これから先
――ロトン/5カ――
「はあ!? ゲンブが殺された!?」
日付が変わった頃、王宮に戻ったグラスさんと僕はゲンブさんのことを伝えると、ウリエーミャはあり得ないといった様子でグラスさんに聞き返す。
「そもそも、四帝は死ぬのか?」
「いや、まあ、そりゃ生き物だもの……けど、本当なの?」
ウリエーミャは戦王の質問に答えた後、再びグラスさんに聞き返す。
「こんな意味もない嘘、吐くと思うか?」
「死体は?」
「もう無い」
「……そう。ならいいわ。それにしても、また訳の分からないことが起きたわね……」
そう言って、ウリエーミャは頭を押さえる。"また"ってことは、他にも何か起きているのだろうか。
「とりあえず、この話は後回しにするわよ。今はこれからの話をしましょ」
「これからの話?」
「そうよ。やっと七聖が七人揃ったんだもの」
「……やっと?」
ウリエーミャのその物言いに引っ掛かった。
フルミネが五、六年間いなかった、という話なら特に変なことは無いのだ。むしろ、それが普通の一言だと言える。
それなのに、理由も分からない違和感を感じてしまった。
「七聖が七人揃うことは滅多に無いんだよ」
そんな僕の疑問を解消するかのように、グラスさんが口を開いた。
「七聖は神器に選ばれた者。そして、神器は継承者を自分で選ぶ……この意味が分かるか?」
僕は分からず、首を横に振る。
「何十年も神器が継承者を選ばなかったら、どうなる?」
「え? まさか……」
「ああ、そのまさかだ。だから、七聖は七人が揃うことはほとんどない」
グラスさんの言葉の意味をようやく理解し、絶句する。
七聖が揃わないことに絶句したのではない。七聖がいなかった時代も存在することになる、ということに絶句したのだ。
ウリエーミャは両手でパンっと音を鳴らし、口を開く。
「話、戻しましょ」
「……そうだな」
「でも、その前に、勘違いしてそうだから言っておくわね」
そう言って、ウリエーミャは僕に向かって指を突きつけた。
「シン、七聖が誰一人として存在しない時代なんて無いわ。それは私が断言する」
「え、そうなの?」
「根拠は私よ」
得意げに、白いポニーテールを揺らして言い切るウリエーミャ。
……ちょっとよく分からなかった。
「ウリエーミャは人間ではない」
「そうなんですか?」
戦王の言葉に驚き、僕はウリエーミャをマジマジと見る。
……どこからどう見ても人間にしか見えない。何の種族なんだろう。
「そもそも、私は人じゃないわ。"使徒"よ」
「使徒?」
「ほら」
ウリエーミャにステータスカードを突きつけられる。
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ウリエーミャ error 女 使徒
魔力:A
魔法:
スキル:
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「……色々説明お願い」
「この年齢の表示は私が限度を越えてるから。使徒って言うのは、簡単に言うとホワル様の御使いみたいなものよ」
話がぶっ飛び過ぎていて、理解が遅れた。
年上だとは分かっていたけど、まさかそこまで上だとは思っていなかった。
それに、魔法やスキルも持っていないということにも驚いている。
「ウリエーミャはいつから七聖に……?」
「忘れたわ。五千年は経ってるんじゃないかしら?」
これでハッキリした。ウリエーミャはそれだけの年月を戦い、生き延びてきたということを。
……でも、そんなことが本当に可能なのだろうか。
魔人に対して圧倒的な強さを持っていればそれも容易いかもしれないが、それならとっくのとうに魔人を倒している筈だ。
つまり、全ての戦いにおいて引き分けに持ち越してきたということになる。そんなことが可能なのか。
「何考えてるのかはなんとなく分かるから先に言っておくけど、私は不老不死よ」
「は?」
「正確にはほぼ不老不死ね。使徒は肉の一片でも残ってたら、そこから体を再生できるの。ホワル様が生きてる限りだけど」
「…………」
こういう時、どんな反応をすればいいのか分からない。何そのチートスペック。
「話を戻すわよ。まずはシンとフルミネのことね……って、フルミネがいないじゃないの」
「ああ、フルミネなら部屋で休ませてる。車酔いしたみたいでな」
「貧弱ねえ」
確かに車酔いも理由に含まれてはいるが、フルミネが部屋で休んでいるのはもっと別の理由だ。
僕だけはその理由を知っている。でも、言えない。
……グラスさんが泣いて、ゲンブさんが消えていったあの場を、実は僕達も見ていたなんて言える訳がない。
彼女がそれに気づいた様子がないのは幸いなことだった。
「なら、これも後回しね。別にそんなに急ぎの話でもないし。じゃあ、次に戦争の話ね」
「……何?」
ウリエーミャの言葉に、グラスさんは顔をしかめる。
「魔人との、か……」
戦王は顎に手を当てて納得するように呟くと、ウリエーミャは深く頷く。
そのタイミングで、僕はウリエーミャに問いかける。
「これ、僕が聞いていいものなの……?」
三人は七聖だ。けれど、僕は違う。フルミネならまだしも、僕なんかがこんな大切な話を聞いてしまっていいものなのか。
「え? あ、そうね……アルバ、口外しないなら別にいいわよね?」
「……いや、駄目だ」
ウリエーミャの提案を戦王は却下する。当たり前と言えば当たり前か。
「なら、僕はフルミネの様子を見てきま「その必要はない」……はい?」
「その必要はない、と言った」
グラスさんが声のトーンを落とし、僕に言う。
……僕、何か怒らせるようなこと言ったっけ?
「グラス?」
戦王もグラスさんの様子の変化に気づき、名前を呼ぶ。しかし、グラスさんは反応しない。
「ウリエーミャ」
「私?」
声をかけられたウリエーミャは首を傾げつつ、グラスさんの次の言葉を待った。
そして、グラスさんは軽く深呼吸して――言った。
「戦争はもうしない」




