白い封筒
「先生っ、絶対学校遊びに来るから…
郁先生が担任で本当良かったよー…」
涙ながらにそう言ってくれたのは何人目だろう。
初めて自分が担当した生徒達が卒業していく姿は
感慨深くて式中は涙が止まらなかった。
先輩講師には私もそうだったと笑われた。
式後の謝恩会も終わりが近付き、
代わる代わるにやってくる生徒達は
綺麗にドレスアップしていて、
これからはじまる新生活への不安と期待で
キラキラして見えた。
「先生、ありがとう。
はい、これ。」
あれから、あの風邪をひいた前の日から、
ヒラケイとは前みたいに他愛のない話しをする事も
好きだとか、そんな話しをする事もなかった。
と、いうより、インターンシップ中のヒラケイが
あまり学校に来ていなかったから
会わなかったという方が正確かもしれない。
あどけなく笑ったヒラケイに手渡されたのは、
今時律儀に白い封筒で、
ヒラケイらしい丁寧な字で「郁先生へ」
と書かれた手紙だった。
ありがとう、と受け取ったまま手持ちの鞄に仕舞う。
「帰ってから読むね、これから頑張ってね。」
もう、会うつもりも、ましてやどうこうなるつもりも
さらさらなかった。
だって、私の生徒だから。
法で裁かれる事はない。
相手は二十歳を過ぎている。
だけど世間に許される事はない。
学費を支払って一人暮らしまでさせて
通わせてる親の気持ちを考えるといたたまれない。
自分が逆の立場なら許す筈がない。
それが分からない子供じゃない、分別はちゃんとつく。
会わない時間が、講師という立場が、
私を冷静にさせたんだと思う。
いや、冷静でなくてはいけない。




