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残酷な真実

 目を覚ますと、そこは知らない天井だった。背中がヒンヤリする。起き上がって辺りを見回すと、鉄格子に石の壁……牢屋? 何でこんなところにいるんだ?


「……思い出した」


 我を忘れて殴りかかるなんて、馬鹿にも程がある。しかも、相手は七聖。勝ち目は薄いというのは最初から分かっていた筈だ。


 ……そもそも、勝ち目とかの問題ではないか。

 頭が冷静さを取り戻すと、僕はあることに気がついた。


「フルミネは……」

「フルミネなら、別の牢屋で大人しくしてるよ」

「――っ、『M極』」


 フィンブルの声が聞こえ、僕は反射で[能力改変]を使う。


 ……間違えたな。神器を使っていない【煉獄】相手にでさえ通用しなかった『M極』なんて、七聖相手にも通用する筈がない。

 けれど、この狭い檻の中『特避』にしても意味がない。それなら、物理攻撃も視野に入れて元に戻しておくべきだろう。


「『通常』」

「固有スキルか?」


 その問いに僕は無言を貫く。素直に答えるほど馬鹿ではない。


「まあ、それはどうでもいい。そんなことより聞きたいことがある」

「……聞くだけ聞こうか」


 僕なんかに聞くということは、フルミネのことだろうか。逆に、それ以外に思いつかない。


「フルミネを唆したのはお前か」

「は?」


 僕は質問の内容が理解できず、素っ頓狂な声を出してしまった。


「お前が唆して、ここにフルミネを連れてきたのは何故だ? 異世界人、一体何が目的だ?」

「何の話だ?」


 ……それに、何故、ここで"異世界人"という単語が出てくる。


「嘘をついても無駄だ。その白髪、この世界じゃ珍しいんだよ」

「それを知ってるってことは、まさか……」

「お前と同じだ。五百年前、あたしもホワルに召喚された」


 けれど、もしそうなら腑に落ちない点がある。フィンブルは金髪なのだ。ホワルに召喚されたというなら、体毛は白くなる筈……いや、例外もあったな。


「元々魔力を持ってる場合、体毛は白くならない」

「そういうことだ。で、何が目的だ?」

「……あんたに会うのが目的だった」


 ここに来た目的を告げると、フィンブルは怪訝な顔になる。


「どういうことだ?」

「そのままの意味だよ。僕はフルミネを唆したりしてない。フルミネはフルミネの意志で、ここに戻ってきた」

「……! そうか……フルミネが、自分から……」


 そう呟くフィンブルは、柔らかい笑みを浮かべていた……この反応、少し変じゃないか?


「一つ、聞いてもいいですか」

「急に改まったな。何だ?」

「フルミネに、戻ってきてほしくはないんですか?」

「…………そうだな。足手まといはいらない。だから、早くあの臆病者を連れて出ていってくれ」


 "出ていってくれ"とわざわざお願いをしてくるのもおかしい。フィンブルさんなら、僕達を強引に追い出すことだってできたのに、こんなまどろっこしい真似をしている。


 ――まるで、強行手段を躊躇っているかのように。


「本当のことを言ってください」

「……嘘だと思う根拠は?」

「否定はしないんですね」

「っ……」


 フィンブルさんは言葉を詰まらせる。しばらくして、彼女は大きなため息をついた。


「あたし、嘘は得意な方だと思ってたんだけどな」


 それは本気なのだろうか。疑問を覚えたが、今は関係ないので触れないでおこう。


「どうして、自分の気持ちに嘘をついてるんですか?」

「言い訳になるかもしれんが、これもフルミネのためなんだ」

「……話を聞かないことには分かりません。言い訳でもいいから話してください」


 今の情報だけでは、何をどうしたらフルミネを追い詰めることが彼女のためになるのか、僕には分からなかった。


「分かった……と言いたいところだが、まず、フルミネからはどんな感じで聞いてるかを教えてくれないか? どこから話せばいいか分からなくてな」

「分かりました。フルミネか――」


 ぐぎゅー。


 ……話そうとしたらお腹が鳴った。もうそんな時間だったのか。あ、自覚したら余計にお腹すいてきた。


 ――でも、今は真面目な話をしているんだ。ここで話を切る訳にはいかない。


「失礼しました。気を取り直して、フルミ――」


 ぐぎゅー。




「「…………」」




「なんか持ってくるから、食いながら話すか」

「お願いします……」


 食欲って怖いね。空気を読んでくれない。




 * * * *




 ――しばらくして、フィンブルさんがお盆にパンを山盛りに積んで戻ってきた。

 このパン、見た目も味も完全にバターロールなのだが、名前は"バール"と言い、これは略称とかではなく正式名称らしい。


 バールを食べながら、フルミネから聞いていたトラウマのことを話すと、フィンブルさんは苦笑していた。


「あたしを美化し過ぎじゃないか?」

「フルミネにとって、あなたはそれだけのことをしたんですよ」

「………………」


 あれ、フィンブルさんが黙り込んでしまった。何か変なこと言ってしまっただろうか。


「今から、大体六年前か……」


 六年前――フルミネがトラウマを植え付けられた時期だ。


「お前に、六年前の真実を教えてやる」

「真実……?」

「あたしは意図的に(・・・・)フルミネの希望になった」


 僕はこの言葉を理解することができなかった。


 ――いや、違う。正確に言うと、理解したくなかった。しかし、フィンブルさんの次の言葉で、嫌でも理解してしまうことになる。


「軽蔑も、陰口も、あたしがそこにつけこんでフルミネを甘やかしたのも全部、始めから仕組んでたことなんだよ」

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