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第六話『呪いのうさちゃん』

第六話です。

今回、結構意味不明な感じの呪いが出てきちゃってます。

なんとか頑張って解説してもらいました。

では、どうぞ


※17.12.15

文章一部改訂しました




 ウサ耳少女が土下座をして自分を殴ってくれとせがんでくる。


 何を言ってるのかわからないと思うが、実際に起こっていることをそのまま説明するならばその一文に掛ける。

 というよりも事実なのだから、それ以上にも以下にも言い様がない。


「あのさ、何がどうなってんの?」


 あきれて、『初対面には思わず使っちゃう人間』であるユタカも敬語を話すのを忘れ、思わず素の口調で問いかける。


「わざとあなたを殴りました。仕返しに、私を殴ってください! お願いします!」


 ウサ耳少女の要望を改めて聞いてみても意味がわからなかった。

 いや、言っていることはわかるのだ。

 要するに、殴ったので殴り返してほしいのだ。

 地球には『右のほほを叩いたら左ほほを叩け』といったような格言がある。様な気がする。いや、ただの勘違いだった。


 宗教には疎いユタカは頭に思い浮かべたその言葉に違和感を持って、思考をやめた。改めてその場を理解しようと試みる。

 しかし、やはり理解ができないので問いかけることにした。


「えっと……、とりあえずなんで殴ったのかを聞いてもいい……ですか?」


 いつもの自分の口調(他人には敬語になっちゃう体質)を取り戻しつつユタカは少女に問いかける。


「はい! ワタクシ、卯人族うじんぞくのウサといいます!!」


 うさぎの種族だからウサ。

 なんと安直な名前かと思わず心の中で突っ込むユタカ。


「ワタクシ、呪いにかかってるのですよ! はい!」


 ずいぶんと明るい声で驚愕の事実を激白する少女。

 その頭をこすりながら言うため、もう痛みの感覚すらないんじゃないだろうか。


「いや、とりあえずさ、謝るにしても何をするにしてもさ、相手の顔を見て話さないですか?」


 ぶっしゃけ頭をこすり合わせながら話す姿が痛々しいというのもあるが、それよりもかわいい声を発する少女の顔が気になるところ。

 何より、ウサ耳少女なのだ。

 そう、ウサ耳少女なのだ。(大事なことなので二度言いました)


 バニーガールというセクシー衣装を内心嫌うユタカではあるが、ウサ耳が嫌いかといわれるとそうではない。

 兎の耳を付けた女の子はまぁかわいいかなとは思う。

 しかし、それをセクシーな衣装を見に付けさせることでなんか台無しな気を起こさせるのである。

 もちろんそれが男の性欲を駆り立てる衣装なのだろうが、ユタカは逆に萎えてしまって仕方が無い。


 と、長々とウサ耳について思考回路を回すユタカではあったが、結局のところ、


 ウサ耳が大好きなのだ。


 ネットに出る小説にほんのそうさくぶつによく出てくるウサ耳少女。

 その全てのキャラクターがユタカの琴戦に触れる。

 要はとりこなのだ。


 無論、それを現実で拝んでみたいと思ったことはないのだが、実際に目の前に登場されてしまうと思わずその全貌を見てしまいたくなる。

 だって、ユタカだって男の子なんだもの。


「はい……、そのとおりなのです。申し訳ないのです」


 言いながら少女は地面にこすり付けていた頭を持ち上げて、ユタカらのほうに顔を向けた。


 その顔はユタカの思ったとおり、とてつもなくかわいかった。

 丸い目に丸い鼻。そして小さく、桃色にてかる(要に見える)唇。

 桃色の髪に白いウサ耳。

 そして、低い身長に似合わず、大きく実ったその二つの果実。

 あまりに男の欲望のままに作られたような容姿を持つ彼女を見て、ときめかないほうがおかしい。


 端的に言おう。

 彼女は天使のようである。


 出会い頭に殴るような子じゃなければの話だが。


「改めまして、ほんとうに……ふわぁぁぁっ!?」


 頭を上げて改めて謝罪の言葉を上げようとした彼女だったが、瞬間に目を見開いて、大きな悲鳴を上げて後ずさんだ。

 その視線の先にいるのはチヨだった。


 チヨが魔王の呪いにかかっている。

 それを知っての反応なのか。

 話したら死ぬことを知っているものの反応なのだろうか。


 それを若干恐れたユタカとチヨの表情には緊張が走る。


「あ、あああああ、」


 明らかにうろたえる少女を見て、チヨが言葉の続きを恐怖しながら聞く。


「あなた……」


 しかし、やはり怖いのでチヨは目をつぶる。





「あなた…………めちゃんこかわいーーーーですぅ!!」



 少女はいきなり立ち上がって握りこぶしを両手で作って震えながらに絶賛する。


「なんですか!? なんですか!? なんなんですか!? あなた、その白色の髪、小さな唇、そして、その小さなお胸!! 小さい!! 全てが小さい!!」


 虚を突かれたチエ。

 しかし、『小さなお胸』という言葉から精神的なダメージを負っていくようになる。

 そこまで小さい自覚はなく、それなりに揉める大きさの胸であることを自負していただけに、『小さい』と口語されるとは思っていなかった。

 全てが小さい。

 要するに慎重のことを言っているのだろうか。

 うめき声を我慢しただけでもほめられたものだろう。


「えっと、あの……さ、チヨがかわいいのは同意するんだけど……」


 置いてけぼりにされたユタカが、様子のおかしさに声をかけざるをえない。

 ウサの言葉に同意を示すと、チヨが大きく目を見開いてユタカを見る。顔が紅くなっていて、口元が若干にやけてることから喜んでくれてるのだろう。


「あああああ!!!! 申し訳ありませぇぇぇん!!」


 ウサは再び叫びながら土下座して頭を何度も地面に打ち付ける。

 かなりの勢いでぶつけているので、再び痛々しい光景が広がっていた。


「いやだから!! 土下座はやめてくださいよ! いや、やめてってば!! やめろやぁぁぁぁ!!」


 ウサ耳少女のその頭を打ち付ける光景を再び目の当たりにさせられたユタカが慌てながら諌めるのを、ついにはキレてしまう。

 仕方の無いことなんじゃないかなと旗から見ててチヨは思うが、言葉にするとウサ耳少女が死んでしまうので言わないでいる。


「すみませぇぇぇん!!」

「いやだから土下座はやめてぇぇ!?」





◆◆◆◆◆◆◆◆




 何とかウサ耳少女を落ち着かせたユタカは、何とか対面に立たせて事情を伺う。

 案の定なのか、頭を何度も打ち付けていた彼女は額に赤い腫れができあがっており、若干血がにじんでいるのがわかる。

 痛そうに涙を浮かべながら頭をさすっていた。


「ホントに……申し訳ありません……」


 この状況を見て、彼女がチヨと同じく呪い持ちだとは信じられないユタカ。

 チヨは呪いを受けてから喋ることを極端に制限するようになった。

 結果、もともとの性格はわからなかったが、性格もそれに見合って静かなものになっていた。


「それで、君、ホントに呪い持ちなの?」

「はい。ワタクシは呪い持ちでありますです。はい。」


 何とか真面目な話をしようとユタカは彼女に話の先を促そうとするが、真面目な彼女の声音がかわいすぎて思わずにやけてしまいそうになる。

 しかし、悪寒が走ったと思ったら横から見られている視線が原因だった。


 チヨの視線が異様に冷たかったのだ。


「えっと、どうしたの? チヨ。」


 ユタカがたずねると、チヨは黙って顔を横に振る。

 なんでもないといいたいのだろうが、なんでもなくはないように見えてしまうので不思議だ。

 それとも人前で話しかけるなといいたいのだろうか。

 こういうときに人前で会話できないことの不便さを感じる。

 早くなんとかしないとなぁと思考をめぐらせるが、今考えても無駄なことなので考えるのをやめた。


「えっと、だいじょぶですか?」

「あ、あぁ、大丈夫です。」


 少女に尋ねられ、ユタカは何とか精神を落ち着かせて話の続きを促す。


「はい、では。ワタクシ、呪い持ちなんです。」

「いや、それはわかったから。どんな呪いなの?」

「はい、ですぅ。」


 少女は目を閉じ、一拍おいてから発言する。


「ワタクシ、一日に一回、人を殴らないと妹の身体の機能が停止する呪いにかかってるんです」

「……え?」


 一瞬理解できなくてユタカは聞き返す。


「ですから、一日に一回、人を殴らないと妹の身体が機能停止する呪いなんですぅ」


 この光景にデジャブを感じざるを得ない。

 チヨと知り合ったときも同じ反応を示して、同じように繰り返されたかなとユタカは横目でチヨを見ながら思う。

 その対象であるチヨは何も言わずになぜかうなずいた。

 さっさと先を促せといいたいのだろう。


「で、どういうこと?」

「はい。始まりはいつだったか……そう、半年ほど前の話なのですぅ」






◆◆◆◆◆◆◆◆




「ワタクシ、昔は人を殴れないほど貧弱で、ザッ卯人族!っていうくらい弱々しくて、可愛く優しい生き物だったんですぅ。

 しかしある日突然、ワタクシ、妹と山へ芝刈りに行ってたんです! 

 あぁはい。卯人族は基本的にお肉やお魚と言ったものを食べないので、森や山で木の実やらなにやらを採取して食べるのが主流なんです。

 あ、そうです。ワタクシ、にんじんが大好物なのです。

 というかにんじん以外の食べ物は認めないのです。

 にんじん、いいですよ。

 生で食べるのが一番いいんですけど、焼いてみたりしても良いですし、スープに入れて食べるのもいいんです。

 栄養もあって、お腹が空いたらすかさずにんじんを食べるんです。

 そしたら元気が無かったワタクシでも途端に元気になるんですぅ。

 はい、にんじん、最高です。

 にんじんは嗜好! 崇高! まさに神の果実!!

 その昔、神様から人が奪った果実はりんごであると他の種族の方はいいますけど、それ絶対に違います。

 にんじんなんです! にんじんであるべきなんです!!

 にんじん最高ですぅぅぅぅ!! あははは!!


 …………。


 あ、すいませんです。

 もう、ダメですよぉ、ワタクシににんじんを語らせちゃァ。

 もう止まらない。 やめられない止まらないですぅ。


 あ、それでですね。

 ……えぇっと、どこまで話しましたでしたっけ?

 ……あぁ、そうでした!

 おばあさんは川に洗濯、おじいさんは芝刈りに行ったんでしたっけ!


 ……えぇ? 違いました?


 あぁ、そうでした。芝刈りに行ったのはおじいさんではなくてワタクシと妹でした。

 はいはい、そうでしたそうでした。


 それでですね、芝刈りに行ったわけですよ。


 ……あれ? なんでワタクシと妹は芝刈りに行ったんでしたっけ?


 ……あぁ、そうでした。木の実を取りに行ってたんですぅ。

 そう、あの日はにんじんばっかの食卓じゃつまんない! って妹が文句を言いやがるものでしたから、苦労して山にいったんでした。

 そうそう、そこでですね、いたんですよ。


 魔族さん。


 もうこれはとても怖かったんですぅ。

 だって、背中に背負ってたにんじんを凝視するものですから。

 絶対にんじんを狙ってた目ですよ。あれは。


 ……え? 絶対ににんじんを狙ったんじゃないって?


 そんなわけないじゃないですかぁ。

 だって、にんじんですよ? 崇高な食べ物ですよ?

 狙わないほうがおかしいですぅ。


 ……と、また話がそれちゃいます。

 それでですね、そこでですね、はい。


 呪い、もらっちゃいました。


 そういうわけで、ワタクシ、呪い持ちなんです。









 …………え?





 あぁ、はい。これでお話はおしまいです。


 はい?

 え、呪いの詳しい内容ですかぁ?


 そぅですねぇ……

 さっきも言ったと思いますけど、人を一日に一回殴るんです。殴らないとダメなんです。

 そういう呪いですぅ。


 殴らないと、妹はどんどん衰弱していっちゃうんです。


 最初は右足、左足。

 二日人を殴らなかっただけで、そこが動かなくなりましたですぅ。


 それは次第に妹の身体を侵食していって、今彼女が自分の意思で動かせるところは心臓くらいです。


 そう、なんです。

 もう妹は瞬きもできません。

 目も見えなくなって、手も動かなくて、耳も片方が聞こえなくて……



 もう、二日なんです。

 二回なんです。


 右足、左足、右手、左手、右目、左目、右耳ともう七回人を殴れなかっただけで動かなくなっちゃったんです。使えなくなったんです。

 あと動かなく、使えなくなるのが左耳と心臓しかないのです。


 だから……ワタクシは人を殴るんです。

 妹が、あと二回、人を殴らなかったら……、死んじゃうんです…………。


 だから、だから、だから、






 …………だから、ワタクシは………………………っ」




 長々と呪いの説明をし、要領は得なかったが、伝えたいこと、呪いの詳しい内容を伝えられた。

 少なくとも、ユタカには伝わった。

 見るとチヨにも伝わっているようで、自分の呪いと比較しても辛さに遜色はない内容で、思わず鎮痛な表情を見せる。


 その長々と語ったウサ耳少女本人は、妹の危機を話しながら涙を流していた。

 もう後半になってから涙声になっていて、もう我慢の限界なのか、彼女は泣き始めてしまった。


 もしかしたら先ほどまでの陽気な性格に見えたのはただの見せ掛けだったのかもしれない。

 アホな女の子と思えてしまっていたのは、それは単純に彼女の魅力、演技なのであって、実際は中に深い悩みを抱えた女の子だったのかもしれない。

 ユタカは勘違いしていた。

 彼女を見て癒されていはいけなかった。

 殴られて怒るべき相手ではなかった。

 だってそう。

 彼女はただたんに、妹のためだけに人を殴っていたのだから。


 彼女はもしかしたらもともと温厚な性格で、人を殴るのも嫌う人間だったのかもしれない。

 もともとは優しい性格なのだ。

 そうでなければ、にんじんに飽きたといった妹のために山に木の実採取に行くこともしなかっただろう。

 だから、だからこそ、だ。

 だからこそ、彼女は耐えている。

 人を殴る苦しみも、人に殴って感じる拳の痛みも。


 誰を殴ればいいのか、殴って相手は傷つかないのか。傷つくはずだ。

 加減をしたはずだ。できていたはずだ。

 しかし、次第に殴ることに慣れていって、もうそれは殴るだけで人を飛ばせるほどの威力を持ってしまったかもしれない。

 なぜならそうだ、ユタカを殴ったときの音の反響から、かなり強い力を持ち合わせていたのだ。

 もしかしたら、彼女のその殴打は救難の信号なのかもしれない。


「きみ……」


 ここまで聞いて、ユタカは知らぬ振りをできるだろうか。

 自分の嗚咽が大きくて、ユタカのその声が聞こえなかったのだろう。

 もう子供のように泣きじゃくるその少女はユタカの声に反応を示さず、変わらずに泣き続けていた。


「なあ!!」


 だからユタカは大声を出す。

 しっかり、自分が声を掛けているのだとわからせるため、少女の両肩を軽く叩く。

 仕返しを恐れているのか、少女は一瞬身体をびくつかせて、恐怖の表情をユタカに向けていた。


「オレにならいくらでも殴ってもいい。だから、」


 チヨを誘ったときもこんな気持ちだった。

 人に言葉を聞かせるだけで死なせる呪い。

 想像するだけでぞっとする話だ。

 それはもう、人としての機能を制限されるようなものだ。


 言葉を話すだけで死なせてしまうんだから、もう彼女の知人友人家族の死ぬ光景を目の当たりにしてしまっているのかもしれない。


 そして、それは今目の前にいる少女の呪いもそうだった。

 人を殴らなければ妹にかかる呪いの重み。

 後二回殴るのができなかったら、心臓が止まってしまう。

 彼女はそう言っていた。

 彼女は家族思いなのだろう。

 そんな彼女の妹の命運が自分の腕にかかっているのだ。


 どれだけのプレッシャーなのだろう。


 そして、殴った相手には親しい相手もいたのかもしれない。

 事情を話して殴らせてもらった相手もいたかもしれない。


 でも今現在、ユタカを殴りに来ている時点で断言できる。


 その相手は、やはり自分かわいさに彼女から逃げてしまった。

 毎日殴られるのは痛いし、傷がついた上に殴られたらもう治らなくなるかもしれない。


 だから、もう彼女に殴れる相手といえば見知らぬ強そうな相手しかいない。


 だって、自分の腕で殴ってもダメージを受けそうに無い相手にだったら、なんとか事情を話せば。


『わざと殴りました! 仕返しに殴ってください!!』


 それは彼女の優しさが如実にあらわされた言葉だった。



「オレと一緒に行動しないか?」




 ユタカはそう勧誘するのだった。





というわけで、第六話。いかがだったでしょうか。

次回、恋のお話ですといったところで、失礼させていただきます。

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