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第十四話『狐巫女』

最近忙しさが爆発してきました。

仕事の面接、賃貸見学及び引越し、

今の仕事に加えてこんなことを予定しております。


わぁーい、いっそがしぃぞぉー


というわけで、更新、滞るかもしらません

申し訳ありません



※17.12.15

文章一部改訂しました



「ついにきたか」


 ある人影が、ガラス球の前でそう呟く。


「恐らくは術士の衣装でも買い揃えに来たのじゃろうが……」


 それ以上に不満なのが、その中にあの男がいることだ。

 自分が失望したその相手、勇者。


「あやつは間違ってないとか言っておったがの……」


 人物は視線を上に向ける。

 実際に見えるのはただの天井なのだが、その先に見るある人物に対して恨み辛みの視線を向ける。


「じゃが、あれはない。 素質がない。」


 再びその人物はガラス球に視線を戻す。

 ガラス球が写す光景は勇者がウサ耳獣人と会話をしているところであった。

 その光景を見て、いっそうその人物の顔のしかめっ面が強くなっていく。

 完全な不快感をそれに向けていた。


「気楽そうに旅をしよって。 阿呆が」


 それがやはり嫌悪感しかないのだと自覚しつつ、その人は水晶玉から放て、建物の外に身を乗り出す。


「おい、誰かおるか」

「はっ」


 その人物の呼びかけに応じて、即座に答える一人の男。


「これから勇者が来る。 丁重にもてなせ」

「仰せのままに」


 人物の指示を受け、男は短く返答しながらその場を後にする。

 まるでそれは忍者のようで、擬音語を付けるなら『どろん』という言葉が似合うであろう消え方だった。


「さて、どうなるであろうな。」


 未来をつかさどる巫女と呼ばれているその人物、彼女にですらその未来さきは見えない。

 そんなことはないのだがな、と自分が巫女であることを嘲笑するが、やはりそんなことよりも失望感で彼女の頭はいっぱいであった。


「どこまで生き延びるのかの。 今回の勇者は」


 再び彼女は建物の中に入る。

 ガラス球を見るためじゃなく、ただのんびりするだめに。





◆◆◆◆◆◆◆◆





「着いたぞー」


 御者台でエルメスを操縦するのはユタカ。

 ウサに操縦法をきき、つたないながらも交代で御者台に乗ることになっている。

 馬と同じく紐を遣って進行方向や速度をエルメスに伝えるのだが、ある程度は操縦者の意思を汲み取ってくれるので、そこまで難易度の高いものではなかった。

 ただし、エルメスに乗りながら戦闘するのはそれなりに連度が必要なのだが、それはまた別の話。

 ただ鳥車を引っ張って人物や荷物を運ぶだけならば大きな問題はないのだ。


 そうして操縦していると、なにかの村がユタカの視界に入る。

 そこが恐らく狐人族の村なのだ。

 ユタカの声にあわせて顔を突き出すウサ。


「じゃあ、ここから門番さんに入村許可をいただいてからかわやに向かってください」


 ウサの指示のとおりにユタカは狐人族の村の門に向かってエルメスを動かし、狐人族が門番に声を掛けようとしていた。

 しかし、最初にユタカらの存在に気づいた門番は走りよってきて、声を掛けてくる。


「ようこそおいでくださいました。 勇者様とご一行さま」

「へ?」


 ユタカが自己紹介をしたわけではないのだが、正体に気づかれていて驚きを隠せないでいた。

 そんな様子を知ってか知らずか、門番をしていた狐耳の青年はユタカらを淡々と道案内へと歩を進める。


「なんかあっさりと案内してくれるんですね」


 当然の疑問だった。

 ユタカらは言ってみれば、身寄りの無い不審者だ。

 突然現れた人族を前にした対応ではないはず。

 もし自分らが狐人族を滅ぼすなどと考えていたらどうするんだと思ったユタカ。

 疑問に思うのは当然なのだろう。


「巫女様がおっしゃられたのだ」

「巫女様?」


 視線をウサに見蹴る。

 何か知っているのかと問いかけているのだ。

 しかし、ウサは顔を横に振る。

 どうやらこの世界で周知されている存在ではないのだろう。


「巫女様は我ら狐人族の長老様でもあり、一番発言力のあるお方だ」

「長老ねぇ。 ちなみにお年は?」


 長老と聞き、ユタカの頭では80代ほどの老婆をイメージする。


「そんなこと、本人には聞くなよ。 不敬にあたるからな。」


 どうやら長老とやらは年齢をきにしていらっしゃるらしい。


「私、狐人族の長老の話なら聞いたことがありますよ。 たしか、300年間ずっと長老っであったとか」

「三百年!? それは言いすぎなんじゃないの!?」

「事実だ。」


 ウサが途中で口を挟んだ。

 狐人族の巫女という単語からは何も発想できないみたいだったが、長老となれば話は別だ。


「獣人族ではかなりの長寿の方で、聡明な方だと聞いてますよ。」

「三百年以上も長老をやってたってことはさ、それ以上の年齢ってことだよな?」

「それ、本人の前で言ってくれるなよ」


 狐人族の長老の特徴を説明するウサに対し、ユタカが興味を持った単語は三百年のところだけだった。

 門番の男はそれを本人の前に言ったときの状況を恐れて忠告が入るが、ユタカは木に掛けずに続ける。


「ならさ、魔族が国に攻め入った話なんか知ってるんじゃないか?」


 ユタカの言葉を聞いて我冠せずを貫いていたチヨの目がユタカに向くのを感じた。


「何度か魔族が攻め入った話はあるので、歴史として記載されている可能性はありますね」

「いや、そういうのじゃなくて。 実際に生で見ないと歴史とは違う本当の話が聞けるかもしれないじゃん」

「まぁ、そうなんですけどね」


 実際、チヨが眠ってから起きるまでの間にどれだけの時間が経ったのかがわかっていないのだ。

 わかったからといって何かが変わるとは思えないが、それを知りたいだろう。

 それがユタカの勝手な想像ではあったが、チヨの反応を見る限りはビンゴなのだろうか。


「確かにいろいろと知ってらっしゃる方ではある」


 門番をしていた男がそんな風に口を挟む。


「聞かぬことにはあまりお答えしない方だが、聞けば大抵のことを答えてくださるんだ。 ある狐人族が長老のパンツの色を聞いたらそれも答えてくれたくらいだ。」

「マジかよ お前変態だな」

「オレじゃねぇよ」

「門番とかやめたほうがいいですよぉ、逆に危機を呼び起こしそうです」

「オレじゃねぇって!!」

「で、何色だったんだ?」

「ピンクだってさ……って何言わすんだ!!」

「やっぱお前じゃないの?」


 門番と聞いて、威厳のあるやつをイメージしていたユタカだったが、思った以上に彼とは仲良くできそうで少し安心する。

 少しいじったらボロを出してくれるから面白い。

 そういう人間をいじるのは楽しいのでユタカは隙だ。


「さて、そろそろ着くぞ。 そこの厠にエルメスをつなげて置いてくれ」

「あぁ、わかった」


 ユタカらは鳥車を降りて紐で引っ張って指定された厠に連れて行く。

 思った以上に自分に従っているので、またエルメスと仲良くできるのだろうか。


 異世界に来た当初は独りぼっちの暗闇でいたユタカ。

 チヨに出会い、迷宮から出たらウサとミサとであった。

 そこからこのエルメスと出会い、門番とも仲良くできそうだ。

 全ての始まりはチヨとの出会いだったのかもしれない。

 そう思うとやはり今、こうしてチヨと不仲になりかけてるのはイヤだ。

 仲直りがしたい。


『チヨさんに直接聞いたほうが良いですよ』


 やはりそうなのだろうか。

 エルメスをつないだ後、ユタカは視線をチヨに向けた。

 彼女もユタカのことを見ているようで、目が合うとチエは慌てて目を逸らした。

 彼女もそう思ってくれているのだろうか。

 それとも、なんらかの感情がマイナスに働いた結果なのか。


(こりゃあ話をきっちり付けておかないとまずいのかなぁ……)


 内心でそう思いながら憂鬱になるのを感じる。


 門番の案内で建物に入る。

 先程から思っていたことだが、狐人族の街並みは日本の江戸時代を思わせる瓦を使った切妻屋根を思い出させる。

 狐人族の建物は木の高床式の居住空間となっていた。

 建物自体、床から一、二メートルを浮かせた位置に建っており、いわゆるログハウスを思わせる形状だった。


 しかし、これから案内される建物はそれとは一線画していた。

 その建物自体の存在感が歪で、大樹の根っこに隠れた建物で、根っこに合わせて作られているのでどうしても真っ直ぐな柱が外からは見当たらない。

 恐らく中の柱や骨組みなんかは真っ直ぐな物があるのだろうが、よくこれで建てられたものだと思わせる。


 中に案内されると、今度は別の意味で驚かされる。

 まず目に入るのは玄関。

 日本と同じ発想なのか、扉から入るとまず靴を脱ぐことを説明された。

 フローリングの綺麗な床板で奥行きを広くさせる設計で、部屋を区切るトビラが襖になっているのだ。

 解放されている部屋を覗いてみると、これまた不思議な事に、見事な畳みが広がっていた。

 ここが日本の建物なのだと言われたら確実に信用する自信がある。


「どうじゃ、懐かしいであろう」


 トントンと足音を鳴らしながら、案内されている廊下の奥から人影が現れた。

 声色から女性の声だとわかるが、容姿がよく見えない。


「巫女様……っ、客間に案内いたすまで待機するよう言われていたではありませんか……っ」

「許せ。 驚いた顔を見るのは儂の趣味じゃ」


 門番の男が巫女と呼ぶその人物。

 聞いていた話から巫女がイコール長老なのだということはわかっていた。

 しかし、その声音は明らかに老婆のそれとは違った。


 若々しくはあるが、子供でもなく、そうでもなければ老いているのかとそうでもない。

 いわばお姉さんという声で男を魅了できるその声の持ち主。

 その人影は刻一刻とユタカらに迫ってくる。


「名を申せ。 勇者よ」

「え? あ、はぁ……」


 不意に名を問われ、答えようと口を開いた。

 しかし、ある事を思い出す。


『名前も知らない殿方と一緒にとか』


 そう、以前ウサに言われたあの言葉だ。

 ここで名乗っておいてもよかったのだが、自分だけそれを言われてしまうのはなんだか癪に思えてしまう。


(これって度量が低いってことなのかねぇ、オレも……)


 思いながら、ユタカは口を開く。


「そういうあなたは何者なんですか?」


その言葉を口にした途端、全員の視線がこちらに向いた。

 まるで何を言ってるんだこいつと言うように。

 門番の男など、顔色が悪くなっている。

く。

 当の本人であるユタカはえ? なんかした? 程度の認識だ。


「ばかっ、巫女様は先に名前を聞くことにこだわりを感じてんだよ!! だからお前が先に……」

「よかろう」


 慌てて小声でユタカに説明する門番だったが、もう手遅れだ。

 長老兼巫女である女性は、身体を震わせながら言葉を紡ぐ。


「ならば戦争じゃ」

「え? なにと?」


 彼女にとって、最大級の脅しであったのだろう。

 自信満々に言葉を言う。

 気持ち的には『慌てて訂正するなら許してやらんこともない』と言ったものだったに違いない。

 対するユタカは、何が起こっているのか分からず、頭にクエッションマークを浮かべることしか出来ずにいた。


「外れの勇者の実力、見せてもらおうではないか……」


 その言葉で初めて彼女に対してユタカはイラついた。

 彼女自身は全く関係の無い事情なのかもしれないが、『間違えたのはそっちじゃねぇか』という気持ちが働いたのだ。



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