重なる思い
『それが答えだと思うよ』
その言葉の意味、つまり、私は、シンのことを……。
「えっと、どういうこと?」
話についていけないシンは、コンフィムに問いかけた。しかし、彼女はシンの問いに答えず――。
「お二人で、ごゆっくり!」
そう言い残して、部屋から出ていってしまった。
「へ……?」
「嵐のように去っていったな……」
待って、何でこのタイミングで二人きりにしちゃうの!? 私はシンと何を話せばいいの!?
ど、どうしよう。頭の中が上手くまとまらない。シンへの気持ちを自覚した途端、私は平常心でいられなくなってしまった。
「フルミネ」
そんな私に、シンから声をかけてくる。そして、新たな問題が発覚する。
――顔が近い。
腕を掴んだままなのだから、当たり前と言えば当たり前の話だ。段々激しさを増していく鼓動を、私はシンに悟られないうちに鎮めようと試みる。
……待って、腕を掴んだまま?
「――っ!? ごめ――わわっ!?」
「ちょっ、危なっ」
私は、すぐにシンから離れようとして立ち上がったのだけど、足がもつれて転びかけてしまう。
その私の手をシンが咄嗟に掴み、引っ張ってくれたおかげで転ばずに済んだ。
――と思ったら。
「あ、やばっ」
「うひゃあ!?」
シンは加減を考えていなかったのか、そのまま思いっきり私を引っ張ったのだ。結果、私はベッドに向かって勢いよく頭からダイブし、シンはベッドに背中から倒れる羽目になった。
もっと簡単に言うと、二人とも怪我の箇所を打ちつけた形になる。
「「ぐううぅ……!」」
呻き声が見事にハモる。私はズキズキと痛む頭を押さえ、シンは背中を……押さえることはできないので、「ぅ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……!」とまるで亡霊のような声を出しながら痛みを堪えていた。
「これなら、転んだ方がマシだったよ……」
「ごめん……本当、ごめん……」
その後、私達は痛みが治まるまで呻きながら、ゴロゴロとベッドの上で悶えていた。
* * * *
少し落ち着いた私達は、横に並んでベッドに腰掛けていた。
「「…………」」
そこに会話は無い。並んで座っているだけ。ただ、さっきの反省もあり、私はシンから少し距離を取って座っている。
――私は、シンに思いを伝えればいいのだろうか。いや、だろうかじゃない。伝えなければいけない。そのために、答えを出したのだから。
部屋の中の静寂が、よりはっきりさせる。収まる気配のない、それどころかどんどん速くなっていく心臓の鼓動を。
「フルミネ」
そんな静かな部屋に私を呼ぶ声が響いた……ような気がするほど鮮明に、シンの声が耳に入った。
「ごめん」
私は、何故謝られたのか分からなかった。私が理解するより早く、シンは話を続ける。
「一昨日の告白は、忘れてほしいんだ」
――時間が止まったような感覚に襲われた。
どうしてそんなことを言うのだろう。私は、答えを出せたのに。あとは、私が返事をするだけなのに。
「コンフィムに相談してたよね」
「……うん」
「だから、コンフィムはあんな行動を取って、フルミネの気持ちを確かめようとした」
「……多分、そう」
コンフィムの行動の意味が分かったのは、あの言葉を言われた時だけど。でも、それと告白を忘れることがどう繋がるのか私には分からない。
「焦らないで、もっとゆっくり考えてほしいんだ」
「……考えたよ」
私なりに、考えて、考えて、やっと出した答え。全く焦ってなかったって言うと嘘になるけど、それでも、私はちゃんと、ずっと考えていた。
「フルミネは、たくさんの人との出会いが待ってる。僕なんかより、君を幸せにできる人が現れるかもしれ――がふうっ!?」
聞いていられなかった。
「そんなこと、言わないでよ……!」
「フルミネ……?」
「私がっ…………好きに、なった人はっ……すごく、優しい人、だけど、こんなっ……こんな優しさなんて、いらないっ!」
辛い時、私に優しい言葉をかけてくれた。魔人から、自分の命も顧みずに守ってくれた。
使命から逃げた私を、軽蔑するどころかこれからも「守る」って言ってくれた。
こんな私を、好きになってくれた。
「これは、フルミネのために言ってることでもあるんだよ。フルミネはこれから、七聖としていろんな人と関わらなきゃならなくなると思う。だから、僕に依存してほしくない」
「もう、遅いもん……」
「……遅い?」
「散々、私に優しくして、怒ったと思ったら、私の支えになりたいとか、守りたいとか……」
私に甘いことばかり言って、不安とか、そういう負の感情を取り除いてくれた。シンがいないと、私の心なんてすぐに壊れてしまう。
――私は、とっくのとうにシンに依存していたんだ。
「それなのにっ、今更っ……忘れてなんて、酷いよ……」
私の目から溢れるものが、ポタポタとシンの顔を濡らしていく。
本当は、告白されるずっと前からシンのことが好きだったのかもしれない。今まで、その気持ちをよく分かっていなかっただけで。
一度自覚してしまったら、それを抑えるなんて器用なこと、私にできる筈がなかった。
「責任、取ってよっ……」
私が絞り出したその一言に、シンは――。
「ごめん」
謝罪の言葉を口にした。
「え……?」
その言葉を聞いた時、私はシンに拒絶されたのかと思った。けれど、それは私の早とちりで。
「今まで、気づかなくて。こんな僕で良ければ、責任、取らせてくれますか?」
それは、私がシンに望んでいた言葉。
「うんっ」
「ぐふっ、フルミネ、ちょっ、加減っ、して、お願いっ、だかあぐぅああ――!?」
シンが私を受け入れてくれたことが嬉しくて、シンの温もりをもっと感じていたくて、私は力一杯にシンを抱き締める。
そして、今がお昼前ということも忘れて私達は――。
――ベッドの上で、体を重ねた。
一応、誤解されないために言っておきますね。
本当に、体が重なっているだけです。
シンの上に、フルミネが馬乗りになっていて、そこからフルミネがシンをぎゅっと抱き締めて、ただそれだけです。
見ようによっては微笑ましい、そんな光景。
シンの悲鳴はきっと気のせい。
※フルミネの腕は魔道具なので、一般人に比べると少々力が強いのです。あと、重いです。




