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想像と現実と

フラグは立てても必ず回収するとは限らない(迷言)

 王都レイクス――特殊な土でできた巨大な壁に囲まれている、この世界で最も大きな都市。様々な種族が、様々な理由でここを訪れる。

 魔人が過去にこの都市を襲った回数は、指で数えられる程度しかなく、最も安全な都市とも言われている。




「着きましたよー…………大丈夫ですか?」


 日が傾き始めた頃、僕達は何事もなく王都に着くことができた。


「「うっぷ……」」


 ただ、酔う羽目になるのは想定外だった。でこぼこ道ばかりだったせいで、僕達の乗っていた荷台は小刻みに揺れ続けていたのだ。

 始めの方は、そのガタガタをフルミネと楽しんでいたけれど、それが半日続くとなると話は別だ。途中からは吐くのを堪えるので精一杯だった。当分、乗り物には乗りたくない……。


 因みに、尻尾はいつの間にか元の長さに戻っていた。




 * * * *




 コメルさんは、王都に入るための関所の手前にある空きスペースで僕達を休ませてくれた。


「気分はどうですか?」

「ありがとうございます。僕はもう大丈夫です」

「私も、大丈夫、ですっ……」


 フルミネはまだ少し気分が優れないようだった。本人は大丈夫と言っているが、待ってくれているコメルさんに気を遣っているのだろう。

 僕も、これ以上コメルさんを待たせるのは悪い気がする。さて、それじゃあ――。


「はい、フルミネ」

「……? 何でしゃがんでるの?」

「おぶるから」


 僕が理由を言うと、フルミネは素直に僕の背中に乗ってくれた。

 しかし、掴まる力が弱々しい。それに、リュックを背負いながらだから、少しおんぶがしづらい。僕がちゃんと掴んでないとすぐに落ちてしまいそうだ。


「まだ気分が優れないようでしたら、もう少し休みましょうか?」

「ありがとうございます。でも、これ以上休んでいたら日が暮れてしまいますから」


 既に太陽は半分以上沈んでいて、もうすぐ夜になってしまう時間帯だった。


「……それもそうですね。分かりました。では、行きましょうか」


 コメルさんが魔動車に乗って関所に向かい、僕達は歩いてそれについて行った――。




 * * * *




 関所には兵士と思われる人が二人いて、そこを通るためにはステータスカードを見せなければならない。

 何故?と疑問に思ったけど、これは数年前にできた検査らしい。理由は言えないと言われてしまった。


 あと、僕の半分壊れたステータスカードを見せると、片方の兵士が「俺も壊したことある」と笑っていたが、もう片方の兵士は何か慌てている様子だった。仕事、忙しいのかな?


「では、私はこれで失礼しますね」

「はい、ありがとうございました」

「ありがとう、ございました……」


 関所を抜けて、お世話になったコメルさんとも別れた僕達は、とりあえず王宮に向かってみることにした。




 * * * *




 ――王都を歩いていて思ったことがある。


 想像と違う。


 歩道と道路は分かれていて、きちんと道も整備されていた。信号も存在していて、道路には色々な形の魔動車が走っている。

 西洋風な建物の隣に和風な建物があったり、かと思えば普通にアパートがあったり、露店があったり。

 行き交う人々の中には、四角い箱のようなもので会話をしている人もいた。携帯のようなものだと思う。


 一言で言うと、色々な文化をごちゃ混ぜにしてしまったような都市で、"これは都市なのか?"というのが正直な感想だ。


「そこ、右に曲がって」

「あ、うん。こっちか」


 信号を渡って右に曲がると、今度は並木道が続いている。結構歩いたような気がするけど、王宮のような建物は未だに見えてこない。


「シン、止まって」

「……それらしい建物は見えないけど?」

「この左の生垣の裏にあるのが王宮だよ」

「これ!?」


 全く気づかなかった。まさか、もうそんな近くまで来ていたとは。前を見ると、遠くに門のようなものも確認できた。


「でも、何でここで止まったの?」

「正面からは、入りたくない……」


 そういうことか。確かに正面からは入り辛いよな。


「ごめんね」

「謝らなくていいから」

「……ありがとう」

「どういたしたまして。で、どうやって入る?」


 この生垣も、2メートル以上の高さはある。飛び越えることも可能だが、それだとすぐにバレそうだ。


「ここを飛び越えるつもり」

「そうか。バレそうな侵入方法をあえて行うと。なるほどなるほど」


 うんうん。よく考えられた作戦だ――って、あれ?


「ちょっと待った。それ、普通に見つかるよね?」


 僕が問いかけると、フルミネが少し間を空けて返答してきた。


「誰に見つかるの?」


 誰に……? え、いや、まさか、そんな筈はないだろう。でも、念のために。


「見張りとか、監視カメラとかは?」

「…………牢獄? シンの世界だとあるのが普通なの?」


 どうやら、そういった類いのものは無いらしい。


「実際に見たことないから分からないけど、見張りみたいなものはいると思う……。逆に、そんな警備体制で大丈夫なのか……?」

「大丈夫、だと思う。皆、強いから」


 あ、皆戦える感じですか。まあでも、そうだよな。七聖がここにいるなら過剰戦力になる。


「シン」

「どうした?」

「もう大丈夫だから、そろそろ降ろして……」


 そういえば、ずっとおんぶしたままだった。このまま侵入する訳にもいかないので、僕はフルミネを降ろす。


「よし、じゃあ、行くか」

「ま、待って、心の準備させてっ」


 今度は深呼吸を始めるフルミネ。かなり緊張している風に見える。


「不安?」

「師匠は大丈夫だと思う。だけど、他の七聖の人や兵士さんに、受け入れてもらえないかもしれないから……」


 フルミネの話を聞く限り、僕はフルミネの師匠(フィンブルさん)以外の人には良い印象を持っていない。でも、これから七聖として復帰するためには、フルミネはその人達に認めてもらわないといけないのだ。


 そして、僕が今すべきことは、そんなフルミネの心の負担を軽減すること。


「――ひゃあっ!?」

「僕もいるから」


 だから、フルミネをそっと抱き寄せて、囁く。いきなりで驚かれたが、抵抗はされなかった。そして、彼女は僕の顔を見て──。


「…………ふふっ」


 笑った。


「顔、真っ赤だよ」


 そして、囁かれる。いつもと違う、大人の余裕を感じさせるフルミネに、僕はドキッとしてしまった――。

シンはカッコつけようとすると失敗するタイプ。

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