vs【地聖】閃光×狂獣
視界が、[王眼]が、一人の人狼によって完全に封じられた。
「『左目:起動』」
――だから、どうした。
「『土柱』」
「――っ、かはっ……!?」
俺は地面を蹴る音を頼りに、フルミネを空中に突き飛ばす。声から推測して、今のは腹に入ったのだろう。
[王眼]が封じられた程度で狼狽えていては、魔人の相手など務まらない。その程度なら、俺はとっくの昔に死んでいる。
「『土柱蔓』」
地面から土の柱を生やし、振り回す。すると、今まで視界を塞いでいた砂煙が一気に晴れた――。
▼ ▼ ▼ ▼
どうしよう。
「シンが作ってくれたチャンスが……!?」
私は空中に突き飛ばされ、アルバの視界を遮る砂煙も晴らされた。
――全て、無駄になってしまった。
「……でも」
それは、諦める理由にならない。
「シンなら、絶対に諦めたりしない」
どんなに勝ち目が薄くても、消えた訳じゃない。
「……『両腕:棍』『両足:ジェット』」
時間もそんなに残ってない。だから、魔力の出し惜しみもしない。
「『両足:最大出力――」
この状況で利用できるのは、[魔力操作]と魔道具を使って魔力を一気に放出することで得られる推進力と、重力。その二つを使って一気に近づく。
可能性があるとすれば、この方法しかない。
これに、全て懸ける!!
「――放射』!!」
「『土柱蔓』」
幾本もの土の柱が、私を薙ぎ払うように襲いかかる。
「う゛ぐっ……!」
鈍い痛みが体に響く。
「何っ……!?」
それでも、私が止まることはない。体を土の柱に擦りながら、私は一直線に突き進む。
「『土壁』っ」
「やあああああっ!!」
アルバがドーム状に展開した壁を叩き壊し、私はそのままの勢いで地面に着弾する。
「何だっ……!?」
アルバが驚いたような声を漏らす。きっと、未来を視たんだと思う。
「『左目:閃光』」
左目に魔力を込めて、解き放つ。すると、真っ白な光がドーム内を包み込んだ。
この光の中で、視界を確保できるのは私だけ。
「『四肢:解除』っ」
私は無我夢中で手を伸ばす。
「『檻土』」
――けれど、私の手は届かなかった。
上下から伸びる土の柵が、私を阻んだのだ。どんなに手を伸ばしても、あと数十センチがどうしても届かない。
「『檻土』」
再び、土の柵が伸びてくる。今度は、私を囲んで手足の動きを封じるように。
動かせなければ変型もできない。残りの魔力で『雷魔法』を使っても、この土の柵はきっと壊せない。
目眩ましの光が収まる頃には、私は完全に身動きが取れなくなってしまっていた。
「惜しかったな」
……届かなかった。
「――があ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」
「「――!?」」
壁が壊れ、そこに飛び込んでくる1つの影。私達は、あまりに突然のことに反応が遅れる。
「あ゛あ゛っ!!」
その影は、叫びながらアルバに向かって突っ込んでいく。
「『檻土』」
アルバが柵を展開し、その影は勢いよく柵にぶつかる。
「え……!?」
私は目を見開く。その影の正体に驚いた訳ではない。状態に驚いたのだ。
「があ゛あ゛あ゛!!」
「……一体、何がお前をそこまでさせる……?」
白目を剥きながら、牙を剥き出しにしてアルバに襲いかかろうとするシン。
青く腫れあがった両手両足からは血が吹き出し、服はボロボロで、頭から流れる血は顔の半分を赤く染めている。
誰が見ても、シンの意識は飛んでいた。それなのに、動いている。
――結局、私はシンに頼ってばかりだなぁ……。
「『右腕:射出』」
シン、そんな姿になってまで隙を作ろうとしてくれてありがとう。
アルバ、隙を見せてくれてありがとう。
…………師匠も、ありがとう。
これは、師匠が遊び心で付けた追加機能。シンにも一度だけ使ったことがある、腕の射出。
「――っ!?」
アルバは慌てたように後ろを振り返る。でも、もう遅いよ。
「……私達の勝ち」
私の手は、アルバに届いた。
「………………ああ……そう、だな……」
ようやく、認めてもらえた。
「――があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
「「――っ!?」」
耳をつんざくような咆哮。その咆哮による衝撃波が、アルバが展開していた土の柵を粉々に粉砕する。
自らを拘束する柵が消えた瞬間、シンはアルバに襲いかかった。
「『土壁』!」
「シンっ!? もう、終わったんだよ!?」
アルバが壁を展開し、私はシンに呼びかける。けれど、シンはその壁すら粉砕してアルバに襲いかかるのを止めなかった。
アルバの喉元にシンの手が伸びる。
「『神器解放』」
――凛とした声が耳に響くのと同時に、シンは氷像と化した。
「……まるで、獣だな……」
「師匠……」
水晶玉から発せられる冷気。師匠がシンを止めてくれたんだ……。
「……ひとまず、約束の前に治療が先だな。フルミネ、怪我した所を診せろ」
「私は平気だから、シンを治してっ」
「同時に治す。それに、フルミネはあたしの神器の能力を知ってるだろ?」
そうだ。忘れてた。私もそれで助かったんだ。
「そういうことだから、早く診せろ」
……でも、それとこれとは話が別。
「……アルバ、向こう向いてて……」
「……? 何故だ?」
「~~っ、分かってよっ」
私の怪我は体への打撲で、その怪我を師匠に見せるためには、服を脱がなければならない。
シンは意識を失っているからいいけど、アルバは駄目!
「――くふっ、あっはっはっは!」
突然、師匠が笑い始める。私はその理由が分からず、首を傾げることしかできない。
「ああ、ごめんな? でも、この状況で笑うなって言う方が無茶だろ……ぷふっ……!」
「……グラス、黙れ」
「ま、まあまあ……くくっ……そう落ち込むなって……!」
「すり潰すぞ」
その後、私は最後まで二人の会話についていけないまま、師匠に治療された。
――因みに、アルバにはちゃんと後ろを向いててもらった。




