第二話 『カバゴリラと勇者』
第二話公開します。
朝にプロローグと第一話をアップしていますので、よければそちらもごらんいただいて、できるなら感想などを投げていただけると私、大変喜びますです。はい。
※17.12.15
文章一部改訂しました。
ユタカはしばらく放心していたかった。
そう。していたかった。
しかし、ユタカが飛ばされたその先には異様な形をした動物さんがいたのだ。
「うわぁ……、カバさんかな? それとも……ゴリラさんなのかな……?」
その姿形はカバの顔でゴリラの屈強な肉体を持って二足歩行をする獣のようなもの。
しぐさは完全にゴリラのしぐさで、「うほっ、うほっ」と胸襟を握りこぶしで叩いて筋肉を高めている。
しばらく何をしているんだろうなぁと引き気味に観察していたら、右から、左から、後ろから、前から、斜め右から、斜め左から、斜め右後ろから……と次々と仲間が増えていくじゃありませんか。
「うほっ、うほっ!」
「「「うほっ。、うほっ!!!」」」
カバゴリラの雄たけびもどんどん共鳴するようになったじゃありませんか。
さてさて、何をしようと言うのでしょうねぇ……。
いわずもがな、この胸襟を叩くしぐさは仲間を呼ぶ合図だったのかもしれません。
そして、この雄たけびはいわずもがな……。
「敵対信号だぁぁぁぁぁぁっ!! 絶対!!」
叫びながら走ろうとするも、四方八方ふさがれている状態なので、逃げ場などすでになかった。
わけもわからずつれてこられた暗闇でカバの頭を持ったゴリラの獣に「うほうほ」と発情され、思わずこう思った。
「オレ、掘られたくねぇぇぇ!!」
彼女? めんどくさいだけでしょ。
とほざくユタカではあったが、さすがに尻を掘られる趣味はない。彼氏など尚更いらない。
えっちぃビデオも男の裸が出ただけで吐き気がするくらいそちら方面には興味を示さない男なのだ。
そもそもカバゴリラ(ユタカ名称)は彼氏にする気すらなさそうなのだが………
「うっほぉぉぉぉぉ!!!」
「「「うっほぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
「ゴリラじゃなくてカバのところを見せてほしかったぁぁぁぁ!!」
最後の言葉がこれかと涙目になりながら感情を爆発させるユタカ。
腕を頭をかばうように覆い、丸々。もちろん尻を隠すためにしゃがむことも忘れない。(ほとんど無意味なのだが…)
もちろん、そんなことをしてもこのカバゴリラの前ではなんの意味もない。
カバの大口を空けて襲い掛かるカバゴリラは明らかにユタカを丸呑みにする気であるとわかるものだった。
最後の言葉に願いがかなったかな……と思ったユタカは死を覚悟した。
カバのあごの筋肉で噛まれたらも一たまりもない。
やはりそんな願いを言うんじゃなかった……!!
そういえばカバの噛む力ってすごいんだっけ……?
ドラム缶とかつぶしちゃうよな。
あれ? それって違う動物だっけ?
いや、合ってるよな……合ってる……気がする………んだけど……。
あれ? あれれ??
おっかしいぞぉ……。
なにか、いつまでも食われないんだけど……。
もうすでに頭の可笑しくなったユタカは走馬灯のように長い時間を感じてるのかと錯覚していたが、それにしたって長すぎる。
走馬灯ってこんなに長いものなのかと思うほど長い。
何せ、走馬灯など味わったことのない経験だ。
一瞬が数秒に感じるならまだしも、何十秒も感じるということに違和感を持ったユタカは、閉じた目をそっと開いて様子を伺うことにした。
カバゴリラはいまだに健在であった。
しかし、ユタカの視界に入るのはカバの一部分のみ。
なぜそんなことがわかるかというと、これがテレビや漫画なんかでみたカバの口内のまさにその絵面だったからだ。
「あれれぇ?」
少し間抜けな声を出してみるも、何も動く気配がない。
そこまでくるとユタカもなんとなく状況は理解できる。
カバゴリラは確かにユタカを口内に押し込もうと口を大きく開いた。
そして、噛み殺して砕いて子供にでも分け与えようとしたのか、丸呑みにはせずにちょうど首に当たるように歯を当てて噛み千切ろうとしたのが、ユタカの腕が邪魔をして噛み千切れないでいたのだ。
もちろん、本来のカバのあごの力ならば腕ごと噛み千切ってしまってもおかしくはないのだが、それすら許さないのがユタカの腕の硬さなのかもしれない。しかも幸運なことに、両腕で上あごと下あごを押さえるような絵面になっているので、このまま開けばどうなるのだろうと少しだけ好奇心を持った。
千切れるほどの痛みはなかったが、それでも歯に触れてるという不快感はあったので、少し力をこめて腕の感覚を開いてみた。
そしたらまるで避けるチーズを避けるかのようにあっさりとカバの口を開くことができたのだ。
「あれれぇ? おっかしいなぁ……」
素っ頓狂な声を出しながら、カバの口を全開にしたユタカは間抜けなカバ面をしたそれが、文字通り間抜けにしか見えなくなっていた。
「ほいっ」
なんとなくカバの上あごと下あごをつかんで反対側に投げるしぐさをしてみた。
そしたらなんと、あっさりとカバゴリラは持ち上がり、投げ飛ばされたではないか。
その先にいたカバゴリラを巻き込んで墜落したカバゴリラはいっせいに体制を崩す。
カバゴリラに対して圧倒的に細い体をするユタカに対して高密度に密集していたため、周りのほぼ関係ない位置にいたカバゴリラでさえもその巻き添えをくらって体制を崩すほどだ。
ユタカを囲っていたカバゴリラはほぼ全滅の勢いで横倒れになった。
「な…っ、なんて間抜けな……っ」
その台詞はもちろんカバゴリラに向けられたものではあるが、それ以上にこんなものに完全におびえていた自分に向けた言葉でもあった。
まさかこんなに弱いやつらだったなんて……っ。
こうなってしまえば話は早い。
ちょうどユタカの足元にはちょうどよさげ石があった。
手のひらサイズのその大きめな石を持ったユタカは、大きく振りかぶってユタカに噛み付いたそのカバゴリラに向かって投擲する。
体制を崩して何が起きているのかわからないようなアホ面(いつもどおりのカバ面に見えるが)を浮かべるそのカバゴリラは背後から迫る石の存在に気づかなかった。
ユタカの想像では少し威嚇できればなぁなんて思って投げた石だった。
その石がまさか……
喉の肉を貫いてもう一匹のカバゴリラをしとめてしまうなんて、だれが思っただろうか。
「あれれぇ?」
なんど同じことを繰り返しているであろう言葉を繰りかえるユタカ。
その光景を目の当たりにしたほかのカバゴリラはいっせいに身を後ずさんだ。
『やべぇ、手を出しちゃ行けねぇやつに手を出しちまった!』
そう思わせるような仕草だった。
そこからのカバゴリラの行動は早かった。
一目散に四方八方に逃げ出したのだ。
「え……?」
二つの死体をおいて逃げ出すカバゴリラ。
聞いた話によると、ゴリラは仲間意識が高い生き物のはずなのにつめたいやつらだと思ったユタカだったが、頭の部分がカバでできているのである意味納得の行動でもあるように見えた。
とりあえずまた一人になったユタカが感じたのは、
「た……、助かったぁ……」
その一言に尽きる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
しばらく異様な形の獣がユタカを襲うが、こぶしをぶつけるだけで簡単に吹き飛んでいく様がその場を埋め尽くしていた。
そこまでくると、ユタカの能力も判明する。
まず、ユタカの腕力がかなり向上されている。試しにその場の岩を持ち上げてみる。
普段のユタカならば持ち上がるどころか一ミリ動かすことすらできないようなものが、まるでケータイを取り上げるような感覚で持ち上がり、なおかつ豆腐をつぶすように簡単に粉々になったことから、腕力のみにあらず、握力も向上している。
軽くジャンプしてみても、全力で飛んで身長の半分も飛べるかどうかなのだが、今回飛んでみた。結果として、軽く自分の身長を超える高さまでたどり着いてしまう。
あまりの高さに恐怖を覚えたくらいに。
腕力、握力、脚力と向上していることから、筋力が大幅に上がっているのだ.
そして恐らく、視力も向上している。
普段なら見えない暗闇ですら視認できるようになっていることから、夜目も持ち合わせている。
カバゴリラの容姿を視認できたのもこれが影響しているのだろう。
棒を持って振り回してみれば空気の避ける感覚がわかるようになった。
感覚が急に広がって、少し戸惑いを覚え始める頃。
――いやあぁぁぁぁぁっ
女の悲鳴が聞こえたような気がした。
どの方角から聞こえてきたのかもわかってしまうほど聴覚も強くなっているのだろうか。
「プギャッ」
途端、耳がいいウサギのような頭で熊の体格を持った獣も反応したと思ったら、いきなりうめき声を上げながら血を吹き出してあっという間に肉塊に変わる。
「……えっ?」
そこだけではない。
恐らくは物陰に隠れていたであろう小さな獣、岩を上っていたさそりの様な虫でさえも血を吹き出しながら死亡していくのを確認した。
いっせいに自分以外の獣が肉塊に変わり、血のにおいが充満して吐き気を催す。
また何かをしたのだろうかと自分の感覚を疑うが、それどころではない。
悲鳴が聞こえたということは、何らかの事件が起こったのかもしれない。
普段のユタカであれば『何かあったのかな? でもまぁいいか。オレには関係ないし』と野次馬根性すら持たずにその場を去るのであったが、状況が状況で、その牙がいつ自分に向くかもわからない。
確認に行ってみて、自分に牙を向くような何かがあるのであればさっさと逃げよう。
そう判断したユタカは悲鳴の上がったであろう地点に向かって歩き始める。
「そういえばあれからどれくらい経ったんだろうか……」
今更過ぎる疑問を何もいない空間で問いかけながら……
そういうわけで第二話でした。
次回、ついに少女とユタカの対面か?
といったところで、次回も乞うご期待!!していただけるのでしょうか……。
ではでは