第一話 『イケメンが目の前にいたじゃぁぁん!!』
第一話です。
プロローグも一緒に投稿してるので、できるならばご覧くださると大変うれしいです。
よろしくお願いします。
※17.12.15
文章一部改訂しました。
十一月。
世間一般では初冬といわれて気温が下がり始める頃。
ちらちらと夏服からダウンジャケットを着込む人々が増える時期、稲妻地 裕は商店街をぶらぶらと散策する。
目的は今日の飯である。
五勤一休の過酷な職場の勤務状況から玉の休みの前日。
その日は決まって酒を飲む日と決めている。
しかし、酒に詳しくない彼の飲む酒と言えば決まって生ビールと決まっている。たまに角ハイボールだったりコークハイだったりとするが、しかし酒といって思い当たるのは生ビール1択だと自負している。
そんな彼はその生ビールを吞めて、なおかつ腹に溜まる食事ができる場所を探していた。
しかし、電車に乗ってまで吞みにいくのも面倒なので、社宅の近くで歩いていける場所で吞める場所を散策していたのだが、その付近には牛丼屋、焼肉店、魚介居酒屋、チェーンの居酒屋の四択しかない。
少し距離を歩けばそれなりにそれなりの店があるのを知っているが、吞んだ後でしっかりと歩いて帰れるかが不安だったユタカは近い距離でそれを探していた。
普通に街頭を歩いていたユタカ。
目の前には学生のカップルが初冬の寒さからコートを着込み、なおかつくっつきながら歩いているのが見えていた。
地元ではないため、どこの学生なのかはわからなかったが、少なくとも高校には行っているであろうことは容易に判断できる。
女子のほうは普通の日本人という感じの風貌だが、男子のほうはとてつもないイケメンで、幼女からお姉さん、おば様やあれな感じのお兄さんまでのおよそ70%は振り返ってしまう風貌をしている。
ユタカもそれは例外ではない。
理由は男子がイケメンであることではなく、『わざわざ女の子に合わせて会話をしているであろう男子』という認識からである。
(ご苦労様です)
いわゆるリア充ライフを満喫する学生らに内心の敬意を払いながら変わらずどこで食事をしようかと考えている。
冴えないと自覚する自分が考えられることはやはり、今日の飯はどうしましょといったことのみ。
適当に歩いていたら焼肉屋があったため、『もうそこでいいか』といった妥協からそこにいくことを決意したそのときであった。
突如降り注ぐ光の柱。それがユタカの頭上から降り注いだのであった。
焼肉屋の扉(手動でスライドするタイプ)に手を掛けた途端の出来事である。
さすがのユタカでも不審に思い、立ち止まって空を見上げる。
何らかのスポットライトでも誤って当たってしまったのだろうかとも思ったが、それを照射する機材がなかった。さらに不審さを深める出来事に若干気持ちが悪くなる。
追い打ちを掛けるように、こんな声がユタカの脳に直接響いた。
――やっと見つけた、勇者様。
「はぁ?」
思わず声に反応して疑問を吐露してみる。
聞き覚えのない声であったことと、空気の振動で耳を刺激したものではないということが自然とわかってしまうことが更に混乱に招くことになる。
それを知ってか知らずか、声の主は変わらずにこう続ける。
――ユウト様には異世界に渡り、勇者として世界を救っていただきます。
女性の声であろうその声は、ユタカの知らぬ名を告げる。声は問答など無用で話を続ける。
光を当てられている男がユウトという名の男ならば多少は納得するものではなくとも、今の状況より疑問が増えることはないのだが、今の状況は違う。
その男はユウトなどという名前ではなく、ユタカという名の冴えない男性だったのだから。
「あの、ひとちが……」
ーー突然のことで驚かれていると思いますが、拒否権はあなたにはありません。ご了承ください。では、異世界に飛んでいただきます。語武運を………
人違いを指摘しようにも、その声は問答無用で照度を強め、ユタカの視界を焼肉屋の扉から真っ白な世界へと誘う。
気づいた時にはすでに手遅れで、もう扉の取っ手をつかんでいた感覚すら奪われ、何もない、台地を踏んでいる感覚も、肌を透き通る空気の感覚も、さらには酸素を肺に取り込んでいるという感覚ですらユタカの五感から遮断されていた。
普通の人間なら、いきなりの事態に混乱するか、憤慨する事態なのだろうが、ユタカの思考はそこから違ったものになっている。
(明日休みなんだけど………)
◆◆◆◆◆◆◆◆
真っ暗な世界。
文字通り、光すらも通さない地下なのか、それとも何らかの建物なのか、今が朝なのか、昼なのか、夕方なのか、夜なのか。
空気を感じることも、味を感じることも、閉じ込められていることの恐怖も、目をつぶってるのか、開いてるのか、口は閉じてるのか、開いているのか、縛られているのか、縛られていないのか。
自分は男なのか、女なのか、痛いのか、痛くないのか、寒いのか、暑いのか、あれからどれくらい経ったのか、あれからとはいつからなのかなど、何もかもわからない状況で長い間閉じ込められている何かがそこにはあった。
意識があるのかと疑うその“何か”は、何が何で何が何なのか、答えられる者はいなかった。
そもそも“者”とはなんなのか、その“何か”も“者”もわからない。
しかし、その場に足を踏み入れる人影が3つあった。
「なんだぁ、ここ」
真っ暗闇の中、迷わず入ってきたその声の主は男であることがわかる。
「なんだか迷っちゃったってことなのかな、かな」
少し高めの声ではあるが、男の声であることは明らかなので、それも男なのだろう。
ここまで会話ができているということは、明らかに人間であるのはわかるのだが、閉じ込められている『何か』にはそれがわからない。
そもそも音も『何か』にはわからないほど強い何かで縛られているような気がする。そもそも気がする気があるのだろうか。
まるでゾンビは生きているのか死んでいるのかという問答を延々と続けるその『何か』にとって、声の主はどうでもいいことであった。
しかしなぜであろう。
その声がなぜ、『何か』がわかれるのだろうか。
『何か』は疑問に思った。
「あれ、何かいるわよ」
先の二つの声とはまた違った声の主がそこに侵入してくる。
今度は女性の声であることがわかる。
「お、ホントだ。…………人だな」
一番最初にした声が考え込むように何かを見ると、その正体が人であることを言い当てる。
「人? なんで人がこんなところに?」
「なんか縛られてるんだけどぉ……けどぉ……」
「え、なんか危ない人なのかしら……」
『何か』はそこで理解する。自分は人なのか。と。
「でも……かわいそうな感じがしますよ。ですよ。」
「だなぁ……かわいそうというか、かわいいだな。」
「え、あんた……、こういうのもいける口なの……?」
どうやら『何か』はかわいいらしい。
「え、でも僕もかわいいと思いますですよ。です。」
「ええぇ…あんたはまともだと思ってたのに……」
「女装してる時点でまともじゃねぇけどな!!」
「そうですよぉ、ですぅ」
その場で馬鹿笑いする男の声と、控えめに笑う男の声。その近くで「うへぇ…」と引いているであろう声2(その場を木霊する。
「で、どうするわけ? 助けるの?」
「んーーーー、どうする、ミハイル」
「どうするっていわれてもですねぇ……ですねぇ……」
ミハイルと呼ばれたその女装と思われる声の主は判断をゆだねられて考え込む。
しかし、回答にはそれほど長く時間をとらなかった。
「助けましょう」
「はえぇなっ」
「下心丸見えだけどね。」
「当たり前ですぅ、このかわいい子にはかわいい服を着せてあげたいじゃないですかぁ。ですかぁ。」
「まぁわかるけどね、こんな女の子がこんな無骨な服を着て……、でもそういう趣味だったらどうするわけ?」
「えぇぇぇ、それはないですよぉ……です。 だって、こんなにかわいいんですよぉ」
「オレはどっちでもいけるけどな!」
「最低」
長々と会話が響くが、その“何か”が感じるのはただひとつ。
ーー『何か』とは女なのか。
そもそも『何か』とは何なんだろうか。
結局思考はここにたどり着いてしまい、それでも答えが見つからない。
それでも状況は刻一刻と進んでしまう。
「よし、じゃぁ助けんぞ。 あ、ここで助けたのオレってことにしといてくんね?」
「はぁ? なんで」
「助けてくれてありがとう、お礼に抱いて!素敵!ってなるじゃねぇか。」
「絶対ならない」
そんな会話を繰り広げながら、“何か”の手首を縛り付けている何かをカチャカチャと音を立てながら淡々と外していく男たち。
それが彼らの命運を握っていることも知らずに……。
◆◆◆◆◆◆◆◆
一方、光に巻き込まれて純白の世界に飛ばされたユタカ。
何が起きてるのかわからずに呆けていると、チュートリアル的なイベントが起こることもなく、いきなり暗闇に誘われた。
「………あれ?」
さらに呆けた声を出すユタカ。
純白の世界にしばらく閉じ込められていた彼は、恐らくは説明をしてくれるであろう何かに対して自分は人違いであると告げる心準備をしていた。さっさと元の日本に返してもらおうとしていた矢先であったのだが、連れ出されたそこがただの何もない真っ暗闇だった。
しかし、何も見えないこともなかった。
普段なら見えないであろうその暗闇で、しっかりとその場所の造詣が理解できるのだ。
アタリを見渡してみると、何かの室内ということでもなく、真夜中の森というわけでもなく、ただただあるのは岩、岩、岩。
光をも通さぬ真っ暗闇の真っ只中であるということだけがわかる。
さらに、純白の世界では感じられなかった酸素の感覚や空腹などの五感が戻っていることから、ここが現実であることを突きつけられることがわかった。
いきなりつれてこられた異世界。
そこになぜか人違いでつれてこられたユタカ。
つまり、こういうことだ。
手違いで召還された勇者の異世界生活が今、ここに始まった。
ということである。
「イケメンが目の前にいたんですけどおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
一人カラオケで鍛えられた声帯で叫ぶことしか、彼にはできなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
ガチャンッ
と金属が落ちる音がすると同時に、『何か』の拘束は解かれ、顔に巻かれていた黒い布のようなものも脱ぎ去られ、手足を縛るものもなくなる感覚が何か……否、少女の体を巡った。
「こんにちは、こちらが見えますか?」
女装しているであろう男、ミハイルとやらが少女に向かって話しかける。
しかし、少女は縛られていた感覚で手足に力を入れることができず、かろうじて腕で身体を支えることしかできないでいる状況だ。
さらに、寝起きの感覚なのか、しばらく思考が巡らず、目を瞬かせて状況を理解することに全力を注ぐことになっている。
「大丈夫なのかしら……ホントに……」
不安そうな声を上げる女性を尻目に、男たちが少女に詰め寄ってあれこれと問いかける。
「なんでこんなところで拘束されてんの? 趣味か?」
「て、ガミラさん、こんなかわいい子に拘束趣味があるわけないじゃないですか。です」
「いや、わかんねぇぞ、こういう子に限って変態だったりするからな。」
「そんなわけありません!!」
「おぉう、言うじゃねぇか。 なんなら賭けるか?」
「望むところです!!」
「よし、買ったほうがミカミを好きにできるってことで!」
「乗った!!」
「ふざけんなぁぁぁぁぁ!!」
勝手に賭けの商品にされた女性、ミカミが憤慨して見せる。
彼女の風貌はいかにも戦士戦士していて、女の子という風貌をしていない。
アーマーをつけてはいるが、ほぼ肌はさらけ出しており、本人曰く『こっちのほうが動きやすい』だそうだ。
そんな彼女が商品にされ、ガミラとやらとミハイルとやらの賭けの商品となったらどっち道最悪の道しか残っていない。
ガミラが賭けに勝ってしまえば女として抱かれてしまうし(強姦ともいう)、ミハイルとやらが勝ってもミカミの嫌うフリフリのかわいい服を着させられる。
どちらも嫌で嫌で仕方ないミカミ。
ならなぜこんな二人と行動を共にするのかという疑問に対してはこう答える。
『稼ぎがいいから』
そんな無骨な性格をしているのだ。
「よし、もっかい聞くぞ、おいお前、縛られてたのは趣味か?」
「趣味じゃないですよね!?」
どっちも嫌だと憤慨するミカミ。
しかし、少女は答えない。
周りの状況を理解するので精一杯で、彼らの言葉など耳に入ってすらいなかった。
一瞬言葉が理解できていないのかと疑う男らだったが、あきらめずに詰め寄る。
「おぉい、なんか言ったらどうなんだ?」
ガミラが少女の方に触れて揺さぶってみる。
ここまですれば否応なしに返答をせざるを得ないといった魂胆からだ。
しかし、彼女から帰ってきた言葉はたったこれだけだった。
「あぁぁ……………」
その瞬間、三つの肉塊が出来上がる。
ぶしゃァアっと鮮血を派手な音を鳴らしながら噴出して息絶える。
そして、『何か』は理解する。
「いやあああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
自分は、目覚めさせてはいけないものであったのだと。
そういうわけでいきなりスプラッターな描写が入りましたが、これからはあまりスプラッターな描写はしないつもりです。
というか自分がスプラッターなのが嫌いなだけなんだけどね……
次回、なぞの少女とユタカの出会い!
乞うご期待!
とか言ってみる。