意識回復
――ロトン/3カ――
目を覚ますと、そこには見知らぬ天井があった。
「どこだ、ここ……」
僕は体を起こそうとしたが、腹に重たい何かが乗っているのと、体に力が入らないのもあり、起き上がることができなかった。
だから、どうにか顔だけ上げて腹の方を見る。すると、フルミネの寝顔が――。
「……デジャブ?」
【煉獄】と戦った後もこんな感じだった気がする。
……あれ? そもそも、僕はどうして寝てたんだ……?
「…………ああっ!?」
「――ふえっ!?」
僕は全てを思い出して勢いよく起き上がる。それと同時に、フルミネも驚いた声をあげて起き上がった。
「………………しん……?」
フルミネは焦点の合っていない目を半開きにし、口からは少し涎が垂れていた。その様子から、完全に熟睡中だったことが窺える。
「もう少し寝てていいよ」
僕が気絶した後のことが気になるが、別に急いで聞く必要もない。フルミネも疲れているようなので、僕はフルミネの背をゆっくりさする。
「……うん……そぅする……」
フルミネは再び顔を降下させ、僕の膝に顔を埋める。
「――じゃないよっ!?」
「うわっ!?」
いきなり突っ込みを入れながらフルミネが起き上がる。そして、僕の顔をじっと見始めた。
「えっと、フルミネ?」
「……よかった……」
「何が?」
話が見えてこない。僕の問いかけに対して、フルミネは目をぱちくりさせる。
「覚えてないの?」
「何を?」
「……どこまで、覚えてる?」
「砂煙を起こしたあたりだけど……そういえば、どうだった?」
急いで聞く必要はなかったが、フルミネも起きてしまったので僕は結果を聞くことにした。
「成功、したよ」
「そっか。よかった」
成功したということは、フルミネが七聖に戻ることを認めてもらえたということだ。これで、ようやく大きな問題が片付いたことになる。
「……フルミネ?」
僕はフルミネが浮かない顔をしていることに気づいて呼びかける。何か問題でも起こったのだろうか。
「……なんでもないよ。それより、師匠呼んでこなきゃ。ちょっと行ってくるね」
「――っ、フルミネ、待って」
フルミネは僕の声を無視して、小走りで部屋を出ていこうとする。そして、ドアノブに伸ばした手は――盛大に空振った。
「わわっ!?」
「――おっと」
開いたドアの先にいる人物が、転びそうになったフルミネを咄嗟に受け止める。
「大丈夫か?」
「師匠……」
そこに立っていたのはグラスさんだった。グラスさんは顔を上げ、既に起き上がっている僕に気づく。
「起きたか。調子はどうだ?」
「……あれ、そういえば、どこも痛くない……?」
自分の体を見て、一つも傷が残っていないことに今さら気づいた。
「[回復魔法]をかけられたのは初めてか?」
「いえ、【煉獄】と戦った後にホムストでもかけられましたけど……ここまで回復はしませんでしたよ」
「ああ、それなら仕方ない。使う奴の魔力量や怪我の原因にもよるからな」
「そういえば……」
今回の怪我は魔人が原因ではない。だから、[回復魔法]も効いたんだ。
……これが[回復魔法]の本来の力……。
「シン、検査だ。あたしの目を見ろ」
「え?」
突然、グラスさんはそんなことを言い出し、無言で僕を見つめ始める。僕も言われた通りグラスさんの目を見る。
しかし、これが何の検査なのか、僕には皆目見当がつかなかった。
「これは何の検査なんですか?」
「……ふぅ」
沈黙に堪えきれず、僕はグラスさんに訊ねてしまう。すると、グラスさんはホッとしたように息を漏らした。
「その様子だと、意識は完全に戻っているみたいだな」
僕はグラスさんの言っていることがよく分からず、首を傾げる。
「……? なんだ、フルミネ。まだ言ってなかったのか?」
フルミネは顔を俯かせ、こくりと頷く。
「フルミネ? 何かあったの?」
僕が聞いてもフルミネは答えない。そんなフルミネの様子に、ますます不安が募ってしまう。
「……あたしが説明するよ。でも、その前にフルミネに言わなきゃいけないことがある」
「あ、僕からもフルミネに言おうとしてたことがあって……多分、同じですね」
「……?」
フルミネはきょとんとした顔で、僕とグラスさんの顔を交互に見る。
「「涎、拭いた方がいいよ(ぞ)」」
「……~~っ!?」
僕達の指摘に、フルミネは慌てて口を拭う。
やっと言えた。グラスさんがいなかったら、フルミネはそれに気づかないまま部屋を出ていただろうから、言えてよかった。
* * * *
――グラスさんから、僕が意識を失った後の話を聞いた。自分がそんな状態で動いていたなんて、到底信じられない話だ。
でも、フルミネの様子を見る限り、それが本当の話だということが分かってしまう。
「ステータスカードの話もフルミネから聞いた。まずは、そのステータスカードをあたしにも見せてくれないか?」
「……はい」
僕はステータスカードを出し、グラスさんはそのステータスカードを覗き込むようにして見る。
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シン 18歳 ■ ■■
魔■:D
■法:
スキル:[■■][能力改変]
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「一つ目のスキルの詳細を見せてくれないか?」
「……読めませんよ?」
「それでも構わない」
グラスさんが何を確かめたいのか僕には分からないが、言われた通りスキルをタッチして詳細を開いた――。




