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作戦会議

「おい、ウリエーミャ」

「私は私の目的を優先するわ。あんたに肩入れするつもりなんて、始めから毛頭ないわよ」

「……お前はそういう奴だったな」


 話が見えない。ウリエーミャは、フルミネではなく僕に興味があるという認識でいいのだろうか。


「三十分後、待っている――」


 僕の理解が追いつく前に、戦王はそう言って僕の横を通り過ぎていった。


 ……今は目の前のことに集中しよう。戦王のあの余裕、きっと何かある。


「フルミネ、戦王について知ってること、何かある?」

「…………あっ、ごめん……何?」


 フルミネは聞いていなかったのか、聞き返してくる。


「本当に平気?」

「うん。トントン拍子に話が進んじゃったから、ビックリしちゃって……」

「それならいいんだけど。それで、戦王はどんなスキルや魔法を使うか分かる?」

「[土魔法]と……[王眼]」


 【地聖】だから[土魔法]はなんとなく予想できていた。[王眼]も既にグラスさんから聞いている。だけど……。


「それだけ?」

「――それだけよ」


 僕の問いかけに答えたのはウリエーミャだった。


「グラス、別にいいわよね?」

「……まあ、聞いたところで意味がないからな」

「意味がない、ですか?」


 グラスさんは頷く。つまり、戦王はスキルや魔法に頼らない凄い身体能力や反射神経を持っているってことか……?


「あんた達の壁になるのは、[王眼]よ」

「……[王眼]が?」


 僕はウリエーミャの言っていることが分からなかった。魔人の襲撃を予知することが、僕達の壁になる……?


「問題はそのスキルの副産物(・・・)の方。あんたの後ろにいる臆病者なら、よく知ってるわよね?」

「一つ言わせろ」


 ――先程から、どうしても気になっていたこと。


「フルミネのことを"臆病者"って言うな」

「……今気づいたけど、何で私にはそんな口の利き方すんのよ。私もあんたより年上だからね?」


 それは雰囲気からしてなんとなく分かる。白髪やさっきの口振りから推測すると、彼女はホワルを知っている。でも、それは関係ない。


「シン、いいから」


 フルミネが僕の服を引っ張ってそう言うが、僕の正直な気持ちを言わせてもらおう。


「僕が嫌だ」

「まあ、口の利き方はどうでもいいわ。変に畏まられても困るし――って、どうして睨むのよ」

「返答を聞いてないんだけど」


 すると、ウリエーミャはため息を吐いて、さも当たり前のことのように言う。


「七聖の使命から逃げたのは事実じゃない。事実を言って何が悪いの?」

「確かにフルミネは使命から逃げた。でも、その逃げてしまえばいい使命にまた向き合おうとしてる。今度は、死ぬかもしれないのに。これでも、"臆病者"って言えるのか?」

「言えるわよ。逃げた過去は消える訳じゃないもの」


 ウリエーミャは言い切る。自分は間違っていない、本気でそう思っている目だ。


「あたしはね、臆病者が七聖に復帰しようがしまいがどうでもいいの。用があるのはあんただけなんだから」

「僕はあんたに用はない」

「だったら、拷問してでも吐かせるまでよ」

「やってみろ。何を知りたいのか知らないけど、墓場まで持っていってやるよ」




 そして、睨み合うこと数秒――。




「……あんた、本当に墓場まで持っていくタイプじゃない……分かったわよ。悪かったわね」

「……分かってくれたのなら、いいです」

「あ、やめて。今さら敬語にしないで。違和感しかないから」

「……分かった」


 これで僕の腹の虫も少しは収まった。さて、話の続きだ。


「[王眼]の副産物って?」

「数秒先の未来を()ること」


 副産物の域を軽々と越えてきた。出鱈目過ぎる。これ、勝ち目あるのか?


「フルミネ、三十分間に一度でも直接触れる方法、何かある?」


 元々、戦王の[王眼]を知っていたフルミネなら何か良い方法を知っているんじゃないかと思い、僕は彼女に聞いてみた。


「………………と、とにかく頑張る……」


 駄目みたいだった。


「グラスさんとウリエーミャだったら……?」


 答えてくれるかは分からない。けれど、この際(なり)()り構っていられないのでダメ元で聞く。


「あたしは何も言わないからな」


 グラスさんは答えてくれなかった。一縷の望みにすがる思いでウリエーミャの方を見る。


「私のは参考にならないわよ?」

「それでも構わない」


 それはつまり、触れることが不可能ではないということだ。


「神器が禁止なら、小細工抜きに連撃でもするわ。十分も続ければ息切れして触れられるでしょ」

「……そもそも、どうやって近づくのさ。戦王って魔法も使うよね」

「[土魔法]なんて全部殴ってぶっ壊せばいいのよ」


 脳筋だった。もう駄目かもしれない。

 僕が頭を抱えていると、フルミネがチョンチョンと僕の肩を突いてくる。


「未来を視られても、避けられない状況を作ればいい……とか」

「……そっか、そう考えればいいのか」


 フルミネの言葉で、気づくことができた。

 戦王は未来が()()()()()だ。それなら、触れられない未来を全て潰してしまえばいい。


「でも、そんなこと、できるのかな」


 フルミネは自信なさげに呟いた。できない未来を全て潰すなんて、僕もできるか分からない。でも――。


「できるかできないかじゃない。できなきゃ、進めない」


 認めてもらわないと、誰も前に進めない。フルミネも、僕も、グラスさんも――そして、きっと戦王もだ。


「……うん、そうだよね。弱気になってる暇なんて、ないよね」

「……先に行ってるからな」


 そう言って、グラスさんは戦王の待つ庭に向かってしまった。しかし、ウリエーミャはこの場に残っている。


「ウリエーミャは行かなくていいの?」

「私はあんた達に勝ってもらわないと困るのよ。聞きたいことがあるって言ったでしょ? けど、こんな状態じゃ聞くに聞けないじゃないの」


 そういえば、そんな話だったっけ……?


「そんなことより、考えるわよ!」

「「は、はいっ」」


 そして、僕達は三十分ギリギリまで、戦王に触れる方法を考え続けた――。

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