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変則的な恋煩い  作者: 青木りよこ
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2/3

シフォンケーキ

コンテストのために入念な打ち合わせをしたいと佐藤司が言ったため、俺は部活が休みの日曜、近所の北野神社の門の前にいる。

面倒だが、家から出るので、一応Tシャツとジーパンに着替えた。

待ち合わせは十三時だが、家が近いため早くつきすぎた。

最悪だ。

何か楽しみにしているみたいじゃないか。


女子を家に入れるのは初めてだ。

というより、部屋に翔太と祖母以外入れたことがない。

お互い運動部なため、放課後は部活で忙しく、直接話すのは屋上以来になる。

ラインの交換はしたが、しっかり設定を練りたいと言うので、家に招くこととなった。

佐藤司は家に来る?と聞いてくれたが、家族がいると言うので、遠慮させてもらった。

他人の家に行くだけでも嫌なのに、本当は付き合ってもいない女子の家族に挨拶するなど、俺にできるわけがないし、俺は飲食店というものが嫌いなので、結局自分の家の自分の部屋が一番落ち着くのと、祖母が叔母の所に行っているため留守なので、彼女を招き入れるため、朝から家中を掃除する羽目になった。

別に見栄を張ったわけじゃない。

礼儀だ。

俺は基本的には常識は備えているつもりなのだ。


「ごめんね、遅かった?」

「嫌」


スマホを見ると十二時五十分。

五分前行動は基本だから、合格でいいだろう。

佐藤司は白いワンピースに黒いカーディガンを羽織っていた。

女子の服など興味もないし、よくわからないが、長い腰までの黒髪を学校では耳の下で二つに結んでいるのだが今日は下していて可愛いと思った。


「大きなお家だね」

「古いだけだ」

「本当にお邪魔していいの?」

「ああ、誰もいないし」


佐藤司を家に入れた。

何かされると勘違いされたら困るので、台所に案内する。


「高峯君、これ、つまらないものだけど」


そう言って佐藤司は白い紙袋をトートバックから出した。

中には透明なセロファンの袋に赤いリボンでラッピングされたシフォンケーキが入っていた。

俺は甘いものが大好きなので、このホールケーキは嬉しく、素直にありがとうと礼を言った。


「良かった、甘いの好き?」

「ああ」

「でも、高峯君一人ならこんなに食べられないかな?」

「嫌、大丈夫。余裕だ。心配しないでくれ、ウーロン茶でいいか?」

「うん、ありがとう」


冷蔵庫からペットボトルのウーロン茶を出し、グラスに注ぎ、佐藤司にシフォンケーキを切ってもらい、二人で食べた。

台所には俺と祖母が食事をするための椅子が二脚しかなく、残念ながら向かい合う形になってしまってはいるが、ケーキが美味いのであまり気にならない。

せっかく持ってきてくれたのだから、感想を言わなければ悪いと思ったので、俺は美味いと褒めた。


「本当?良かった」

「ああ、本当に美味い」

「良かった。高峯君、手作りとか嫌がるかなあって思って、心配だったんだよ」

「あんたが作ったのか?」

「うん」

「そうか、大変だっただろ?悪かったな」

「ううん、全然。家にあるもので簡単に作れるから」

「そうなのか?」

「うん、卵とお砂糖とサラダ油とお水と薄力粉があったら作れるよ」

「へー」

「生クリームとか持って来たら良かったね」

「嫌、このままで十分美味い」

「そう?」

「ああ、すごいな、あんた。料理できるんだな」

「これ、お料理かなあ」

「料理だろ、開けてすぐ食べれないなら、それは料理だ」

「カップヌードルも?」

「お湯淹れるからな、料理だ」

「結構ハードル低いんだね」

「そうか?」

「うん、高峯君のお嫁さんになる人、楽だね」


俺は話の流れが拙い方向に行くのを避けるため、ずっと気になってはいたが、ラインじゃ聞けなかったことを聞いてみた。

あれからずっと謎だったのだ。


「どうして俺なんだ?」

「え?」

「え?じゃない、どうして俺に頼んだんだ?彼氏」

「えーっと、まず優勝できそうなのとー」

「と?」

「高峯君だったら、コンテスト終わった後付き合わなくて済むだろうなーって」

「は?」

「だって、高峯君、その、女の子っていうか、人間に興味なさそうだから」

「そうか」


よくわかったなと言ってやろうかと思ったが、癪なのでやめておいた。

それに佐藤司が俺に本当に興味がないと言うのに、多少驚いたし、安心した。

俺も彼女と付き合う気なんかさらさらない。


「エントリーシート書きたいんだけど、高峯君ゲームやりながらでいいよ」

「は?」

「いつもお昼休み、やってるでしょ?」

「ああ、まあ」

「私書くから、質問したら答えてね」

「別にさっきまでやってたし」

「でも、お昼休み、田中君がずっと喋ってて、高峯君ずっとゲームしてるよね、今日せっかくお休みなんだから、ずっとやってたいんじゃないの?」


相手がもう空気のような翔太ならそれでいいかもしれないが、俺はまだこの女を完全に信用したわけじゃない。

彼女はいても気にならないような人間ではないし、テーブルを挟んではいるが、何かの拍子に距離を詰められたら困るので、一応警戒は解かないでおきたい。


「ゲームはいい、変な事書かれたら困るからな、俺も書く」

「そう?じゃあね、私達の出会いなんだけど、何か運命的な感じのない?」

「運命的?」

「うん、高峯君が私を痴漢から助けてくれたとか」

「あんた電車通学か?」

「ううん、徒歩。家学校の近くだし」

「俺も徒歩だ、それに俺は電車が嫌いだ。満員電車なんて、考えただけでもぞっとする」

「うーん、じゃあ、私が不良に絡まれているとこを助けてくれたとか」

「このド田舎でか?不良とか見たことないぞ」

「確かにないねー、じゃあ、どうしよう?」

「普通に同じクラスなんだから、二年生になってクラスが一緒になって、意気投合でいいんじゃないのか」

「私達意気投合しそう?」

「嫌」

「部活も違うから接点全然ないよね?」

「ないな、あんたはバレー部だったか?」

「うん、高峯君剣道部でしょ?共通の知り合いもいないし」

「いないな」

「じゃあ、雨の日に傘を持ってきてなかった高峯君に、私が折り畳み傘を貸してあげたってのは?」

「俺部室に置き傘してるから、濡れるの嫌いだし」

「困ったね、じゃあ、出会いは後で考えるとして、告白は高峯君からでいい?」

「は?嫌に決まってるだろ」

「私から言ったことにするの?女の子から?」

「男女平等だろ、俺があんたに何ていうんだ?」

「普通に好きです。付き合ってくださいでいいんだけど」

「絶対に嫌だ」

「えー、普通男の子から言ってくれるんじゃないの?」

「俺がこの顔で言うと思うか?」

「うーん、確かに、じゃあこれも後にして、お互いの好きなところは?」

「それは簡単だ。顔」

「顔?まあ私の場合はそれでいいだろうけど、高峯君はどうするの?」

「お互い顔でいいだろ、あんたはそこそこ可愛い」

「可愛い?」

「まあ、そこそこ」

「そこそこ?」


俺は頬杖を突き、彼女の方を見ないようにしていたのだが、黒い大きな瞳が自分を見つめているのだけはわかった。

その瞳がきらきらと輝いていることも。


「料理」

「え?」

「料理でいいだろ、胃袋を掴まれましたってことで」

「シフォンケーキで?」

「立派な料理だろ、それでいい」

「うん、じゃあ、それで」


その後、お互いの家族構成と身長と生年月日と血液型を教え合った。

血液型は同じ。

誕生日も十二月で近い。

そして同じソシャゲをしていることも判明し、お互いフレンド枠が一つ余っていたので、フレンド登録して、二十一時からのゲームのボーナスタイムで会う約束をし、佐藤司は帰っていった。

二十時五十分になると何故かそわそわした。

ゲーム内で佐藤司を見つけたので、いつもは送らないゲーム内で送れるスタンプを取りあえず送ったら、戦闘が終わったわけでもないのにお疲れさまと来た。

その素っ気なさに不思議なほど物足りなさを感じている自分がいて、少し驚いた。

ボーナスタイムが終わったので、ラインを開くと佐藤司から明日お弁当を作っていくので菓子パンは買わないでくださいと来ていたので、わかったとだけ返事した。


次の日高月渚は本当に弁当を作ってきてくれたが、一緒に食べたりはしなかった。

翔太にだけは事情を説明したが、十万円のアイフォンカードの話をすると少しも驚かず、良かったねと言ってくれた。

佐藤司と家族構成の話になったとき、土曜日から二週間の予定で祖母が大阪にいる叔母の出産のため家を留守にしていることを話す羽目になってしまった。

その際ご飯はどうしてるの?と聞かれたので、夜は翔太のお母さんがおかずを届けてくれるから心配ないと言った。

お昼は?と聞かれたので菓子パンでいいと言う話をした。

その時はそれで済んだが、夜ラインでお弁当を作っていくと宣言されてしまった。

正直面倒だと思ったが、多分慣れないことをして疲れ果て、思考回路が鈍っていたのだろう。

わかったと二つ返事でオーケーしてしまった。

なんたる不覚。

その日から祖母が帰ってくるまで二週間毎日弁当を作って来てくれた。

佐藤司は母親が介護の仕事をしていて、勤務時間が不規則なため、食事の用意はいつも彼女がしているらしく、弁当も四人分も五人分も一緒だから気にしないでと言っていた。

彼女の作る弁当は美味く、卵料理にしても、普通のだし巻き卵だったり、チーズを巻いてみたり、ソーセージを巻いてみたり、もやしやほうれん草を巻いてみたり、茹で卵にして醤油で煮てくれたりと、毎日同じ味にならないようにしてくれた。

俺が特に美味いと思ったのは夕飯の肉じゃがを多めに作って、残りをコロッケにした肉じゃがコロッケだ。

これが実に美味く、もう一度食べたいと言って、わざわざ作って来てもらった。

祖母が帰ってからこの弁当が食べられなくなるのが酷く残念だったので、それを率直に言った。

勿論直接じゃない、ラインで。

すると小さなお弁当箱におかずだけ詰め込んだのを持参してくれるようになった。

俺は運動部で腹はいくらでも減るのでこれは有り難かった。

こう毎日毎日じゃあ、流石に俺も気が引けるので、帰り道(付き合っていることを彼女の友人達に公表した手前毎日彼女を家まで送ることになったのだ)何か欲しいものはないかと聞いてみたら、コンテストの前に一度デートしてみたいと言われた。

やられたと思った。

それが作戦だったのだろうか。

俺は確かに胃袋だけは掴まれていた。

胃袋だけ、だが。


「ダメ?」

「嫌、いいだろう。どこに行きたい?」

「どこでもいいよ、高峯君の行きたい所で」


そんなものはない。

俺ははっきり言って出かけるのが嫌いだ。

出なくていいのなら、一生自分の部屋から出たくない。

自分の部屋に呼んで、適当に菓子でも食べて、二人でゲームでもしてたらいいと思ったが、祖母が帰って来た今となってはそれもできない。

苦渋の決断だが、出かけるしかあるまいという結論に落ち着いた。


「わかった、考えておく」

「うん、じゃあ、また、夜、ね」

「ああ」


俺は電車が嫌いだが、休日の朝早くない時間帯で、彦根から乗る人間なんてたかが知れているからそうこまないだろう。

彦根じゃ行くところなんてないしと、滋賀県 デートスポットを検索し、滋賀人気デートスポット二十選に一番に彦根城が出てきたのを見て、何をやっているんだとうんざりし、スマホをベッドに投げ、風呂に入った。

風呂から上がりラインを開くと、佐藤司から明日のお弁当しその入った鶏つくねだよと来ていたので、蓮根入りかと返したら、すぐに、いっぱいいれるねと返ってきた。

前食べた時、蓮根がしゃきしゃきしてて美味しいと褒めたのだ。

ボーナスタイムを終え、俺は再び忌まわしい滋賀デートスポットを調べた。

正直どこも興味はもてなかったが、三井寺力餅は食べてみたいと思った。

もう、佐藤に決めてもらおうと、俺は眠ることにした。

俺の行きたい所と佐藤は言ったが、俺に行きたい所なんかない。

でも佐藤が行きたいなら付いていってやるくらいなら嫌ではない。

それくらいのことを佐藤は俺にしてくれているし、まあ一回くらいいいだろう。

コンテストはもうすぐで、この関係も、もう終わりに近づいているのだから。









































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