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第十一話『ウサの怒り』

※17.12.15

文章一部改訂しました





 チヨ爆発発生の少し前、ウサは走り出していた。

 ミサの身柄を捕らえていた男のそばにより、ミサを押さえている腕を殴り、身体を殴った。


 結果として、ミサを離してしまい、男も遠方に吹き飛ばされてしまった。


 卯人族だとは考えられないほど強大な腕力で殴られた男は、それだけで大きなダメージを負っていた。

 そのウサは男のことなど気賀にもかけず、ミサを保護して霧の発生位置から可能な限り離れる。

 術士の戦いは広範囲になりやすい。

 味方とて巻き込みかねない規模なので、ユタカが真っ先にミサの救出を指示したのだ。

 そのまま逃げるように言われていたが、それではウサの気がすまない。


 全員に一発拳を打ち込まないと、ウサの恨みは晴れない。


「おねえ……ちゃん……?」

「お待たせです。 ミサ、助けに来たですよ」

「なんで……、なんで、私を……、私なんかを……」


 ミサは自分を抱えて佇む姉に向かって、涙ながらに問いかける。


「ミサ?」

「なんで、私を助けたんですか……、おねえちゃん……」

「なんでって、それは……」

「テンメェェェェェ!! このアマァァァァ!!」


 ウサが何かを言おうとした瞬間、男が憤慨する。

 この行為がさらにウサの青筋を増やすことになる。


「あなた、邪魔ですよ。 せっかく私がいいことをいう感動シーンが演出できたはずなんですよ」


 明らかな嫌悪を持って男をにらみつけるウサ。

 その迫力は皆無。

 むしろその表情からは愛らしさを感じさせるほどのものだったため、男はひるむどころか燃え上がった。


「ぶはははは!! 決めた!! テメぇ、オレの奴隷な!! 決定!!」


 ウサの眉間にしわがよっていく。


 ウサの怒りの表情を見て、ユタカが恐れを覚えたのには、普段のウサの表情を見ていたからだ。

 普段の愛らしいしぐさから一転、憎悪に満たされた表情に背筋が凍ってしまったのだ。


 一方で、普段のウサの表情を知らなかった男は逆に興奮しただけだった。


 股間からは山が出来上がっていた。


「……最低」


 嫌悪に侮蔑の表情も含めて男をにらみつける。

 ウサは抱えているミサを木に寄りかからせ、男と対峙する。


「お姉ちゃん……? どこに行くの?」

「ちょっと、悪漢退治をしてくるです」


 ウサはそうして男に向かって歩き出した。

 それは勇敢なのか、ただの無謀なのか。

 いくら殴りなれてるとはいえ、それが戦闘に役立つとは思えない。

 ただの喧嘩するチンピラレベルに過ぎないのだから。


「ダメたよ……、お姉ちゃん……」


 大きな声を出せないミサが精一杯出したものだったが、すでにウサの耳には入っていなかった。

 いつものウサなら聞こえていたかもしれない。

 しかし、今の彼女は激高しているため、耳に届いていても、頭には届いていない。


「お、おぉ? なんだ? 妹の代わりにオレの相手をしてくれるってか?」


 無駄に高まる男。

 もちろん、高まっているのは性欲のほうだ。


「おうおう、おいで、子猫ちゃん。 いや、兎ちゃんだな」


 男は山の出来た股間を強調しながら両腕を広げている。

 ウサが近づいた時点で抱擁してセクハラする気満々だ。

 しかし、ウサは何も言わない。

 自分からすれば鬼の形相になっているつもりでウサは男に迫っていた。

 男の懐にたどり着いた。

 そのまま抱擁しようと男は前に体重を乗せようとした。


 それは叶わない。


 ウサは一瞬右足を引いて身をそらしたかと思えば右手に拳を作り、前に突き出した。

 しかし、一瞬の判断で男は身をそらしてその拳をよけた。

 結果として、ウサのパンチは空振りに終わってしまう。


「おうおう、元気だねぇ、兎ちゃん」


 その行動に対する男の反応は軽口だった。

 一方で、ウサの反応は舌打ち一つするだけで、すぐに次の行動に移す。


 右手が空振りをする勢いで身体を回転させ、今度は左腕で肘打ちする。

 それも失敗に終わり、男はその肘を手で受け止めた。

 相当な衝撃ではあったが、拳の比較とはならないくらいに低いものだった。

 それなりに実践を経験しているものならば、力技でとめられるのは不思議ではない。


「お前、ホントに卯人族かよ。 にしては強いな」


 そのまま流れるように男はウサの左腕を背中に回して、空いた腕で首を絞める。

 完全に絡め取られ、動くことができなくなった。


「だが、なぜか腕しか攻撃に使わないんだな。 だから読みやすいぜ」

「なにを……っ」

「拳闘士を目指すならな、足技もそれなりに使えないとな」


 拳闘士とは拳を主に武器にして戦うもののことである。

 しかし、彼の中では拳闘士とは足を使う技術もあるのだ。


「ま、そんなことは関係ないけどな」


 ウサは男の腕をなんとか振り切ろうと暴れていたが、屈強な男の腕に絡まれているのだ。

 振りほどけるわけがない。

 むしろ首にしまる腕のほうがキツくなっていくだけだった。


「暴れるなよ。 おっぱい揉めねぇじゃねぇか!! はっはっは」


 これから性交するんだぜというがごとく、首に絞めている側の手をわきわき動かす男の風貌は不快だった。

 とにかく離れたい。


「ふっ」

「ぐおっ」


 なんとか解放されているほうの腕で肘打ちして男にダメージを負わせて一定の距離を取る。

 男の締め技から開放されたウサは距離を取るどころか追撃していく。


 再び右拳を前に突き出して攻撃を試みる。


「またそれか、ワンパターンだなぁ!!」


 今度は男のほうも攻撃に移る。

 ウサのパンチにあわせて放つように、左手で拳を作り、前方に打ち出す。


 このままだとウサと男の拳が接触するだろう。

 そうなればどちらが優勢になるのかは一目瞭然だ。


 しかし、その展開にはならなかった。

 右腕の勢いをいきなり殺したウサ。

 あっけに取られた男はかまわず拳をウサの頬に向けて反撃しようとする。

 一方のウサは、左腕を下方から突き上げるように拳を作る。

 無論、身体を左側に傾けるため、男のパンチをわずかな距離でかわす。

 そして、ウサの左腕での攻撃が男の顎にヒットする。


「ぐぅっ」


 小柄な女の子がやったとは思えないほど、男は吹き飛んだ。

 もう自分の身長分の高さまで上昇し、着地も出来ずに頭から地面に叩きつけられる。

 その際に歯が折れているのか、口から血が出ていた。


「ち……っ、ちくしょう……」


 やっと欲情とは違う色の声を出す男。

 頭が揺れてしまい、意識が朦朧とするが、なんとか立ち上がった男は悔しげにウサを見つめる。


「やっと気持ち悪い顔が消えましたね。」

「て……っ、てめぇ……」

「さっきあなたが偉そうに言っていたのって、こういうことですよね?」

「な……っ」

「なぜ……ですか? 昔教わっていたのです。 拳闘術を」


 ウサは昔、ユタカらにやったように、人族に殴りかかったことがある。

そのときにいろいろ教示を受けたのだ。

 若干皮肉ではあるが、その人族に襲い掛かった以前と以後では攻撃の威力が変わった。

 男が先ほど言っていた足技も、こういった足運びのことをいっていたのだ。

 足運びだけでなく、体重移動や拳の作り方だって教わった。

 下手な拳闘術ほど相手も自分も負う怪我が多くなるといわれていた。


 しかし、ウサにとって殴ることは苦痛でしかなかった。


 拳闘術とはウサにとって殴ることに繋がる。

 だから当時教えてくれていた人族の話をまともに聞いていなかった気がする。

 なんとなく言葉の切れ切れを思い出して今実行したのだ。


「そ……そんな実戦で初めてで……」

「え? 何言ってるんです? そんなの少し覚えてればできるものでしょ?」

「なっ」


 男とて、実戦だけで強くなったわけではない。

 なんらかの訓練を何度も繰り返して、実戦で強くなったのだ。

 それをたった一度聞いたことがあるという程度の認識でここまで実践してしまうのだ。


「く……、天才め……」


 なぜかわからないが、男はウサを憎たらしそうににらみつけ、腰に下げていた小剣を抜き、切っ先をウサに向けて構えた。

 もうウサを犯そうと考えているわけではなさそうだ。

 完全に殺すつもりで構えていた。


「もうあきらめたほうがいいですよ。 立っているのもやっとじゃないですか」

「うるせぇんだよ。 天才が」

「天才とか、あなたに呼ばれたくないんですが……」


 なぜか天才を妬む男。

 理由を問いただす気のないウサにとって、勝手な呼び名が男の中で定着していることを不快に思う。


 ウサは走り出す。

 男に留めを刺すためだ。

 小剣の切っ先にも怯えずに向かっていく。

 その様に若干動揺した男だったが、なんとか立ちなおした男は小剣を突き出した。


 男の動きはウサに簡単に読むことができる。

 ふらふらな上に、やっと小剣を突き出すことができるようなレベルだ。

 一瞬で男の懐まで踏み込んで、ウサは右手で男の頬を殴り飛ばした。


 倒れこんだ男に立つ力が残っていなかった。

 もう気絶寸前までに行っていたのだ。


「なんだ、結構タフですね。 見た目どおりですけど」


 そんな男に情け容赦を掛けない。

 ウサは男の前に立ち、拳を握り締める。


 もう生きることをあきらめたのか、男は目を閉じて小生を振り返っているのだろう。


「妹に手を出さなければ、あなたは生きながらえてたかもしれませんね」


 言い終わると同時に、ウサは拳を振り下ろした。

 狙う場所は山を作り出していた男の股間だ。

 手で触るのは不快ではあったが、それ以上にこんな男をのさばらせておきたくなかった。

 それで殺しておこうかとも考えたが、この男の血で自分の手を汚したくなかった。

 最終的にウサは妥協で股間をつぶすことにしたのだ。


 男は悲鳴を上げることもなく気を失った。


「もう会うことはないと思います。 さようなら」


 ウサは男から背を向けて歩き出した。

 木にもたれかかるミサを目指して。


「お姉ちゃん……」


 ずっと暗闇で待っていることしかできなかったミサが、やっと自分の下に足音が近づいてくるのを感じて声を出した。

 誰の足音かわからなかったため、自分が望む相手の名を呼ぶ。


「ミサ。 無事ですか」

「……はい」

「よかったです」


 ウサはミサを抱きしめ、無事を喜んだ。


 昨夜、ミサがいなくなっていた。

 一晩中森中、山中、村中を満遍なく探した。

 何度も石を投げられて、怪我をした。


 でも結局ミサは見つからず、絶望した。

 絶望して、八つ当たりをしてしまった。

 最初からユタカがミサを誘拐した犯人だとは思っていなかった。

 それでも犯人の心当たりがユタカしか見当たらなかったのだ。


 そんなユタカに説得され、ウサはミサを助けることを決意し、ここまでたどり着いた。

 やっとだ。 やっとたどり着いた。


 こんなに一日が長く感じたことはなかった。

 そして、こんなに知日が短く感じたこともなかった。

 そう、ユタカに助けられてからウサが感じた一日は短く感じた。


 もうあっという間にミサの元にたどり着いて、あっという間にミサを助けられた。

 それを実行したのはチヨであり、ウサであった。

 しかし、ユタカがウサの心を研ぎ解してくれなかったらこんなにもあっさりと敵を倒すこともできなかっただろう。


「お姉ちゃん、さっきの言葉の続き、聞かせてくれませんか……?」

「あぁ……、そうですね」


 先ほどの言葉とはあの男に遮られたあの言葉だ。


「あなたを助けるなんて、当たり前のことなんです。 だって、私は……」






「あなたのお姉ちゃんですから」





 ウサがミサを助ける理由など、これだけで十分だった。






どこの少年漫画ですか?

と突っ込みたいところでしょうが、どうかご勘弁を。

戦闘シーンの描写はなかなか難しいものですが、精一杯がんばりました。


残りの敵の数は3人。

日本から来て一ヶ月もたたないユタカが三人を相手になんとかがんばります。

というわけで、次回にまたお会いしましょう。

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