうしたって先生は俺の事好きだとしか、
思えないんだって。」
ヒラケイはきつい口調で、珍しく、
大きめの声でそう言うと、
何か答えようとする前に既に唇を塞がれていた。




