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ある日、森の中、猪に出会った

[能力改変]による変更時のステータスは、基本的に最初の一回しか書きません。

シンが既存のステータス割り振りを変更した場合は、しっかり書きますのでご了承を。

 ――気づくと仰向けで倒れていた。

 視界に広がるのは綺麗な青空と、木の葉っぱ。草木が風に吹かれ、揺れる音が耳に入ってくる。

 体を起こして、辺りを見回す。


 どこからどう見てもここは森の中だ。


 僕はそっと目を閉じる。そして、目を開いてもう一度辺りを見回す。


 森の中である。


「……動こう」


 いつまでも現実逃避をしている訳にもいかないので、周りの安全確認をした後、[能力改変]のスキルを試してみることにした。

 三組ほどステータスと合言葉を設定する。


「『S極』」


________________________________


STR:45


DEF:1


INT:1


MEN:1


AGI:1


CON:1


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 そして、近くにあった木を右手で殴る。


「うわぁ……」


 予想以上の結果に変な声を漏れてしまった。

 殴った木の幹が折れ、倒れたのである。これは、普通の人間にできないことだ。


 本当に、僕は人間じゃなくなったんだ……。


「痛っ」


 不意に痛みが走り、木を殴った右手を見る。すると、指には小さな切り傷ができていた。

 どうやら、DEFも上げないと反動がもろにくるみたいだ。


 ……このスキル、意外に使いづらいかもしれない。

 とりあえず、次のステータスを試してみることにしよう。


「『A二倍』」


________________________________


AGI:5


DEF:15


INT:1


MEN:14


AGI:10


CON:5


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 AGIに全振りも試そうとは思っていたが、いきなり一般人の九倍の速さは制御できる自信が無いため、二倍から試すことにした。


 まっすぐに小走りで駆け――ブレーキができずに木に正面衝突する。


「痛っ……くない?」


 痛みのようなものを全く感じず、それどころか先程の右手のように傷も付いていない。


 少し、スキルを整理してみよう。

 AGIは慣れるまでは二倍までだとして、DEFは増やして損はない、ということはMENも増やして損はないってことでいい……?


 簡単に分析を済ませた後、『A二倍』に早く慣れるためにも、僕はそのまま周辺探索をすることにした。


 しかし、歩き続けても森から出ることは叶わなかった。

 このまま闇雲に歩いても駄目な気がする。CON、試してみようかな。


 僕は立ち止まり、[能力改変]に新しく一組設定し――使用した。


「『C極』――っ……!? 気持ち悪っ!?」


________________________________


STR:1


DEF:1


INT:1


MEN:1


AGI:1


CON:45


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 視界は、度を自由に変えられる虫眼鏡のレンズを覗くかのようにぼやける。

 風に揺られる草木の音は、イヤホンで大音量の音楽を聴くように大きくなる。

 鼻には草や土の臭いがダイレクトに伝わる。

 体に当たる風は先程まで気にならない程度だったが、今はそれが無性に気持ち悪い。


 ――五感から脳に送られる莫大な情報量。それらは頭痛や吐き気を引き起こした。


「ぅぐぅぅぅっ…………『A二倍』っ、はあ、はあ……これも慣れないといけないのか……」


 それでも、僕の耳は微かに水の流れる音を拾うことに成功した。

 水の確保は大事だ。それに、今ので少し気分も悪くなったので、何か飲んで落ち着きたい。


 それに、食べ物も探さないと――そんなことを考えながら、水の音のする方へ向かって歩く。

 しばらく歩くと、その音源と思われる川に到着した。


 ……綺麗だから飲んでも平気だとは思うが一応、万が一を考えてDEFかMENを上げておこう。


「『通常』」


________________________________


STR:5


DEF:17


INT:1


MEN:17


AGI:5


CON:5


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 その水を両手で掬って口に含む。


「……しょっぱい」


 その川に流れる水は塩水だった。つまり、水源の確保は失敗。

 これからどうするか考えていると、左から何かの視線を感じた。


 視線が気になり、左を向くとそこには――体長三メートルはありそうな巨大な猪がいた。


 "シンは現実逃避をしようとした! しかし逃げられない!"


「ブモォォォオオオオ!!」


 "猪の突進! シンはギリギリで横に逃れる! 猪は木にぶつかった! 木が折れた!"


「って、パケモン(ゲーム)のテロップを脳内に垂れ流してる場合じゃないっ!?」


 我に帰り、いきなり襲ってきた巨大猪を軽く分析してみる……ことができなかった。


「この猪、食えるのかな……?」


 つい先程まで、僕は食糧問題について考えていた。

 それに、夕方のバイトから帰って、人助けして、死にかけて、召喚されて――今に至る。


 ……そう。本来なら夜ご飯を食べていてもよかったような時間はとっくに過ぎているのだ。


 猪は再び突進してくるが、何故か思考がクリアになった僕はそれを横に跳んで難なく避けることができた。食欲って凄い。


 そして、[能力改変]に新たに二組のステータスを設定し、片方を使用する。


「『D極』!」


________________________________


STR:1


DEF:41


INT:1


MEN:1


AGI:1


CON:5


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 ここでCONを残したのは、反応が遅れる危険性を考えたためだった。

 CONは集中力も関わっている。しかも、ここは異世界。どんな不測な事態が起きるか分からない。だから、減らす訳にはいかなかった。


 猪の三度目の突進。

 それに対し、僕は避けずに受け止めようとしたが――。


「――っ!?」


 踏ん張ることが全くできなかった。僕は猪に突き飛ばされ、木に思いっきり背中を打ちつける。


「び、びっくりした……」


 自分の体が勢いよく突き飛ばされたことに驚く。しかし、傷のようなものはなく、痛みもない。

 そして、"受け止めるためにもSTRが必要"という事実を確認できたので、ついさっき設定したばかりのもう一つのステータスを使用した。


「『S=D』」


________________________________


STR:21


DEF:21


INT:1


MEN:1


AGI:1


CON:5


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「ブモォォォオオオオ!!」


 再び、猪は真っ直ぐ僕に向かって突進する。僕はその突進を牙を掴んで受け止め――。


「え、ちょ、重っ」


 ――られなかった。

 それでも、僕は着地のために受け身をしようと試みる。


「あだっ!?」


 しかし、その受け身も間に合わず、変な体勢のまま地面に落ちた。


「AGI減らすのは間違いだったっ……」


 AGIは"あらゆる動作の速度に関係する"。つまり、AGIを減らせば当然受け身も遅れるのも当然のことだった。


「どうすれば……」

「ブモォォォオオオオ!!」


 しかし、猪はそんな僕を待ってはくれず、突進。


「ふんっ……ぅぐっ……!」


 僕はさっきと同じように、さっき以上の力を込めて受け止める。しかし、その足はジリジリと、少しずつ後ろに押されていく。

 背後には木。猪が僕を押し潰そうとしているのは明白だった。


 ……なら、受け流せばいいか。


 その結論に至った後、猪の牙からパッと手を放した。

 猪は抑えるものがなくなり、僕を突き飛ばす――前に、僕はすぐさま後転の要領で地面に背中を着く。



「おらああああっ!」

「ブモォッ!?」



 そして、猪の頭が下半身の上を通過したところで、気合いの声と共に猪の顎を蹴り飛ばした。

 突進の勢いもあり、斜め上後方に吹っ飛んだ猪は後ろの木に頭を打ちつける。


「……やった?」


 半分思考停止して蹴り飛ばしたけれど、予想以上に猪を吹っ飛ばせたことに驚く。

 警戒しながら猪に近づいて様子を見るが、完全に気絶してしまったようだ。ツンツンと触れてみても起き上がる気配はない。


 …………よし、やろう。


「『S極』」


 僕は今から、この猪を殺す。

 犬や猫を殺した経験など無い。猟もしたことはない。だから当然、抵抗はある。


 ……けれど、生きるためには食べなければならない。

 食べるためには殺さなくてはならない。


 見据えるのは、猪の脳天。人狼の僕なら、きっとできてしまう。


「……ありがとう」


 感謝を告げた僕は、腕を思いっきり振りかぶる。そして、全体重を乗せるように全力で猪の頭を潰した。


 


 










 ――猪の頭から溢れ出る血を見て、僕はしばらく吐き気に苛まれたのだった。

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