第五十二話 掴み取った物
お待たせしました!
六章も今回の話で最後、ザナトスとの決着編第五十二話。
戦いが終わり、いったんすべてが白紙になった紅魔は、ここからどうするのか……?
そしてリィスが辿る運命はいかに……。
「……もう俺はつっこまねえぞ。なんとでも言いやがれ」(by紅魔)
では、どうぞお楽しみください!
「……あれ? ここは……どこ?」
「ようやく目覚めたわね。体に異常はない?」
この声は……シオンお姉ちゃんの声?
そして私の背中にある柔らかい感触は……お布団?
「ここ……医務室なの?」
「そうよ。コウに頼まれて貴方の面倒を見るよう言われてたの。言った本人は今眠っているけどね……」
「コウ? もしかして、お兄ちゃんの事?」
「……あの時から思っていたけど、なんでお兄ちゃんって呼んでるの? 貴方そういうキャラじゃないでしょ」
「別にいいじゃん。私の勝手でしょ」
シオンお姉ちゃんに言えるわけないじゃん。
私が誰かに恋……恋愛感情を抱いたなんて。私、こういうのどうしたらいいかわかんないし。
「それと、コウからの伝言。助けてくれてありがとう、だって」
「お兄ちゃんから……」
「……あと、私も貴方に感謝しているわ。ありがとう、リィス。貴方がいなかったら、コウは死んでいた。コウ自身もそう思っていたらしいわ」
「……別に大したことはしてないよ。途中から戦闘不能になってたし……。でも、そっか……」
えへへ……。私、お兄ちゃんから感謝されてるのかぁ……。
もしかしたら、『御礼』として何かお願い聞いてもらえるのかな。いつか読んだ本みたい感じに。
何をお願いしようかな。二回目会った時のお出かけの続きをするのもいいなぁ。
「これから私、コウの所に行くんだけど……。一緒に来る?」
「いいの? 私の事、敵だと思ってたんじゃ……」
「いいんじゃない? 少なくとも、私とコウは貴方の事を信用しているから」
「……そっか」
私は、まだ若干痛む体を支えられながら起き上がる。
シオン姉ちゃんに手を引かれながら、お兄ちゃんの待つ部屋へゆっくりと歩いて行った。
「……お姉ちゃんはさ。ザナトス……様が持っている【メモリ・チェンジ】っていう魔道具の事知ってる?」
「【メモリ・チェンジ】……⁈ 何かしらの物を使っているとは思っていたけど、まさか禁具とされている物を使っていたなんて……!」
やっぱり、シオンお姉ちゃんでも把握してなかったんだ。
ということは、あの事も……。
「それでね、ザナトス様はその機械にある改造をして……。本来なら、機械にある装置で止められるんだけど……その機能を無くした【メモリ・チェンジ】を使ったの」
「ちょっと貴方、それ本気で言っているの⁈」
ふぇ?
なんか急にシオンお姉ちゃんの顔が怖くなったけど……。ザナトス様がした事は悪い事なのかな?
なんというか、女の子がしちゃいけない表情してる……。
「魔道具の改造は帝都では禁じられているのよ⁈ それが貴族、しかも皇太子がやってるって……」
「き、禁じられている? そうなの?」
「……逆になんで知らないのよ。元でもあいつの暗部なんでしょう、貴方」
「私、任務の事以外は何も教えて貰えてなくって……。帝都の何処かに魔道具に関しての本があるから取って来いって言われた時に知ったぐらいで……」
「……なんというか、貴方の境遇に少し同情を覚えたわ……」
今度は私の事を哀れんでいるような視線を向けて来ている。
ころころ表情が変わってて面白い。劇場で見た役者さんみたいだ。
「まさかとは思うけど、幾億分の彼方にある可能性に賭けて聞いてみるけど……コウはその事知らないわよね?」
「う~ん……。【マインド・レター】で途中からしか知らないけど、あの時のお兄ちゃんの表情からして多分知っていると思うな。ザナトス様が喋ったんだろうけど」
「もういいわ……。何となくそんな気はしてたから」
あ、やっぱりシオンお姉ちゃんもそういう考えに至ってたんだ。
ずっとザナトス様のそばにいたからなぁ~……。なんとなく性格が読めてるんだろうなぁ。
まぁ、私から見ても性格だけは屑の部類に入っているとは思ってたけど。
「……着いたわね。ここがコウのいる部屋よ」
「ありがとう……って、お姉ちゃんは中に入らないの?」
「貴方が起きる二日前にコウが起きてね。『リィスが起きたら連れて来てください。二人で話たい事があるので』と言われてるから」
「お、お兄ちゃんが?」
「そうよ。だからとっとと行きなさい。この時間だったらもう起きているはずだから」
そんな事急に言われても……。心の準備っていうものがあると思うんだけど……。
……でも、なんでこんなに緊張しているのかなぁ。あの時は、こんな思いしなかったのに。
別の意味では緊張していたけど。
「……じゃあ、行ってくるね」
何故か重い気分になりながら、私は扉を開けた。
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……目が覚めた時には、病院でよくある天井の景色が広がっていた。
意識を失う前に嗅いだ血の匂いはしてなく、どこかいい香りがこの部屋を包んでいる。
「……そうか、俺、まだ療養中だったな……」
目が覚めたのは確か二日前。同じ事を何度も感じているあたり、相当気が参っているらしい。
俺にはまだやることが山積みだっていうのに……。
「いつつ……。傷もまだ塞がり切っていない、と……」
シオンさんの話によると、生きているのが不思議なくらいだと医者に言われたみたいだ。
多分、リィスからもらった回復薬のおかげだろう。あれが無ければ本当に死んでいた。
……というか、異世界の医療って凄いな。致命傷な気してたけど、あっという間に治るって……。
「……お兄ちゃん? 中に入るね……」
「……はい?」
お兄ちゃん? 誰だ、こんな時間に入ってくるのは……。
シオンさん達じゃないな。俺の事お兄ちゃんって呼ばないし。というか、呼んだら呼んだでなんか変な感じ
するし。
ということは……。
「リィス……か?」
「そうだよ、お兄ちゃん。体の傷は大丈夫なの?」
「なんとかな。というかそれはお互い様だろう? リィスの方こそ、大丈夫なのか?」
「全然平気だよ!」
「……そうか」
「うみゅ……。きゅ、急にどうしたの、お兄ちゃん」
「悪い……しばらくさせてくれ」
「い、嫌じゃないから全然大丈夫だよ!」
気づいたら、俺はリィスの頭をしきりに撫でていた。いや、頭がそうした方が良いと言っている。
リィスは大丈夫と言っていたが、俺はそれを嘘だと思っている。
(ここに来るまであんだけふらついていて……何が大丈夫だよ)
頭を撫でると、リィスは気持ちよさそうに目を細めてくる。
しまいには、俺の手を掴んで自分で俺の手を動かしていた。
「リィスは強いんだな……」
「ん~? どうして~?」
「……いや、俺の独り言だ。気にしないでくれ」
「ふぅ~ん……。ところで、お話ってなに? お兄ちゃん!」
……あ、そう言えばそんな事言ったな、シオンさんに。
「あの時、助けに来てくれて本当にありがとな。リィスがいなければ、今の俺はいない」
「どういたしまして! でもお兄ちゃんも私を助けてくれたんでしょう?」
「……え?」
「だって、私にも回復薬の使用した形跡があったから。シオンお姉ちゃんには言ってないし、あの時使えたのはお兄ちゃんだけだから」
「凄いな、リィスは。何でもお見通しというわけか」
「ふふ~ん。伊達に暗部はやってないからね!」
胸を張る姿が可愛らしくて、俺は再びリィスの頭を撫でる。
……いいもんだな。妹みたいのがいるのって。
「……お話は終わりなの?」
「いや、まだある。その、だな……よかったら一緒に来ないか?」
「ど、どうして……?」
「ザナトスを裏切った今、居場所が無いと思ってな……。それに、俺個人としてリィスと一緒に居たいと思ったんだ。リィスは俺の『大切な人』だからな」
「……本気で言ってるの、お兄ちゃん。私、お兄ちゃんに嘘ついてたんだよ。だまして、危険な目にあわせて……。私の事、恨んでないの?」
「なんで俺がリィスの事を恨む必要があるんだ? 確かに嘘を吐いたのは良くないことかもしれない。でもそれは、ザナトスの命令でやった事なんだろ?」
「そ、そうだけど……」
「それに、リィスに何かされたってわけじゃないしな。むしろ楽しい時間をもらったよ」
何か気にしているみたいだから、明るい言葉をかけてみたけど……。
俺の本来の目的は、リィスをザナトスから切り離す事。勝手に俺が決めた事だが、その方が良いと思っている。
リィスが俺を助けに来た時は本当に驚いたが……。
「うっ……えぐっ……ひっぐ……」
「ど、どうしたんだ急に⁈」
「だ、だってぇ……!」
な、なんで泣き出しているんだリィスは⁈
この場合は一体どうすればいいんだ……。小さい子の面倒なんて見たことないから泣き止ませる方法とか分かんないぞ。
とりあえず、抱きしめて背中を撫でればいいのか?
なんか違う気がするが……。あと、誰かに見られたら通報されそう。
「私、お兄ちゃんに嫌われていると思っていたから……! ずっと、ずっと……!」
「リィス……」
……ああ、そういう事か。
小さい頃……リィスと同じ年頃に、俺も似た様な経験をしたことがある。
近所の子供と喧嘩して、仲直りせずに別れた日の夜。布団の中で同じ事を考えていた。
嫌われたんじゃないか、もう一緒に遊んでくれないのか……。
あの時は、自分から謝って解決した。でも、リィスのは俺のとは似て似つかぬもの。
しかもリィスの対象は俺だ。
だから、俺が答える、リィスにかける言葉はただ一つ。
「俺は、リィスの事嫌ってないよ。むしろリィスの事が好きだ。好きだから一緒に居たいと思える。共に今日を生きていこうと思えるし、必死に守りたいと思える……」
「お兄ちゃん……。わ、私もそう思うよ! お兄ちゃんの事が好きだから、失いたくない! ずっと一緒にいたい……!」
「……おいで、リィス」
「うう……うわああああああん!」
大量の涙を流しながら、リィスは俺の胸に飛び込んでくる。
涙や鼻水が布団や服にべっとりついていくが、そんなのどうだっていい。
俺には、リィスをここまで不安にさせた責任がある。リィスの気が済むまではこうしていてあげよう。
「よがっだ……。よがっだよぉ……!」
「……辛い思いをさせて悪かったな、リィス」
無邪気に泣きまくる少女の頭を、俺はあやすかのように優しく撫でる。
時刻はまだ昼下がり……だと思う。
一人の少女は、一つの幸福を掴み取った。
それが正しい事か悪い事かはお互いよくわかっていない。
だが俺は、目の前の少女を見て今はそんな事考えるのは野暮かなと感じる。
……とりあえず、早く泣き止んで欲しいな。さもないと、俺の服と布団のシーツとかが大変な事になるから……。
俺としては全然気にしないけど、掃除する人が大変だから……ね?
いかがでしたか?
今回のお話で、今までの章より断然長かった六章が終わりますが……。読者の皆様は楽しんでいただけたでしょうか?
この章は、紅魔の異世界譚に置いて重要な分岐点ともなる話でしたが……。
というか、この章のヒロインは後半から完全にリィスだったような気がします、個人的に。
皆さんはどの子がヒロインだと思いますか?
……って誰だ⁈ 私の事をロ〇コンと言ったのはぁ!
私はケモミミっ娘が大好きなだけだぁ!(作者の趣味思考大暴露)
……あれ? なんだろう、作者として何か大事な物を失った気が……。
まあ、いいや。(絶対に良くない)
この小説がここまで続いているのも、読者の皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!
これからも頑張っていきますので応援よろしくお願いします。
そしていつも読んで下さっている読者の皆様。本話もお読みくださりありがとうございます。
次回のお話でこの小説も第七章を迎えます。
もし、この小説がいいな~とか、好きだな~と感じましたら、感想、ブクマ、レビュー等してくださると嬉しいです!
では皆さん、次回の後書きでお会いしましょう!
桜咲くこの季節、読者の皆様に最高の出会いがあることをお祈りしています!