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止まっていた時間は動き出す

 僕は改めてフルミネに聞く。


「フルミネはこれからどうしたい? あ、巻き込みたくないからサヨナラとかは無しね?」

「……シンはどうすれば良いと思う?」


 逆に聞かれてしまった。それを僕が決めてしまったら駄目だろう。フルミネの人生を左右する選択なんだから。


「これはフルミネが選択することだよ」


 だから、僕はフルミネに判断を任せた。


「それ、ズルい」

「ズルくない」


 今の答えのどこがズルいのか。確かに丸投げ感はあるけど、これは仕方ないと思う。


「シンも一緒に考えて」

「……分かった」


 まあ、それぐらいなら構わないだろう。最終的に決めるのがフルミネであることには変わりないから。


「シンはどっちが良い……って聞くのは駄目なんだよね……」


 当たり前だ。


「じゃあ、シンはどう思う?」

「それも同じだよね?」

「違うもん。客観的に見て、どう思う?ってことだもん……」


 それならいい……のか? というか、それも答えにくいな……。

 僕はグラスさんがフルミネに冷たく接した理由を知っている。グラスさんの言葉を聞いた限りだと、フルミネは七聖に戻るべきではないのかもしれない。


 それでも、結論を出す前に聞かなければならないこともある――。


「この機会を逃したら、この先、もう七聖に戻れないかもしれない。師匠にも会えないかもしれない。もしそうなった時、フルミネは後悔しないって言い切れる?」

「それ、は……」


 僕は別に、フルミネに無理して七聖に戻ってほしい訳ではない。むしろ、戻ってほしくない。

 魔人と戦って死ぬ可能性だってあるんだ。フルミネをそんな目に遭わせるつもりはないけれど、現実問題、今の僕では絶対に守れるとも限らない。


 ……けれど、後悔もしてほしくなかった。


「私は……もう一度、師匠に会って話したい……けど、怖い……」


 そう言って、フルミネは俯いてしまう。


 やっぱり、問題なのは王宮に行き辛い理由が"怖い"という理由だということだ。そんな気持ちで今、王都を離れたら絶対に後悔する。

 なら、僕はそんな彼女の背中を押してあげなくてはならない。


「僕、グラスさんからフルミネに伝言預かってるんだ」

「……師匠から?」

「"ホムストを魔人から守ってくれてありがとう"だってさ」

「――!」


 今さらだけど、どうしてグラスさんはこんな伝言を僕に頼んだのか。

 こんな伝言を聞いてしまえば、フルミネがどう動いてしまうのかなんて目に見えている筈なのに。


 ……まあ、これは多分、グラスさんも"フルミネに会いたかった"という気持ちが無意識に出てしまったのだろう。


「私、師匠に会いに行く。会って、話したい」


 フルミネの瞳は決意に満ちている。もう、こうなってしまった彼女を止めることなんて、僕にはできない。


「……だから、シンにお願いがあるの……」

「何?」

「一人で行くのは不安だから……私と、一緒に来て……」


 フルミネの言ってることがよく分からなかった。


「最初からついていくつもりだったんだけど……」

「……! ありがとう、シン……」


 そう言って、フルミネは安堵したような表情になる。変な答え方をしてしまったけど、言いたいことは伝わったかな?


「じゃあ、早速行く?」

「う――」


 きゅー。


 ……うん? これは何の音だ?

 その音はフルミネから聞こえたのだが、当の本人は顔を真っ赤にして口をパクパクとさせていた。金魚みたいに。


 きゅー。


 再度、全く同じ音が聞こえて確信できた。まさか、今の音が()()()だったとは……とりあえず、王宮に行くのは後回しだな。


「お昼、食べよっか」

「………………うん……」




 ▼ ▼ ▼ ▼




『――【地聖】! そっちに数十体向かったわ!』


 通信魔道具からウリエーミャの声が聞こえる。


「分かった。お前の方は残りどのくらいだ?」

『そうねぇ……『――こっちの魔物は片付いたぞ! もう魔物は来ないよな!? 帰っていいよな!?』――うるっさいわねっ!! そんなに嫌ならさっさと帰りなさいよっ!!』


 会話に割り込んできたテトにウリエーミャがキレている。


「ウリエーミャ、やっぱりいい。テトはまだ帰るな。掃討は終わってないぞ」


 しかし、返ってきたのはテトではない別の少女の声だった。


『戦王様、ガロウナムス守護騎士団副団長のシンシア・ホーネットです。団長(馬鹿)には私がキツく言っておきますので、ご命令を』

「……分かった。お前達は不測の事態を想定してそこで待機しろ」

『御意』


 ……相変わらず、テトが団長なのが不思議でならんな。


 そんなことを考えていると、【溶獄】が生み出したと思われる魔物がこちらに押し寄せてくるのが見える。

 俺は、自分の神器である大剣――アイナグラウドを地面に突き刺す。


「『隆起』『沈降』」


 魔物達の足元の地面を隆起させ、瞬時に地面を沈める。それによって、魔物達は空中に投げ出された。


「地を割れ」


 アイナグラウドは俺の言葉に応えて地面を割り、擬似的な奈落を作った。そこに、次々と魔物達が落下していく。

 その光景を眺めていると、通信魔道具に新しく通信が入ってきた。そういえば、さっきも通信が入っていたな。


『――戦王様、お時間よろしいでしょうか』

「スフィアか……それは至急の連絡か?」

『……戦王様にとっては、そうです』


 スフィアがそんな言い回しをするのは珍しい。ひとまず、こちらに向かってくる魔物は全て殲滅したのを確認してからスフィアに答える。


「至急の連絡というのは何だ?」


 俺はこの時、至急の連絡というのは魔人関係のことだと、勝手に推測していた。


 ――しかし、スフィアから告げられた内容は、到底信じられるようなものではなかった。


『フルミネ様が、王都に戻ってきました』

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