出かける時の挨拶で
「お、落ち着いてください! 白い髪は召喚の影響です! 耳と尻尾は元々付いてましたけど! ……というより、元々人間だったって本当ですか?」
「人間だよ……というか、僕のいた地球では人は人間しかいないよ……」
いたとしても、それは作り話の中にしかいない。
そんな存在に自分がなってしまっている。その事実に、僕は心の中で泣いた。シクシク……ごめんやっぱり嘘。驚きはあってもそこまではいかない。
「人狼って判断した理由は?」
「獣人は基本的に耳と尻尾で判断するんですよね。まあ、慣れれば大体何の獣人か分かりますよ」
「あ、はい……この際、もう僕は人狼ってことでいいや」
僕は思考を放棄して、ホワルに質問を続ける。考えるだけ無駄な気がしたから。
「召喚の影響って他にもあるの? 今のうちに聞いておきたいんだけど」
「そういえば、まだ言ってませんでしたね」
~ホワルの説明time〈part2〉~
・ホワルに召喚されると、ホワルの魔力の一部を受けとる。
・そして、体毛が白くなる。しかし、これは元々魔力を持っていない人のみ。
・この世界の言語が理解できるようになる。
「じゃあ、このスキルは召喚特典とかでもなく、僕が元々持ってたのか」
「シンが元々スキルを持っていたことには驚きました。一応、自分のスキルの詳細が見れるかどうか確認してみませんか?」
ホワルの言う通り、そのスキルの名前と思われる所を触れてみる。
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ホワルは背伸びをして僕のステータスカードを覗き込んだ。
「やはり見れませんか……」
「一行目がスキル名、二行目がその説明……かな?」
「で、でもっ、安心してくださいっ! 私が魔法やスキルを授けるのでっ!」
「……うん」
ホワルが励ましてくれたが、自分より小さい子(見た目だけ)に気を遣われたことが、心にさらなる追い打ちをかける。
――それでも、なんとか心を持ち直した僕は、ホワルにあるお願いをした。
「ホワル、僕は魔法はいらない。デュアルって稀って言うぐらいだから目立つでしょ? だからスキルだけでお願い」
異世界に来たのなら、魔法も使ってみたいと思ってはいた。
しかし、人にステータスカードを見られることが決して無いとも言えない。魔法を使ってみたいという気持ち以上に、リスクはできるだけ取りたくなかった。
「……分かりました。ではいきます、『スキル-創造-付与』」
ホワルは僕のステータスカードに触れる。すると、そのステータスカードに新たな文字が浮き出る。
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シン 17歳 ■ ■■
魔■:D
■法:
スキル:[■■][能力改変]
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[能力改変]
自分のステータスポイントを自由に割り振ることができる。あらかじめ、割り振るステータスと合言葉を設定し、合言葉を発言することでそのステータスの変更可。各ステータスは1未満にはできない。人間の平均的なステータスは全て5。
STR:力の強さに関係する。
DEF:頑丈さに関係する。
INT:魔力を使った攻撃の強さに関係する。
MEN:魔力を使った攻撃に対する耐性に関係する。
AGI:あらゆる動作の速度に関係する。
CON:集中力、五感の感度に関係する。
総ステータスポイント:50
STR:10
DEF:10
INT:10
MEN:10
AGI:5
CON:5
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まるでゲームみたいなスキルだ。説明を見る限りだと、使いやすそうではあるけれど。
僕が追加されたスキルについて考えていると、ホワルは不思議そうに訊ねてくる。
「追加されたのは一つだけですか?」
「……えっと、どういうこと?」
「この『スキル-創造-付与』はランダムでスキルを複数創造して付与するというものなのですが、シンは一つしか付与されなかったので……」
「なるほど……」
つまり、本来はあと何個か追加される筈のスキルがあった、ということだ。まあ、追加されない可能性もあったのだろうが。
「スキルが一つというのも珍しくはないと思うのですが、情報が封印される前なので少し不安で……魔法も要りますか?」
そっか。ホワルの情報は、ホワルがここに封印される前のことだ。
全て正しい情報とも限らない。そう考えた僕はホワルの提案を受け入れることにした。
「お願いできる?」
「分かりました。では、『魔法-創造-付与』」
ホワルは僕のステータスカードに手を触れる。
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シン 17歳 ■ ■■
魔■:D
■法:
スキル:[■■][能力改変]
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しかし、ステータスカードに魔法が表記されることはなかった。
「……!? 『魔法-創造-付与』、『魔法-創造-付与』、――!」
そのことに、ホワルは戸惑っていた。そして、今度は連続で唱える。それでも、僕のステータスカードに何も変化は起こらない。
「追加されないのって、僕がもうスキルを持っているからじゃない?」
「私、これでも創造神やってるんですよ? そんな常識にとらわれる程度の力で神なんかできません」
その後もホワルは何度も試し続けた。しかし、ステータスカードに何も変化は起きない。
それでも試し続けるホワルを見て、途端に申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
「ホワル、もういいよ。さっきの[能力改変]見た時、自分の身体能力が高い方だってことは分かったし、多分どうにかなるから」
「――はあっ、はあっ……すみません、力不足で……」
そう言って、ホワルは疲れたようにペタンと座り込む。相当無理をさせてしまっていたようだ。
「十分だよ、むしろありがとう、命を救ってくれて。それに、休憩中なのにこんなに頑張ってくれて……」
「いえ、神として当然ですから。あまり手助けできませんでしたが、どうかこの世界を楽しんでください」
……ホワルは天使なんかじゃない。真っ当な神様だ。
少なくとも、今の彼女を見た僕はそう思った。
「そろそろ転送をしますが、何か希望はありますか?」
「じゃあ、人の多い街とかにしてほしいかな」
「分かりました」
そして、ホワルは立ち上がり、転送の欠点を説明し始める。
「希望は聞きましたが、成功する確率は半分です。失敗した場合は真逆の場所に転送してしまうかもしれません」
「失敗するとかあるんだ。召喚もそうだったの?」
「召喚は対象がランダムだったので。転送が確実に成功するならあなたを元の世界に帰してますよ。失敗したらあなたが生きていける環境に転送できるかすら危ういです」
ホワルは頬を掻きながらさらっとそんなことを言う。
その言葉に嫌な予感を覚えたが、きっと気のせいだろう、うん。
……こういう時のフラグ回収率って、僕、そこそこ高いんだよな。
「では、始めますか?」
「……うん、いいよ」
「分かりました。では、いきます。『指定転送:人口密集地域』」
ホワルが唱えると、僕の足下に紫色の魔方陣が出現する。
「いってらっしゃい!」
ホワルは手を振り、僕も彼女に手を振り返す。
そして、この空間で最初で最後になるであろう挨拶を返した。
「いってきます」
その言葉と共に、僕は光に包まれた――。