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竜の魔獣

 揺れも小さくなり、ウリエーミャと僕はすぐに立ち上がって体勢を整える。


「シン、あんたはこの飛行船に乗ってる子供とか、戦えない人達をできる限り安全な場所にまとめて。私がここを引き受けるから」

「え、引き受けるって……」


 極めて落ち着いた様子で言ってのけるウリエーミャに対し、素直にはいと答えることはできなかった。


 恐竜もどきは雪崩(なだ)れのようにこの狭い通路に侵入してきている。

 いくら死なないとは言え、これを一人でせき止めるなんて無理があるのではと思ってしまったからだ。


「私は七聖よ。あんな魔獣程度に(おく)れなんか取らないっての」

「本当に?」

「当たり前でしょ。『神器解放』」


 その宣言と同時に、ウリエーミャの左腕に着けられた腕時計が光る。


 ――次にウリエーミャを視認できたのは、その魔獣達を殴る瞬間だった。

 魔獣一匹に対してそれぞれ一発ずつ、合計六撃。そこに移動の過程はなく、次々と彼女の残像が位置を変えていく。


 僕は目の前の光景に理解はできても頭は追いつかず、呆然と立ち尽くしてしまう。


「早く行きなさい」


 ようやく彼女の姿をまともに視認できたかと思えば、こちらを振り向くことなくそう叫んだ。

 そして、今度は視認できる程度の、それでも尋常じゃない速度で竜の魔獣を殴り、蹴り飛ばしていく。こちらに突撃してくる魔獣を一匹も漏らすことなく。


「最悪、まとまらなかったらあたしの名前を使えばいいわ。分かった?」

「――っ、分かったっ」


 僕はようやく足を動かすと、ウリエーミャに背を向けて、揺れる船内を駆けた――。




 ▼ ▼ ▼ ▼




「何だ……?」


 魔道具の点検中に襲った異常な船内の揺れ。廊下も騒々しい。

 恐らくこの飛行船で何か起こったのだろう。よりにもよってこの点検中になんて、間が悪いにもほどがある。


 ……どの道、この揺れの中で点検は無理か。


「魔道具に戻れ」


 魔力を込め直し、()()()()はフルミネの内臓を補うために口から体の中に戻っていく。


「『解凍』」


 停止を解き、神器も元の形(首飾り)に戻して首にかける。

 元々、内臓の方の点検は終わっていた。手足の点検だけなら、フルミネが起きている時でもできる。


 最後に、あたしはフルミネの胸に手を当てて鼓動を確認する。


「……ちゃんと動いてるな」


 これからの方針も大体決まっている。

 あたしは、フルミネが風邪を引かないように体に毛布を被せてから、廊下に出るために扉の取っ手を――。


「ギギャアア――」

「永遠に口を閉じろ」


 扉を突き破ってきた竜の魔獣に、顎から頭蓋にかけて氷柱(つらら)で貫く。ほぼ反射のようなものだった。


「ここも危ないな……」


 フルミネはここに置いていこうと思ったが、部屋の中も安全とは言い切れないらしい。


「『凍土壁』」


 廊下に出てから、[氷魔法]と[土魔法]を合わせた壁で扉を塞いでおく。

 閉じ込める形になってしまうが、これで寝ているフルミネに危害は及ばないだろう。


 窓の外を見る。

 しかし、何もいない。窓には内側から傷つけられたような跡が残っているだけだ。


「本体はどこだ……?」


 この船に小型の魔獣だけで侵入することは不可能だ。その程度の魔獣の対策ぐらいならされている。

 ということは、この船を襲ったのは大型の魔獣。その魔獣がぶつかるなりしてこの船のどこかに穴を空けた後、そいつの子供であるこいつらが侵入してきたのだろう。


 ……そもそも、おかしいこともある。


「どうしてこの空域に竜がいる?」


 竜はもっと北の山岳地域に生息している筈だ。少なくとも、王都の付近には生息していない。

 分かるのは、その山岳地域で何かがあったことぐらいだが……後でアルバに連絡しておくか。


「――っ!」


 再び大きな衝撃と揺れに襲われる。


 ……不味いな。このままだと船が墜ちる。

 ウリエーミャも動いているとは思うが、あいつの神器は対多数には向かない。守る対象がいるなら尚更だ。


 あたしの神器なら居場所を特定しなくとも元凶を墜とせるが、その場合はこの船も一緒に墜とすことになる。

 しかも、余波で乗客を巻き込むだろう。だから、神器は使えない。


「まずは大型の位置の特定からか」


 魔獣は本能で動く。むしろ、それ以外で動かない。

 つまり、獲物――人が集まっている場所を狙う。


 この船で人が集まる場所と言ったら、大広間か操縦室。だが、操縦室には犯罪防止のために雇われた守人が配備されている。

 それに、ここからは大広間の方が近い。なら、先に目指すのは大広間だ。


「あとは、竜の子供相手に戦える守人(ガーダー)がこの船にどれくらい乗っているか、だが……」


 あまり期待を持ちすぎるのも危険だ。

 あたしは通信用の魔道具を片手に、大広間に向かった。




 ▼ ▼ ▼ ▼




 ――大広間――


「『炎縄』『風壁』『水牢』、ぜあっ!」


 大広間に向かってくる魔獣達を魔法で作った罠で足止めし、その首を大剣でぶった切る。


「おっさん、やるな!」

「おっさん言うな! "コンビニ"さんって呼べ!」

「まあまあ、いいじゃんおっさんでも」


 ツいてねえ。久々にあいつらの様子でも見に行こうとした矢先、こんなことに巻き込まれるとは思わなかった。

 それに、この二人、年上を敬うことを知らねえのか。これだから最近の若い守人(ガーダー)は……。


「きゃあああ!」

「チッ」


 若い女に襲いかかる魔獣目掛けて大剣を投げつける。


「『炎縄』!」


 流石にこの剣は易々と捨てられるものじゃない。

 魔獣に突き刺さった大剣を魔法で掴み、思いっきり引くことで手元に戻す。


「「おおー」」

「お前ら感心してる余裕あるならもっと手伝え!?」


 なんで後ろで待機してるんだよ。今の結構危なかったぞ?


「だって、おっさんを自由に立ち回らせて俺らが補助した方が効率良いんだもん」

「それに、俺達は竜の魔獣をあんたみたいにバッサバッサ倒せねえし」

「むっ……!」


 正論だ。反論できねえ。

 こいつら、意外にちゃんと分析してやがる。これだから最近の若い守人(ガーダー)は……!


「おっさん、何笑ってんの?」

「正直キモい」

「おいやめろ」


 クソッ、せっかく見直してやったのにこれか。つくづくツいてねえな!


「きゃあああああ!!」

「うわああああん!!」

「おっさん! これ何!?」

「……分かるけど、分かりたくない」


 乗客の悲鳴で振り向くと、大広間にある窓の外にこちらを覗く瞳があった。


 本当にツいてねえ。

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