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恋する乙女と無力な長

 女子会――そんな名目で始めたはいいものの、始めは普段の過ごし方を話した。

 騎士団としての一日、休日の一日……適当に話して一区切りがつき、ようやく女子会らしいことを話し始めたのだった。


「いつになったら進展することやら……」

「そうは言われてもっ」


 何故シンシアが話しているのかというと、私にはそんな浮いた話が皆無だからに他ならない。

 フルミネには先ほど聞いてしまったし、シンシアしか話題を出せなかったのだ。


 でも、私は既にシンシアの片思い相手を知っている。だから、フルミネに打ち明けるような形になってしまっていた。


「それに、私なんて嫌われているに決まってます……」

「テトに限って、それはないと言っているだろう?」


 私がそう言い切れるのも理由がある。その相手――テトも、シンシアに少なからず好意を抱いているのを知っていたから。


 二人の関係は、所謂(いわゆる)"両片思い"というものに当たる。

 見ている側からすれば焦れったさ極まりないのだが、第三者である私がそれを言ってしまうのは違うだろう。


 結局は本人達が動かなければ駄目なのだ。しかし、そんな状態が何年も続き、未だに進展はない。


「いっそ、告ればいいではないか」

「無理ですっ」


 首をブンブンと振るその姿は、騎士団の副団長には見えない。ただの恋する乙女である。

 ……でも、この膠着状態も、ようやく終わらせられるかもしれない。


「フルミネ、恋愛の先輩としてシンシアに助言をしてくれないか?」

「ええ!? む、無理ですよっ」

「私も、お願いしますっ」


 シンシア自身もフルミネに頭を下げた。彼女自身、恋愛に消極的なのではない。どうすればいいのか分からないだけなのだ。

 私には恋愛の経験が全くない。だから、本当は私もシンシアに助言をできるような立場ではなかったりする。


「二人はどのようにして知り合ったのだ?」

「……川で溺れていたシンを私が引き上げました」

「そ、それから?」

「……行く宛がなかったシンを居候させてました」


 フルミネの話は参考にならなさそうだった。そもそも、状況が普通じゃない。

 そういえば、ゲンブがいた森で五年過ごしていたという話だ。それなら、二人の馴れ初めが普通じゃないのも道理である。


 今の話からシンシアに助言もできなくはないが、絶対に本人が拒否するのは目に見えている。

 ……まあ、試しに言ってみよう。


「シンシアとテト、同部屋にするのは」

「断固拒否します」


 やはり、予想通りの反応だった。




 * * * *


 ▼ ▼ ▼ ▼




 夕食は食堂でフルミネ達と合流して食べたのだが、献立はまさかの唐揚げ定食だった。しかも、味噌汁付き。

 話を聞いたところ、ガロウナムスから離れて西の方に養鶏場や養豚場を経営する村がいくつかあるらしい。


 ――そして、今は夕食後。場所は騎士団本部の大浴場。


「あぁ……極楽ぅ……」

「おっさんかよ」

「…………」


 テトさんに指摘されて口を閉じる。言い訳をさせてもらうとすれば、これはお風呂大国である日本人の(さが)なのだ。


 良い湯船には間抜けぐらいの声が似合うと、かつて学校の先輩が言っていた。むしろ「そうしなければ失礼だ」と。

 ……今振り返ると、失礼ではないよな。僕はどうしてあの時納得した。


「――団長じゃねえか。そっちの坊主は……見たことねえ(つら)だな」


 湯船に浸かっていると、見知らぬ男性が話しかけてくる。


「こんばんはっす。こいつは俺の部隊に明日から入る新入団員っすよ」

「おお、そうだったか。よろしくな、坊主」

「は、はい。よろしくお願いします」


 不思議だった。

 テトさんは「自分は団長になる資格なんてない」と言っていたが、目の前の男性はテトさんが団長であることを認めているように見える。


 今日、ガロウナムスを見て回った時もそうだ。

 時々、巡回中の騎士団員に挨拶したのだが、皆、テトさんのことをちゃんと"団長"か"テトさん"と呼んでいた。軽口を言う人はいれど、嫌っているような素振りを見せた人は一人もいない。


 だからこそ、テトさんが何故自身をそこまで卑下するのか分からない。


「シン? のぼせたか?」

「……そうかもしれません。先に上がって待ってます」

「おう」


 そうして、僕は先に上がることにした。


 脱衣場で服を着ながら考える。しかし、いくら考えても分からない。

 それとも、周りに認められているからこそ自分が許せないとか?


「……また突っ込み過ぎるのも駄目か」


 グラディスさんとレティも、きっと何かを抱えている。

 それら全てに首を突っ込むのもどうかと思う。少しは自重するべきだろう。


 脱衣場から出て、広間に置かれた長椅子に腰掛ける。人の視線が気になるが、先に部屋に帰ってしまう訳にもいかない。


「――おお、シンか」

「ラミアさん?」


 ラミアさんはフルミネをおぶってこちらに歩いてくると、長椅子に彼女を下ろしてラミアさんもその隣に腰掛けた。


「フルミネ、のぼせちゃいました?」

「急に倒れた時は焦ったぞ。そういう体質なら先に言ってほしかったのだが、まだ我らに心を許してくれてはいないようでな」


 そう言って、目を半開きにしてボーっとしている様子のフルミネの頭を撫でながら、寂しそうに笑う。


「そんなことないと思いますよ」

「そうだといいんだが」


 ラミアさんがそこまでフルミネのことを気にかけてくれているのは、自分のことではなくとも嬉しく思う。


「何故、シンが喜ぶ?」

「……え?」


 顔に出ていたようで、慌てて口元を隠す。すると、ラミアさんに苦笑されてしまった。


「顔ではない。尻尾だ、尻尾。自覚はないのだな」

「尻尾?」


 首だけ後ろに向けると、犬のように左右に揺れる尻尾が目に入る。そう、僕自身の。


「これ、どうやって抑えればいいんでしょう」

「我に聞かれても」


 とりあえず、両手で掴んで止める。そして、ゆっくり深呼吸をする。


「……あ、止まった」

「まさか自覚していなかったのか?」


 確かに、レティも耳や尻尾が感情を示すかのように動いていた。

 ……もし、僕もレティと同じように、今までも耳や尻尾動いていたとしたら?


「周りに感情垂れ流してた……!?」

「我はシンの尻尾が動いているところを見たのは初めてだぞ」

「良かった」


 心の底から思う。本当に良かった。

 しかし、これまでも無意識に尻尾が動いていたとすれば、フルミネにもそれを見られてるということだ。

 それはつまり、僕がどんなにポーカーフェイスを装っていた時も、体は正直に反応していたということになる。


 ……うん、恥ずかしすぎて死ねるな。


「自分で制御していたのではないのか?」

「恥ずかしいことに、今初めて動いてることに気づきました……」

「そ、そうか……あはは」


 ラミアさんは僕の言葉に対して、ぎこちなく笑う。気を遣うならもう少し上手く演技してほしい。


「ぅぅ……んぅ……」

「フルミネはまだ駄目そうだな……」

「そういえば、フルミネがのぼせた時、目覚めたのって次の日の朝でしたよ」

「そんなになのか!?」


 ラミアさんは驚くように声をあげる。

 そして、悩むように顎に手を当ててしばらく何かを考えた後、遠慮がちに僕に言った。


「シン、頼みがあるのだが……」

「何ですか?」

「フルミネを部屋まで運ぶのを手伝って欲しいのだ。我も人間よりは力がある方だが、その……」


 ラミアさんが言い(よど)む理由は分かる。フルミネの体重のことだろう。


「それなら、僕が運んじゃいますよ」

「む? どうするのだ?」

「これぐらいなら……よいしょっと」

「……フルミネもだが、見た目に似合わず力持ちなのだな……」


 僕がフルミネをおぶると、ラミアさんは驚いた様子で声を漏らす。


「これもスキルあってのことですから」

「[能力改変]とやらか。便利そうだなぁ」


 確かに使い勝手はいい。フルミネをおぶれるのもこのスキルがあるからである。

 この世界に来てから、[能力改変]には助けられてばかりだ。それどころか、このスキルなしに生きていけなくなってしまったかもしれない。


「……あっ」

「どうした?」

「実は、テトさんを待ってたんですよ」


 危うく忘れるところだった。でも、どうしよう。


「なら、我が伝えておこう。フルミネの荷物も後で部屋に届ける」

「お願いします」


 ラミアさんにテトさんへの伝言を頼んだ僕は、フルミネを部屋まで運ぶことにした。




 道に迷うことなく部屋の前まで辿り着いた僕は、ここである失敗に気づく。


「鍵貰ってなかった……!」


 この騎士団本部の各部屋には、当然、防犯のために鍵が付いている。僕もフルミネも、始めにシンシアさんから渡されているのだ。


「あれ?」


 仕方なく自分の部屋に運ぼうとして、気づく。


 僕も自分の荷物……タオル等を小さい入れ物に入れて持ってきていた。そして、その中に鍵も入っている。

 しかし、今はフルミネをおぶるために両手を使っていた。つまり、だ。


「……マジかぁ……」


 扉の取っ手をガチャガチャ動かしても、開かないものは開かない。


 荷物を忘れたのは広間だ。この場所から浴場前の広間まではそれなりの距離がある。

 こうなったら戻るしかないのだが、フルミネをおぶってこの道を往復するのはそこそこ骨が折れそうだ。


「頑張るか……」

「何事?」

「部屋の鍵、広間に忘れちゃってさ……って、え?」


 声のする方を見れば、初対面で銃を突きつけてきた獣人少女――レティが立っていた。

 

「……取りに行く間、フルミネのことお願いしてもいい?」


 レティは気力の感じないジト目で僕とフルミネを交互に見る。

 僕達があまり歓迎されていないのは分かる。だから、断られても仕方がないと思っていた。


「待って」

「え?」

「片付ける」


 そう言って、レティは自分の部屋に戻った。しばらく待っていると、彼女は扉から顔を出して手招きしてくる。


「来て」


 その言葉に従うようにレティの部屋に入る。


「……なるほど」

「こっち」


 レティが"片付ける"と言った理由が分かった。

 床一面に広がる何かの部品と思しきものが散らばっている。そして、奥には椅子、机、銃、服等が粗雑に置かれていた。


 壁際にガラクタの山が連なり、ベッドまでの道はギリギリ足の踏み場がある程度。僕はそこを通って、なんとかフルミネをベッドに寝かせることに成功した。


「レティ、ありがとう」

「ん」


 ラミアさんがレティを"本当は優しい子"と言っていたのが分かった気がする。

 僕に銃を突きつけるほど毛嫌いしていたのに、こうして部屋に入れてくれた。お願いを聞いてくれた。


「早く」

「――っ、ごめん。じゃあ、行ってくる……え?」


 レティに促されて広間に戻ろうと足を踏み出したが、袖が引っ張られるような感覚があり、振り向く。


「……どうしよう」


 フルミネは眠ったまま、僕の服の裾をしっかりと握りしめていた。

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