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少年少女は月明かりに照らされて

 ――その後、ゲンブさんの寿命のことを聞いた。ゲンブさんは最期にフルミネの背中を押してくれたみたいだ。

 "もうじき"と言っていたらしいので、寿命が尽きるまでもう少し時間があるみたいだけど、僕達は(特に僕なのだが)傷を治さないといけないため、もう一度会うのは難しいと思う。


 なので、僕達は傷が癒えたら王都に向かうことにした。フルミネはゲンブさんのことを、できれば早くフィンブルさんに伝えたいそうだ。話を聞くところによると、フィンブルさんはゲンブさんと旧友の仲なのだとか。




 そして、フルミネはトトさんを呼びに行った。

十五分ぐらいして一人で帰ってきたので理由を聞くと、トトさんは他の人の治療中だったため少し遅れるそうだ。


 フルミネは何故かしょんぼりしていたので、その理由も聞いた。

 トトさんを呼びに行った時、コンフィムに会ったらしいのだが、フルミネはコンフィムのことをあまり覚えていなかったようで、申し訳ない気持ちになっていたらしい。コンフィム、ドンマイ。


 ――フルミネを慰めていると、トトさんが部屋に入ってきた。


「遅れてすみません、七聖様。シン君も待たせてすまなかった」

「いえ、大丈夫です」


 むしろフルミネを慰める時間があって丁度良かったというか。

 フルミネはトトさんに向かってペコリと頭を下げる。でも、トトさんがフルミネのことを"七聖様"と言っているところを見ると、七聖というのはそこそこ身分が高いのだろう。


「今から少し傷の様子を見るのですが、七聖様はどうしますか?」

「……ここにいてもいいですか?」

「大丈夫ですよ。シン君は大丈夫かな?」

「大丈夫です」


 なんか、フルミネにも見られるというのは気恥ずかしいものがあるけど、それ以外は特に断る理由も無いので僕は了承する。

 とりあえず、ベッドの上からゆっくりと椅子に移動して、診察が始まった。


「じゃあ、腕を上げられるかな」

「あ、はい…………痛っ」


 右腕は多少の痛みがあるものの、特に問題なく上げることができた。けれど、左腕はそうもいかなかった。左肩がズキズキと痛んで腕が上がらない。


「傷が痛むかい?」

「ええ、まあ……」

「すまない。私の[回復魔法]は軽い傷なら完全に癒すことができるのだが、ここまでの怪我だと出血を止める程度しかできなかった。力不足で本当に申し訳ない……」

「謝らないでください。逆にあれだけ血を流して死ななかったのはトトさんのおかげですよ。本当にありがとうございました」


 僕がトトさんに感謝の言葉を告げると、黙っていたフルミネも口を開く。


「集落長さん、魔人の魔法は人の魔法とは違うので[回復魔法]も本来はあまり効かないんです」

「……そうなのですか?」


 ――フルミネの話によると、理由は不明だが魔人の魔法によってできた傷は、普通の傷より治るのに時間がかかる。また、[回復魔法]も普通の傷より効きが悪いのだが、トトさんの[回復魔法]は魔力の込め方が丁寧なのでこれでも少しは効いている方らしい。


「だから、大丈夫です。力不足なんかじゃありません」

「……ありがとうございます、七聖様。じゃあシン君、私が服を脱がすから少しだけ我慢をしてほしい」

「……頑張ります」




 ――そんなこんなで僕はパンツ一丁になりました。脱ぐ時、滅茶苦茶痛かった。包帯も怪我に引っ付いていたりして、痛い痛い。

 自分でも見るのは初めてだけど、焼け爛れたような痕が体中に付いていたり、左肩がちょっとグロい感じになっていたりしていた。そして僕は、集落長さんに背中を向けて椅子に座る。


「――っ、さっき飛びついちゃってごめん……」

「それは大丈夫だけど……そんなに酷いのか」


 背中は自分じゃ見れないから、そう言われたりするとなんか気になってしまう。

 だって、この肩より酷いってことでしょ? 一体どんな感じなのだろうか。気になる。大変、気になる。


「――いだあっ!?」

「いや、何してるのっ!?」

「ハハ……気になるのは分かるけれど、あんまり体を捻らせてはいけないよ」


 フルミネの心配と焦りの混じったような声と、トトさんの苦笑するような声が後ろから聞こえる。

 気になるけれど、どう頑張っても見れなさそうだから諦めよう……。




 診察が終わり、トトさんに[回復魔法]を重ねがけしてもらった。痛みは少しだけ和らいだけれど、この効果もあまり長く続かないとのことだ。


 [回復魔法]をかけてもらっている間に、ホムストの現状を聞いてみた。ホムストで怪我人は出たものの、誰かが死んだとかは無いそうだ。これはきっと、フルミネのおかげだと思う。


 因みに、ライトは包帯ぐるぐる巻きのミイラ状態でベッドに張り付けているとか。

 何故そうなっているのかというと、ライトはじっとすることが苦手のようで、絶対安静と言われているのにも関わらず「俺は修行するんだあ!!」とか言って外に出ようとしたらしい。


 今回の戦いで何か思うところがあったのだろう。

 だけど、そんな状態で修行しても逆効果では? と思ったりするのだが、とりあえず元気そうなので安心した。


 王都に向かっていたホムストの人達には既に魔道具を使って連絡済みのようで、夜にはここに戻ってくるみたいだ。

 トトさんは、ホムストで祝勝会的なものを開こうと考えているそうだが、それは皆の怪我がちゃんと治ってから開くことにすると言っていた。その時は僕達もぜひ主役として参加してほしいとのこと。


 だから僕達は、参加するのは構わないけど主役としては止めてほしいと言った。単純に、恥ずかしいから。




 * * * *




 その後、着衣でまた少し時間がかかり、終わった頃には既に外が暗くなっていた。夕食はトトさんが野菜炒めを作ってくれた。

 日本の野菜炒めとは違って、青い大根のような野菜が使われていた。これは、怪我によく効くと言われているらしい。


 トトさんが帰り、夕食を食べ終えた僕達はもう寝るだけになったのだが――。


「どうする?」

「ベッド、一つしか無いよね……」


 そう、ベッドが一つしか無い。だから、どうしたものかと考える。


「まあ、私の方が傷も軽いし、床で寝るから大丈夫だよ」

「それは絶対駄目」


 フルミネも怪我人なんだ。フルミネを床で寝かせるぐらいなら僕が床で寝る。


「じゃあ、また、一緒に寝る……?」

「そう、だね……」


 一日空いただけなのに、お互い変に緊張してしまう。僕達は、いつものように二人でベッドの上に寝転がる。いつもと違うのは、僕が壁側ということとベッドが少し小さいことか。

 僕がフルミネを背にして寝るために寝返りしようとすると、フルミネに服を掴まれた。


「今日は、こっち向いてて……」

「……分かった」


 すると、フルミネは僕の胸のあたりに頭をくっ付け、服をぎゅっと両手で掴んできた。小動物みたいで可愛らしい。

 可愛らしいのだけれど、ちょっと問題もある。こんな密着状態だと、心臓の鼓動が速くなっているのがバレてしまう。僕は今日、告白したのだ。それでこの状況、平常心でいられる方がおかしい。


 僕が自分の中に潜む獣と少しボクシングをしていると、フルミネがそのままの状態で「シン」と僕の名前を呼ぶ。顔は埋めたままなので表情は分からない。


「もう、急にいなくなったりしないでね」


 それは、昨日のことを言っているのだろう。確かに、急すぎたかもしれない。

 でも、ホムストを救うことができたのもあると思うので、少々複雑な心境だったりする。


 フルミネに依存だけはさせたくないと思ってはいたけど、僕は彼女の過去を聞いてしまった。

 過去を聞いて、依存まではいかなくても、心の支えは必要だと思った。だから、僕がその支えになろう。


「これからは、フルミネを独りにはさせないから」


 これが、今の僕がフルミネにかけられる最大限の言葉。


「おやすみ、シン」

「おやすみ、フルミネ」


 暗い部屋の中は、窓から射し込む綺麗な月明かりで照らされていた。

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