長く秘めた恋の結末
誰もが何度か過去に戻りたいと思ったことはないだろうか。
もしそんなことなんてなかったとしても自分にはある。
過去に戻りたいと。
「疲れた」
自分は十九歳という年齢で仕事を始めて約一年半が過ぎた。そして今自分は仕事から帰りベットで寝転がっている。一年半も仕事をして体は慣れたかと思えば中々慣れずいつもこうやって帰ってきたらベットで横たわってしまう。もういつもの癖としてしょうがないと思っている。でも仕事の時にしかならないスマホから一通の通知が来た。
『明後日ってお前来るよな』
自分は最初にこの通知を見て何もわからなかったがスマホのパスワードを解き画面を見たら伊芳という中学の友達が何を言っているのかが分かった。
「成人式か……」
自分は成人式というフレーズを聞くと一人の子の顔が浮かんだ。井瀬のか(いらい のか)。それは自分が小学校から中学まで過ごしてきた中で一番記憶に残っている女子だった。
「あの頃に戻りたいな」
今思えば……嫌、自分は今でも彼女のことが好きだといいたくなるほど記憶がたくさん残っている。彼女との思い出がたくさん残っているのが小学六年生のころだ。あの時は無邪気に恋をして遊んで楽しかった記憶がある。でも彼女と楽しく話せたのは小学六年生の時だけでそれからは話さなくて高校でお互い離れてそれっきりだった。そのせいかたまに小学六年のころに戻りたいと思う時がある。あれから五年という月日が経ってやっとできたチャンス。
「よし、まずはどこに集合なのかを確認しないと」
これをものにせずどうするという思いが芽生え自分はベットから立ち上がり明後日の準備をし始めた。
そして成人式。
「場所は……ここでいいのか?」
自分は集合場所があっているのかを確認するためにスマホを手に取り出した。でもその手はなぜが小刻みに震えていた。五年ぶりという歳が経って久々に見れる中学の人と自分の好きな人。そのことに嬉しさが隠せないのだろう。あの時に言えなかった思いを秘めているから。
「よう。久しぶりだな」
そういって僕に声をかけてきたのは伊芳だった。
「久しぶりだな伊芳」
そして伊芳と恒例行事とも言える中学から別れてからの思い出を話し合っていると人が続々と集まってきていた。
「あっ」
「どうした?」
「いや何でもない」
話している途中であったが自分はのかの和服を着た姿を見て思わず声を出してしまった。自分が急に声を出したことによって伊芳はびっくりしていたが何でもないと言って話の続きをしていた。でも伊芳の話を聞いていられる場合ではなかった。五年も見ていなかったのかの顔。自分はそれを見ただけで幸せだった。きれいな顔立ち、和服からでもわかる体の形、中学のころと変わらないショートの髪型。あの時とは少し変わっているところもあったがこっちののかも可愛いかった。
「じゃあ一軒目行きますか」
挨拶という恒例行事が終わっていき仕事などで帰っていく人も少しいたが自分は残りクラスのとこには必ず一人はいる指揮をしてくれる人の先導によって店屋に行くことになった。
ちなみにのかも行く。そしてついた店は当然の通り居酒屋だった。
「ビールはどうする?」
「ビールは飲めない」
「そっか」
そして恒例行事続きで飽きてきそうだが無駄に長い祝辞。
「「乾杯!」」
そういってみんなはグラスを一斉に奏でた。運がよかったのか席が近くてのかともグラスを奏でることができた。お互いお茶だけど。
そしていろいろと自分たちが経験してきた思い出話が始まり酒に酔った伊芳が昔の僕の恋の話をのかがいる前で言った。
「そういえばこいつに頼まれて告白したことってあったよな。あの時は正直ビビったぜ。だってころころと好きな人が変わっていくやつが初めての告白をするのに人を使うなんてっな」
人は酒を飲むと変わるってこういうことなんだな。伊芳の言った言葉に何やら空気が重くなっていくのを感じた。でも伊芳の言っていることは一部本当のことだ。自分は何回も好きな人がころころと変わり告白もせず好きな人を変えていた。今回も告白をしようとする気はなかったけど伊芳が勝手に告白をして振られて、自分はこれをノーカウントって思ってるけど相手にとってはそんなわけにはなくて五年経ってまた告白するのって気持ち悪いよな。この思いは自分のうちにとどめておくのが一番かもな。そう決心した時だった。
「ちょっと気分が悪くなったから帰るね」
とのかがそういってこの場を立ち去ろうとした。自分はそれを当然だと思い何も言わず見送った。でもそのあとに空気はますます悪くなるかと思いきや自分の周りにいた中学の人たちがにやりと笑みを浮かべてこっちを見てきた。
「行って来いよ。結構な賭けになるけど五年分の思いを伝えに言ってやれ」
酔っていたかと思っていた伊芳も笑みを浮かべて自分を応援するような言葉を言った。なんで今でものかのことが好きだということがばれていたのかは知らないが絶好のチャンスには間違いなかった。
「確かに賭けだけど行ってくる」
自分がそういうと周りの人は自分に応援の言葉などを送ってそれを聞きながらのかを追いかけた。
「のかさん!」
「何?」
のかはすぐに帰ったかと思ったが迎えを待っているのか近くにいて安心した。呼んだはいいけど少し怒り気味だしどう話をしたら……。
「用がないならどっかいって」
「用なんてたくさんあります」
「えっ?」
つい言ってしまった。久しぶりに話せたとは言えのか相手だと調子が狂う。
「黙ってないで言いいなさいよ」
「実は……今更かもしれないけど好きです」
「……」
「……」
自分が発言した後にのかは黙ってしまい少し重い空気になってしまった。でも自分は伝えたいことがまだあり物足りなかった。
「のかさんは覚えていないかもしれないけど、小学六年生の時覚えていますか?あの時のかさんと隣の席で自分が訳の分からない物知り本を持ってきて朝の時間に問題を出して遊んでましたよね。その時すごく楽しくてきもいと思いますけどずっとその記憶がほかのことよりも残っているんですよ」
もう自分では抑えきれなかった。人とは一度口に出してしまったものは全部言うまでは収まらないらしい。もし違ったとしても自分は後悔なんてしなかった。それに逆にどんな答えが来てもいいと思った。
「そんなの覚えてないし、もう話しかけないで」
そういってのかは歩いて行った。でも歩いているときに一瞬だけ見えたのかの顔には涙らしきものが見えた。のかには話しかけるなと言われた僕だがそう簡単に引き下がるわけにはいかなかった。
「じゃあ、車が来るまでだったら一人ごとをつぶやいてもいい?」
「好きにしたら」
「それじゃあ。のかと高校が離れ離れになって大げさだと思うけど時が止まったような感じな毎日だった
んだ。でも今日伝えたかったことが伝えられて時が動いたみたいな感じがしたんだ。ありがとう。これからの人生で二番目にいい思い出になりそうだよ」
そしてのかの迎えの車が来てそれにのかは乗り出していた。僕はこのままでいいのかとまた自分に問いかけた。そして答えは即答だった。
「のかさん。最後に問題。ガラスの原料は何でしょう?」
「ケイ砂、石炭、ソーダ灰」
「五年経った今でも僕のくだらない話を聞いてくれてありがとう」
「……次あうときはのかさんじゃなくてのかって言ってね」
のかは僕の方を振り返り涙を流したまま車に乗り、自分の家に帰っていった。