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大人舌

 王都がみるみる小さくなっていく。つまり、それだけの速度で飛行船が上昇しているということだ。


「でも、まさかこんな垂直に発射するとは思わなかった……」


 この飛行船、どうやって飛んでいるんだろう。

 外から見た時もエンジンらしきものは見えなかった。やっぱり魔力で浮いているのだろうか。


 ……この世界に毒されてきている自分がいる。

 魔力で浮くってなんだ。何故それで納得した自分。


「――ただいま」


 不意に聞こえた声に振り向くと、ウリエーミャがこちらに向かって歩いてきていた。


「空き部屋は見つかったのか?」

「今回は満室みたい。だから、二泊ぐらい我慢するわ」

「ぐふっ」


 我慢って……仕方のないこととはいえ、流石に傷つく。もう少しオブラートに包んでほしい。


「それより、シン」

「な、なに……」

「ちょっと話があるんだけど、時間取れる?」


 話……?


「それとも、何かすることでもあった?」

「特にないけど……」

「なら、決まりね。ついて来て」


 そう言って、ウリエーミャは先程歩いてきた道を引き返していく。


「……なんかよく分からないんですけど、とりあえず行ってきますね」

「分かった。昼食までには戻ってこいよ」

「はい。フルミネも、行ってくるね」

「うん……いってらっしゃい」


 二人に軽く手を振り、見送られながら、僕はウリエーミャを追いかけた。




 ▼ ▼ ▼ ▼




 シンを見送ってから、あたしとフルミネは部屋に戻った。


「何の話してるんだろ……」

「さあな」


 フルミネの問いに、適当に返す。けれど、ウリエーミャの話はなんとなく見当がついていた。

 ウリエーミャの話は、多分ホワルのことだ。逆に、それ以外考えられない。


 この飛行船に乗った理由も、シンにホワルのことを聞くためだろう。

 ウリエーミャの場合、移動は飛行船に乗るより自分で走った方が速い。それはつまり、ウリエーミャがわざわざ飛行船に乗っているということになる。


 けれど、あたしにはどうでもいい話だ。それより、今のうちにやっておかなければならないことがある。


「フルミネ、久々にちょっと魔道具の点検するから、服脱いでくれ」


 ガロウナムスに着く前に、騎士団に入る前に、これだけは確認しなければならない。


「服も脱ぐの?」

「内臓の魔道具の方も確認する。六年も点検してないんだ。少し心配でな」

「特に何も起きてないけど……うん、分かった」


 そう言って、フルミネは上から服を脱ぎ始める。


 ……外から見たところは特に不具合も劣化も見当たらないな。流石は幻の金属といったところか。


「あ、あのさ、師匠……」

「ん? どうした?」

「その、そんなジッと見られると、流石にちょっと恥ずかしいから……せめて脱ぎ終わるまで待っててほしいんだけど」

「……?」


 何を恥ずかしがることがあるんだ? それに、どちらにせよ、そのお願いは聞くことができない。


「手足の動きも正常か確かめないといけないんだ」

「そ、そっか……」


 フルミネに納得してもらい、あたしはフルミネを観察を続ける。でも、動作も特に異常はなさそうだ。


 フルミネは服を脱ぎ終わると、それを綺麗に畳み始めた。


「あ、フルミネ、下着も全部脱いでくれ」

「えっ」

「じゃないと、内臓の魔道具の点検ができない」

「……わ、分かった……」


 フルミネはゆっくりと下着に手を掛け、スルスルと脱いでいく。

 同性なんだから恥ずかしがることなんて何もないと思うんだが……何でだ?


「……はい、脱いだよ……」

「じゃあ、これを飲んでそこのベッドに横になってくれ」

「……これ何?」

「遅効性の麻酔薬だ。内臓の魔道具も見るって言っただろ?」


 あたしがコップに入った麻酔薬を手渡すと、素直にフルミネはそれに口を付け――。


「苦ぁっ!?」


 ――すぐに口を離した。

 そういえば、フルミネは苦いものが嫌いだったか。でも、ここには苦味を緩和するような都合の良いものは無い。


「頑張れ。フルミネなら飲める」

「む、無理っ、苦いし不味いよっ!」


 ……そうか、駄々をこねるというのなら仕方ない。最後の手段だ。


「フルミネはまだ子供舌だったか……」

「んなっ」

「シンが聞いたらどんな反応するだろうなー。きっと、笑うだろうなー」

「し、シンは笑わないもんっ……多分」

「さあ、どうだろうなー」

「うぐぐぐぐっ……」


 思っていたよりしぶとい。昔はもっと素直な子だったんだが……やっぱり環境のせいか?

 そして、どうするか。もう万策尽きた。それでも、何が何でも飲ませなければ点検ができない。


 ……いや、まだだ。


「フルミネはこれが飲めれば、多分、ブラックコーヒーも飲めるな」

「え、やだっ、苦いっ」


 予想通りの反応が返ってくる。よし、ここからだ。


「いいのか? ブラックコーヒーを飲めれば、晴れて子供舌から大人舌に認定されるんだぞ?」

「お、大人舌……!?」


 少し目を輝かせてるところ悪いがそんな舌はない。だが、どうにかフルミネは騙されてくれたようだ。


「飲めたらカッコいいだろうなー」

「うう……っ!」


 フルミネは目線を彷徨わせた後――勢いよく麻酔薬を口の中に流し込んだ。


「〜〜〜〜! ――!」

「よし、よく頑張った。偉いぞフルミネ」


 声にならない声をあげながら口を押さえてしゃがみ込み、悶えるフルミネの頭を撫でる。


「じゃあ、ベッドに横になってくれ」

「ぅぅぅぅ……」


 呻き声をあげながら、フルミネはフラフラとした足取りでベッドに向かい、倒れ込む。


「……すう……」


 そして、そのまま寝入ってしまった。


「これ、遅効性なんだけどな」


 効くの早すぎないか? 麻酔がしっかり効いてくれる分には困ることはないが、これが魔道具の不具合という可能性を考えると少し不安だ。


「『神器解放』」


 あたしは点検をするために、早速、神器でフルミネを停止させた。

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