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「……この表示のされ方は異常だ」

「異常、ですか?」


 グラスさんは頷く。


「そもそも、どうしてこのスキルだけが見れないんだ?」

「それは壊れてるからで……」

「なら、どうしてステータスカードの一部の情報は正常に表示されてる」

「――!」


 グラスさんに言われて、僕は初めて気がついた。この壊れ方は明らかにおかしい。何故、このスキルだけ集中して文字化けが発生しているんだろう。


「ホワルが意図的に隠した可能性もある」

「え?」


 ホワルが? あの時、ステータスカードが壊れて驚いていた彼女は、嘘をついているようには見えなかった。

 でも、もし本当にホワルが意図的に文字化けを起こさせたというのなら、一体、何のために……。


「ねえ、ホワルって誰?」


 疑問で頭がいっぱいになりかけていると、フルミネが訊ねてきた。あれ、前に話したことなかったっけ。


「フルミネに最初に話したこと覚えてる? 僕をこの世界に呼んだ神様。命の恩人でもあるんだ」

「……師匠も会ったことあるの?」

「ああ。昔、あたしがこの世界の人じゃないって話はしただろ?」

「冗談だと思ってた」

「あ、そう……」


 言外に"信じていなかった"と言われたグラスさんは、あからさまにへこんだ。




 * * * *




 その後、グラスさんに連れられて、僕とフルミネは部屋を移動する。


「来たか」


 部屋に入ると、そこにはソファに座った戦王が待っていた。


「ウリエーミャはどうした?」


 グラスさんは戦王に訊ねる。そういえば、ウリエーミャが僕に聞きたいことがあるって言ってたな。


「"細かい話が終わったら呼んで"、そう言っていた」

「そうか」


 戦王の言葉に相槌を打つグラスさんは、戦王の隣のソファに座る。


「フルミネ、シン、適当に座れ」


 そして、僕達にそう言った。


 …………………………。


 ちょっとよく分からない。


「立っていてもいいですか」

「座れ」


 僕の希望は即座に戦王に却下される。


 ――なので、僕はその場で正座した。


「……ふざけているのか?」

「大真面目です」


 そもそも、王様と同じ目線にいる時点で無礼にあたるんじゃないかと思う。


「あー……すまん。先に話しておくべきだったか……」


 そんな僕の様子を見かねたグラスさんが頭をかきながら謝ってくる。


「アルバのことは"戦王"として接しなくても大丈夫だ。不敬罪なんてとっくの昔に廃止されてる」

「……そうなんですか?」

「そうだ。今もフルミネが来ただけで頬が緩みそ「黙れグラス擦り潰すぞ」……まあ、そういう訳だから。肩の力を抜け」


 グラスさんの言葉が気になって、僕は戦王の顔をジーっと見てみた。


「お前も擦り潰されたいか?」

「すみませんでした」


 残念ながら、僕にはその表情の変化はよく分からなかった。


「そもそも、あれだけの啖呵を切っておいて、今になってお前が気にするのか……?」

「当たり前じゃないですか」


 戦王は変なものを見るような目で僕を見る。何故だ。


「いいからそこに座れ」

「……はい。失礼します」


 僕は戦王の向かい側のソファに浅く腰掛ける。そして、あることに気づいた。


「……フルミネ?」


 フルミネが、いつまでもその場から動こうとしないのだ。

 そういえば、フルミネはこの部屋に入ってから一度も声を発していない。一体、どうしたのだろう。


「どうかしたか?」

「――っ、ご、ごめんっ、なんでもないっ……」


 グラスさんが声をかけて、やっとフルミネに声が届く。慌てたようにフルミネはそそくさとグラスさんの正面のソファに腰掛ける。


 ……僕の声が届かなかったのは悲しかった。


「ご、ごめんね……?」

「え?」


 突然、フルミネに謝られて驚く。まさか、顔に出てたか……!?


「声に出てるぞ」

「あ、顔じゃなくて口に出しちゃった感じですか」


 普通に恥ずかしい。


「……本題に入るぞ」

「……お願いします」


 戦王が気を遣ってくれたのか、話題を変えてくれた。僕は心の中で戦王に感謝する。ありがとうございます。


「俺達は、既にフルミネに全てを話した。お前もフルミネの過去はグラスから聞いている。この認識に間違いはないか?」

「はい」

「それなら、今度はお前達がどんな経緯でここに戻るに至ったのか、聞かせてくれ」


 戦王の言葉に僕は疑問を持ち、隣のフルミネを見る。そんな僕を見たグラスさんが説明してくれた。


「あたし達がフルミネに話しただけで、まだ話は聞いてないんだ。フルミネがシンが起きてから話したいって言うから、あたしやアルバはそれを待ってた」


 ……ということは、まだ話してなかったのか。


「僕のことは気にしなくてよかったのに」

「シンも無関係じゃないから、それはちょっと悪い気がして……」


 律儀だなぁ……それがフルミネの良いところでもあるけど。


 早速、僕達はグラスさんに僕達の今までを簡単に話し、ゲンブさんの寿命のことを話した。




 話を終えると、グラスさんは難しい顔をしてフルミネに確認するように問いかける


「それは、ゲンブが言ったのか?」


 フルミネはその問いに無言で頷く。


「…………理由が……なら…………いや……」


 すると、グラスさんは難しい顔で何かを考えるように顎に手をあて、ぶつぶつと呟き始めた。


「師匠?」

「……二人とも、落ち着いて聞け」


 グラスさんはゆっくり息を吸って――。


「ゲンブに……四帝に、寿命なんて概念はないんだよ」


 ――吐き出すように、僕達にとって衝撃の事実を告げたのだった。

~第四章予告~


何故、ゲンブは嘘を吐いたのか。

その理由を知るために、シン、フルミネ、グラスの三人は"あの場所"に向かう。


そこで待つものとは――。



一匹の狼が【英雄】になるまでの物語、第三章が終了。

そして、『チュートリアル(難易度:easy)』が終了。


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