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受け継がれてしまったもの

 フルミネがあの森から出られなくなった原因が、初めから仕組まれていた。その事実を知った僕は、込み上げてくる怒りを理性でなんとか抑える。


「殴ってもいいぞ。お前には権利がある。あたしも、さっきみたいに防いだりしない。ここには壊れるものが無いからな」

「別にいいです、そんな気遣いしなくても。理由があるんですよね」


 フィンブルさんは驚いたような顔をしている。勝手に人を殴り魔にしないでほしい。


 ――そもそも、これに関しては僕の問題なのだ。


「面倒臭いもの抱えてるみたいだが、それ、フルミネには話したのか?」


 ……鋭い人だな。さっき、暴発したのが不味かったか。


「話していません。話したところで治るものでもないですし」


 それに、フルミネにはあまり心配をかけたくない。普通に生活している分には支障をきたすことはないのだから。


「確認しておくが、何に反応した?」

「血が繋がっているかは関係ないです。自分の子供を、物扱いしないでください」

「分かった」


 フィンブルさんが素直に了承してくれたので、今は暴発の心配はいらないだろう。


「最初はフルミネの両親について話すか」

「……両親ですか? フルミネは、自分は捨て子だって言ってましたけど」

「あたしがそう教えてたからな。でも、実際は違う。フルミネの両親は二人とも七聖だ」

「えっ……!?」


 僕が衝撃の事実に驚きを隠せないでいると、フィンブルさんはそのまま話を続けた。


「七聖は、【氷聖(ひょうせい)】のあたしを含めて【時聖(じせい)】【地聖(ちせい)】【盾聖(じゅんせい)】【双聖(そうせい)】【雷聖(らいせい)】の六人だ。フルミネが【雷聖】っていうのは聞いたか?」

「はい」

「フルミネの母親の名前はエクレール・ネフリティス。先代の【雷聖】だ」

「"先代"ということは……」


 フィンブルさんは無言で頷く。フルミネは捨て子ではなかったということに喜べばいいか、母親が既に亡くなっていたことを嘆けばいいのか、僕には分からなかった。


 けれど、もし()()()()()だと言うなら、どうしても気になることがある。


「フルミネの父親は、今、何をしてるんですか……?」

「父親はアルバ・レウス。【地聖】であり、戦王でもある。お前に分かるように言うと、今の王様……って言えば伝わるか?」


 僕が聞きたいのはそういうことではない。もし、今の七聖の一人だと言うのなら――。


「自分の娘を追い詰めて、何がしたい――ぐぅっ!?」


 突然、フィンブルさんに胸ぐらを掴まれ、強引に首を引き上げられる。


「アルバが好き好んでこんなことしてると思うかっ!? 一番辛いのはあいつなんだよっ!」


 何か理由があるのは分かる。それでも、これだけは許容できない。


「知らねえよっ! 追い詰めてんのは事実だろうがっ! 理由があればいいってかっ!?」

「っ……!」


 僕の反論に、フィンブルさんは言葉を詰まらせる。そして、僕の胸ぐらから手を離して言った。


「……すまん。お前にこんなこと言っても、仕方ないのにな……」

「……いえ、僕もいきなり声を荒げたりしてすみません……」


 僕は、自分が思っていた以上に冷静になりきれていなかったらしい。話を聞かないことには分からないと言っておきながら途中で口を挟んでいては、進む話も進まない。


「……話の続きだが、フルミネを拾い子として育てようと言ったのはアルバなんだ」

「どうしてそんなことをする必要が?」

「その話をする前に神器について話すが、神器は親から子には受け継がれることはないんだ。持ち主が死んだら神器自身が次の持ち主を選ぶんだが、ここで1つ、きまりみたいなものがある。元の持ち主の子供を神器が選ぶことはない」

「……だとしたら、おかしくないですか?」


 親から子に受け継がれないということは、フルミネが神器に選ばれることはないということになる。


「その通りだ。フルミネは神器に選ばれる筈がない……本来なら、な」

「本来なら?」

「例外がアルバだ。アルバには、[王眼]がある」


 フィンブルさんの説明によると、[王眼]は魔人が来る場所を予知できるスキルらしい。

 これは七聖が継承してきたスキルであり、このスキルがあるからこそ人々を守ることができる。逆に言えば、このスキルが無ければ守りきれないのだという。


 ――そして、[王眼]を持つ者の子供には、七聖としての適性も受け継がれてしまうことがある。


「[王眼]は発動しないこともあるんですか?」

「……? 規模が小さい場合はそうだが……」


 やはりそうなのか。これで、ホムストに七聖が来なかった理由が分かった。


「また口を挟むことになってしまってすみません。ただ、これは先に言っておかないといけないと思ったので。今から70カぐらい前に、ホムストが魔人に襲われたんです」

「――っ、皆は無事なのか!?」

「はい。フルミネのおかげで、死者も出ていません」


 僕がそう言うと、フィンブルさんは心底安心した様子で「そうか」と言葉を漏らし、続けて言った。


「あたしにとってホムストは、この世界に来たばかりで右も左も分からないあたしを育ててくれた、故郷みたいなもんなんだ。だから、フルミネにはありがとうって伝えておいてほしい」


 けれど、フィンブルさんのその頼みに、僕は首を横に振る。


「それは、フルミネに直接言ってあげてください」


 僕が言っても仕方がない。それに……。








 ……その言葉だけで、彼女は救われると思うから。

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