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手違いで召還された勇者の異世界生活  作者: ゆうだい
第二章『森人族編』
31/40

第三十話『再会、告白、諦め』

あけましておめでとうございます。

手違い勇者、初めて2ヶ月に入る時期ですが、それなりに閲覧してくださる方がいらっしゃるようで、ありがとうございます。

今年も頑張って更新していきますので、よろしくお願いします。


そういうわけでやっと三十話になりました。

本来の更新時間は16時になっているのですが、不定期すぎて期間が空いたり空かなかったりしていますので、即時公開していこうと思います。


 チヨとウサが予定を変更して、森人族(エルフ)の国、アードレイから人族の国であるカタリア王国に来ているのには理由がある。


『師匠の所に行くですぅ』


 ウサの談である。

 狼人族の拳闘士、クランプとの試合で大敗したウサが自らを鍛え直したいと申し出たのだ。

 少し前、拳術を兎人族の村で指南してもらった経緯から師匠を獲得。当初はあまり拳術に興味がなかったウサは軽く聞き流していた記憶がある。

 しかし、前日の大敗を経験して、彼女は改めて思う。もっと強くなりたい。

 狐人族での出来事に加え、クランプとの試合での敗北。彼女にそうさせたのには十分な理由だった。


 拳術を指南した師匠とやらは人族で、聞くところによるとカタリア王国の貴族なのだとか。

 最後にこんな言葉を残して去ったことから、ウサは早速行動する。


『困ったことがあればうちに来い』


 ユタカ、ミサと合流出来ないのは痛いところではあるが、自分が弱いまま勇者の旅についていける訳がない。

 ミサの世話をユタカに任せっぱなしになるのは罪悪感が残るが、ウサは強くなるためにカタリア王国に訪れたのだ。

 本来であれば、忌み子であるウサとチヨは入国すら叶わないはずだが、入国の際に何故かウサを見て通してくれた門番がいた。

 チヨが何かを誤魔化すための術を持っているのかとも思ったが、彼女は何もしていなかった。

 不思議な出来事だったが、都合が良かったので甘んじてこの状況を受け入れることにした。

 師匠の屋敷を聞くと、衛兵自ら案内に名乗りでてくれたからさらに良い。


 そう思っていたのだが……。


「お姉ちゃーーん!!」


 声がウサの耳に届く。

 聞き慣れたその声は、ウサの心の深いところで響いた。


「ミサ?」


 かなり遠い距離から声を掛けられていたが、ウサの耳にはしっかりと届いていた。

 兎人族特有の聴覚のおかげなのか、ミサを思う姉心というものなのか。それはわからなかったが、確信を得られた。

 ここにミサがいるということを。


「ミサーー!!」


 声が響いた方向にウサは走り出す。衛兵やチヨは訝し気な表情をしていたけれど構わない。全力で走り出し、ついにたどり着く。ミサを背負っているユタカごと巻き込んで飛びついた。勇者補正で無意識にはたらく魔力のおかげで体幹がしっかりしていたため、バランスを崩さずに受け止めることができた。内心ではこのままこけてミサが怪我でもしたらどうするんだと思ったが、ウサにそんなことを考える余裕がないのだろう。どの道、ユタカが受け止めることに代わりはない。

 ウサは泣くでもなく、歓喜するでもない。ただ安堵していた。森人族(エルフ)の国にいてしばらく会えないだろうと思い込んでいたウサだった。しかし、どんな偶然なのか、運命なのか。いるはずの場所を通り過ぎたところで思わぬ再会。

 自分が強くなるためと選んだ道だった。ミサとこんなところで再会できるとは思ってもいなかった。でも再会できてしまった。それが嬉しいわけがない。

 会えたことに喜ぶのもそうだが、なによりもウサが思ったのはこれだ。


――ミサが無事でよかった。


 チヨから両耳が聞こえなくなったと聞いていた。

 想像では毎日泣いたり落ち込んだり、もしかすると『私のことは放っておいて』とまで言われると思って恐怖すら感じていた。でもそんなことはない。手足が動かないのに、ユタカに甘えているのがわかった。それはユタカを愛することが出来ているということ。そんな娘が死ぬことを選択することはないだろう。


「あれ、なんか変です」

「なにが?」


 ミサがユタカを愛する。別にそれは構わなかった。ウサが違和感を持ったのはそこではない。

 自分とてユタカを好いて旅の同行を買って出た。でもウサはユタカを『愛して』いるのだろうか。そこに違和感を持ったのだ。好きであることと、愛すること。同じように見えて何かが違うような気がする。

 ウサは抱擁を解いて妹を見る。よく見なくてもわかったことなのに、よく見れば見るほどそれは明確になっていく。やっぱりミサはユタカのことを好いている。『お兄ちゃん』とは呼んでいても、男として好きになっているのは明らかだ。

 そんなことミサに確認しようがなくなっていることが不満ではあった。


 ウサの違和感の正体。それは、『愛されたい』と思わないことだ。


 自分はユタカが好きだ。それは断言しよう。

 それが恋愛のものなのか。ウサはわからなくなってしまった。

 男として惚れてしまったと前は思ってた。しかし、何日か離れて顔が見れなくなった期間ができた途端、その気持ちが揺らいでしまっている。

 もしかしたらウサはユタカを男としてではなく、ヒーローとして見ていたのかもしれない。憧れ、英雄。ウサが抱いていたそれは恋心ではなく、ただのファン魂だったのではないだろうか。そんな疑問が頭に過ぎった。


 頭の中でウサがごちゃごちゃ考える様にユタカは疑問に思って問いかけてみた。しかし、返ってきた返答がこれだった。


「いえ、なんでもありません」


 ミサと再会できて嬉しいはずなのに、ウサの見せた笑顔は笑顔とは言えなかった。なぜか寂しげな表情に、無理やり口角を上げているようだった。見たことはないはずなのに、長期間別れを強制されて再会した者の表情ではないとユタカへ思った。

 もしここでチヨと再会出来たらどんな顔をするだろう。予想だにできなかった。


 背負っているミサをウサに預けて、彼女が向かってきた先に視線を向ける。そこから現れる人物を期待して。

 その人物はすぐに見つかった。

 常に感知魔法を展開することが習慣化していたユタカには、少し距離が空いていてもすぐに発見できた。それはチヨも同じで、すぐにユタカを見つけて走り出していた。釣られてなのか、それとも単純に自分の意思なのか。ユタカも走り出している。互いに走って向かっているため、すぐに視界で確認し合うことが叶う。

 チヨはユタカの存在を確認すると、走る速度を更にあげて飛び込んだ。まるで抱き着くような姿勢だ。対するユタカも抱き留め、しばらく抱き締めているという実感を味わっていた。

 チヨはユタカの耳にそっと唇を寄せて、誰にも聞こえない小声で囁いた。


「会いたかった」


 耳の良いウサにも聞こえないほど小さな声音。もう声と言っていいかすらわからない。傍からはただ息を吐いているようにしか見えないだろう。それをユタカは正確に聞き取った。

 これだけでユタカは舞い上がっていた。

 無理もないことだが、美少女を抱き締めて息のかかる距離で『会いたかった』と耳打ちされているのだ。興奮しない方がおかしい。もちろん精神的な意味でだ。

 チヨに倣い、ユタカも彼女の耳にそっと口を寄せて言う。


「オレも会いたかった」


 本来であればこんな耳打ちをする必要はないのだ。しかし、チヨには呪いがある。この言葉に限らず、声が殺傷力があることから普通に会話をするわけにはいかない。だからこそ小声で呼びかける必要があるのだ。ユタカもそれに合わせてそう耳打ちする。ユタカの感じた興奮をチヨにも伝えたかったのだ。

 狙い通りに伝わった興奮にチヨは身震いする。寒気が来たとかではなく、羞恥がそうさせたのだ。

 周りを見てみると、黙って抱き合うユタカとチヨに訝しい目を向ける者と、カップルを冷やかす声や黄色い歓声があがっている。注目の的になっていたのだ。

 殆どのことが無関心だったり、短気だったりという様子を見せてきたが、羞恥に悶えるチヨは見たことがなかった。

 慌ててチヨはユタカから離れ、顔が紅くなっていた。

 ユタカはそんな様子を愛しく思えてしまう。ここでやっぱりとユタカは思った。


「そんなに長い間離れてたわけでもないんだけどな」


 あっても数日だった。

 ミヤと修行してから会う機会が極端に減っていた。山に篭ってからは一切会っていない。合計して約一ヶ月。それに比べれば、この数日は短いと言える。それでもユタカも、チヨも何年も会っていないような感覚があった。

 それは出来事の大きさが物語っていたことがユタカには言えた。


『そんなの関係ない』


 チヨはボードにその文字を書いてユタカに見せた。書いているとき、若干文字に迷っていた素振りを見ところを見ると、これが本当に伝えたい言葉だったのか、それともこれでさえ恥ずかしかったのか。ユタカはそれの解読ができないでいる。

 言葉は難なく通じているが、識字はできていない。教わっていないことが大きな要因だ。


「ごめん、文字は読めない」


 正直にユタカは告げた。

 呆れたのだろうか。それともわかっていて書いたのかがわからなかったが、チヨには大きな動揺はなかった。

 チヨにとって、その内容は大したことではない。いや、そうではないのかもしれない。なぜか安堵したチヨは、顔をまた紅らめながら寄ってきた。顔だけをユタカに寄せ、唇をユタカの耳に近づけた。

 彼女は告げた。


「大好きってこと」


 一瞬、時間が止まった気がした。

 衝撃を受けた。心臓が暴れだした。嬉しかった。恥ずかしかった。でもやっぱり嬉しかった。理由としてはいくつも挙げられる。

 時が動き出してもしばらく身体が硬直した。現実を受け止めるのに時間がかかったのだ。


「誰が……?」


 意味の無い問だとわかっていた。でも問わずにはいられなかった。この喜びが虚無ではないことを確認したかったのだ。

 チヨもそれをわかっていて行動する。

 口では伝えない。

 一歩下がったチヨはゆっくり右腕を挙げ、人差し指をユタカに向ける。

 文字が読めなくても、言葉が話せなくても伝えられる。


『あなた』


 ユタカとチヨは見つめ合っていた。

 突然の告白に、ユタカは舞い上がる。予定外の告白に、チヨは硬直する。

 互いの思惑が身体の自由を奪っていた。


「ユタカさん」


 その空気を壊したのはウサである。

 ミサを背負ったウサは、しばらく再会して喜んだあとに背後から近付いてきたのだ。

 思わず感知魔法を解いてしまっていたユタカは驚いて我を取り戻した。

 時間の流れが通常に戻ったユタカはウサに視線を向けた。


「ミサを護っていただき、ありがとうございます」

「いや、大切な妹だからね。当然だと思うよ」

「妹……ですか?」


 当然のように言うユタカに目を丸くして問うウサ。

 ミサはあくまでウサの妹だ。ユタカはただの他人。もっと深くしても仲間、恋人といった関係になるはずだ。ユタカとウサが婚姻関係にない限り、ミサはユタカの妹にはなり得ないはずだ。

 考えて、ユタカはウサと結婚する気なのだろうかとも考えたが、そうではなかった。ミサがユタカのことを『お兄ちゃん』と呼ぶから自然とそう認識しているのだろう。

 前者を考えて少しだけ喜びを感じていたが、今目の前でチヨと向かい合っているユタカを見ればそれは絶対にないと言いきれる。それだけ彼らは求め合い、愛し合っている。今はまだ言葉にはしていないが(ウサからしてみればの話)、互いに恋人及び(つがい)になるのは時間の問題であろう。

 仮にユタカがハーレムとやらに関心を持っていればウサも可能性があるが、ウサはユタカが小心者であることは十二分に承知している。いざとなれば男らしいところを見せるユタカだが、普段の生活から見ればただのヘタレに過ぎないのだ。

 それでも彼のことを好きだと錯覚していたのには変わらない。

 もしかしたらウサは普段の小心者の彼を除外して見ていたのだろうかとも考えるが、彼が途端に漢になることは滅多にないと言っていいだろう。実はウサが英雄思考で、滅多にないそれを彼であると思っていたのであれば、普段のヘタレなユタカをユタカとウサは認めなかっただろう。しかし、小心者のユタカはやはりユタカなのだと認めてしまっているウサのそれは、やはり英雄としてのユタカに限定して惚れていると勘違いしたわけではないのだ。

 やっぱり普段の小心者のユタカを含めて惚れていたのだ。


 愛されたいと思えない。だから好きではない。惚れたと思っていたのは勘違い。

 さっきはそう結論したが、それは早計だったかもしれない。なぜなら、先述の通り、ミサを妹と呼称したのはウサと結婚するつもりだから。一瞬そう思ったとき、ウサは嬉しかった。そう、嬉しかったのだ。

 ここまで考えて、ウサは結論を出す。


 ウサはやはりユタカが好きなのだ。出来れば愛してほしい。でも、その愛はウサではなくチヨに向いている。目の当たりにして痛いほど理解させられたウサは、無意識に自分を引いていたのだ。これは良い意味の言い方だが、悪い意味で言うと『諦めた』のだ。


 自覚してしまった。


 そうすると、自分の中に溢れるものができてしまう。


「ウサ?」


 ユタカの訝し気な瞳がウサに向いていた。

 それがわかった途端、ウサは自覚する。


 自分が失恋してしまっていることに。


「ごっ、ごめんなさい……っ」


 ウサさ思わず逃げるように走り去った。ミサを背負ったまま走り、なんとかユタカらから隠れるように。

 その様子を見てユタカは追いかけようとしていた。しかし、裾をチヨに掴まれて立ち止まった。

 振り返れば、悲しそうな顔をして横に首を降るチヨ。

 追いかけてはダメ。チヨはそう伝えていたのだ。


 再会したあと、チヨには告白され、そしてウサには泣かれた。

 頭が混乱するのをユタカは止められなかった。


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