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否定する覚悟

 僕達は王宮の門から少し離れた所で立ち止まっていた……というより、立ち止まらざるを得なかった。


「もう、少しだけ……」

「…………」


 ――現在、僕の背中にフルミネが引っ付いている。動こうと思えば動けるのだが、僕がフルミネのことを待っているのには理由がある。


「引き返す?」

「それは、嫌……」

「じゃあ、行こう?」

「待って、心の準備、終わってない……」


 ずっとこの調子なのだ。一番の問題は、フルミネ自身はここで引き返したくはないと言っていること。

 だから、僕はフルミネが落ち着くのをずっと待っているけれど、落ち着く気配が全くない。


「フルミネ……本当に大丈夫?」


 手も少し震えているし、無理に今日行く必要は無いのではないかと僕は思う。

 なにしろ、グラスさんの伝言を聞いていてもこれなのだ。昨日のグラスさんとのやり取りが軽くトラウマになって、恐怖心として根付いてしまったのかもしれない。


「……ごめんね。もう、大丈夫……」


 そう言って、フルミネはようやく僕の背中から離れる。僕が振り向くと、フルミネの瞳は昼に見た時と同じように決意に満ちていた。


 ……仕方ない。


「『運搬』」

「え?」


 僕は[能力改変]を使ってフルミネを肩に担いだ。そして、来た道を引き返す。


「待ってっ」

「待たない。そんな状態で、絶対に行かせないから」


 フルミネの瞳は確かに決意に満ちていた。

 しかし、顔色は病気なんじゃないかと思うほど真っ青だったのだ。そんな状態で行かせようと思える方がおかしい。


「『四肢:ワイヤー』!」

「えっ」


 その声を聞くや否や、腹部に四本のワイヤーが巻きつく。


「待って、締め上げないで。お腹と背中がくっついちゃうっていうか普通に痛い」

「じゃあ、引き返さないで」

「……まずは話し合おうじゃないか――痛い痛い痛い待ってフルミネちょっと待って――!?」


 これはヤバい。死んじゃう。僕、背中を斬られても生きてたけど、流石に腹を潰されたら死んじゃう。


 僕の呼びかけを聞いていないのか、フルミネに力を緩める様子は見られない。それでいて、締め上げる力は僕の腹を潰さないギリギリの強さを保っている。


「駄目なの」

「……フルミネ?」

「今、ここで止まってたら、駄目なのっ……」


 逃げていたのは僕の方だったのかもしれない。フルミネが向き合おうとしているのに、僕が向き合わなくてどうする。


「ごめん、降ろすよ」

「……うん。『四肢:解除』」


 僕の体に巻きついていたワイヤーがフルミネの腕に戻り、僕はフルミネを地面に降ろす。


「ごめんね。私が情けないからだよね……」

「……違う。フルミネは悪くない。僕が後ろ向きになってた……」


 僕は何がしたいんだ。自分で自分が分からなくなる……いや、本当は分かっている。

 フルミネが七聖に戻ったら、グラスさん達の今までを踏みにじることになる。それは、グラスさん達がフルミネのためについた嘘を、全否定することに他ならないんだ。


 ……僕も、覚悟を決めなければならない。


「フルミネ、もう大丈夫? 今度は待たないよ?」

「大丈夫」

「じゃあ、行こう」

「うん」


 フルミネのために嘘をついてきたあなた達を、否定する覚悟を――。




 * * * *




「「寝てる?」」

「はい。それはもう、ぐっすりと」


 侍女長を名乗る女性は、僕達にそう告げた。


「なので、日を改めてください」

「スフィア……師匠が起きるまで私、待つから……どうしても、今日、話したいの……お願いっ……!」

「僕からも、お願いします」


 僕達はスフィアさんに向かって頭を下げる。しかし、返ってきたのは冷たい言葉だった。


「フルミネ様……あなたの居場所が、ここにあるとお思いになっているのなら、それは間違いです」

「――っ」

「……失礼を承知の上で、私なりの言葉で言わせて頂きます」


 スフィアさんは一息入れてから、言った。


「あなたのような臆病者に、七聖としての価値などありません」


 こんなのって、やっぱり、あんまりだと思う。だから、僕も口を挟ませてもらおう。


「あんたは七聖ですらないだろ」

「……部外者は口を挟まないで頂けますか」

「部外者じゃない。僕は全部知ってるんだよ。あんた達は嘘しか言ってないってこと」

「え? それって、どういうこと……?」


 フルミネが困惑するのも無理はない。僕はまだ、フルミネにグラスさん達が彼女についた嘘のことを話していないのだから。

 ……正直、フルミネに全てを話してしまいたい。でも、それは嘘をついた人達から直接聞くべきだと思った。だから、僕からは話さない。


「それでは、あなたは全てを知った上でフルミネ様をここに連れてきたのですか?」

「違うっ、私がシンについてきてもらっただけなのっ」

「……フルミネ様に問いましょう。この少年がいなかったら、あなたはどうしてましたか?」

「そ、それは……」


 スフィアさんの言っていることは正論だ。現に、僕がグラスさんの伝言を伝えなかったら、フルミネはまたここに来ることはなかった筈だから。


 ……そっちが正論を盾にして逃げるというのなら、こっちは正論を矛にして追い詰める。


「どうしてそこまでして、フルミネをグラスさんに会わせたくないのさ。その説明ぐらい、してくれるよね。スフィアさん?」

「――っ、分かりきっていることをっ」

「フルミネは、分かってないみたいだけど?」


 スフィアさんは反論したくてもできないようで、僕を睨みつけてくる。


「……私から申し上げるようなことは何もありません」

「スフィア、ちゃんと説明してっ」


 フルミネがスフィアさんに迫ったその時――。


「スフィア、二人を通せ」


 ――張本人が、この場に姿を現した。

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