講師の仕事
「郁せんせーい!明日からの夏休みどうすんの?」
専門学校の講師は小中高校の教師と違って、
教員免許はいらない。
生徒との関係性や距離感もどこか違っていて、
「先生」ではあるけれど、
友達や先輩、お姉ちゃんのような存在でもある。
生徒の事を名字に君さん付けで呼ぶだけじゃなくて、
その子のキャラクターに合わせてあだ名で呼ぶ事や、
私の事も「城ノ戸先生」ではなく「郁先生」と呼ぶ事。
行事も見守るのではなく一緒に作り上げる。
だけど仕事の厳しさ、夢だけではない現実、
それでも夢を追いかける事、現場のリアルな声、
自分の経験を授業の中で知識と一緒に学ばせる。
「あのねー。先生に夏休みなんてないの!
就活で学校来る子も多いし、
企業訪問に付き合う事もあるし、
お盆以外は毎日学校にいるよ。」
この間までは金髪だったのに就活の為に黒くした髪が、
まだ見慣れない。
エントリーシートをヒラヒラと揺らして見せながら、
「夏休み中も来まーす」とクスクス笑う顔を見ると、
自然とこっちも顔が緩む。
「オッケー、頑張ろうね。」
コツコツとヒールを鳴らして、
フリールームから出て行く姿を数年前の自分と重ねた。
「郁せんせっ」
ウエディング業界はまだまだ女性社会。
マネージャー以上の人間は男性が多いものの、
ウエディングプランナーともなればほとんどが女性。
だけど、保育士や看護師同様に、
男性プランナーももちろん存在する。
そして、それに憧れる男子学生ももちろんいる。
平木 慶太。
2クラス、50名のブライダル科の中で3人の男子生徒の内の1人。
まさに、世間一般で言うイケメン。
ブライダル科以外の女子生徒からも人気らしく、
入学したての頃は講師の耳に入る程
それはまぁ、それなりの騒ぎだった。
「ヒラケイも就活?」
クラス内外でそう呼ばれている、平木のアダ名。
「そう、なんだけど。
先生が前に働いてた式場なんだけど。
先生の知り合いの人とかがいるなら、
式場見学させてもらえないかなーと思って。」
新卒採用を好まない所は少なくない。
入れ替わりの激しい業界だけに即戦力が欲しい。
特にその理念が強い所が前職場だった。