誓い
フルミネは怯えたように縮こまってしまう。そして、チラッとこちらを見ると、黙っていた彼女はようやく口を開いてくれた。
「いいよ……ちゃんと、聞くから」
そこまで怯えられると流石に傷つくのだが。今の僕、そんなに怖かったかな。まあ、それは我慢しようじゃないか。
「なんでこれでお別れみたいになってるの?」
「…………え?」
僕の言葉に、フルミネはキョトンとした顔になった。その予想外の言葉を受けたような反応はなんだ。一体何て言われると思ってたんだ。
「じゃあ、言うよ?」
少し責めるような言い方になるのは心苦しいけど、これだけはどうしても言わないといけない。
「僕の意思は聞いてくれないの? フルミネがちゃんと考えてるのは分かるよ。でも、一人で結論出しちゃって、僕はもう用済みなの? 一緒にいたくないってこと? 僕のこと、実は嫌い?」
一気にまくしたてるように言葉をぶつける。僕はただ、フルミネが勝手に一人で背負い込もうとしていることに、我慢ならなかった。
「そんなわけないっ。私はただ、巻き込みたくないだけ!」
「巻き込みたくない? じゃあ、何で僕に話したのさ。巻き込みたくないなら僕なんかに話さないで、姿を消すなりすればいいじゃん」
「そ、それは……」
フルミネは涙目で狼狽えている。ちょっと言い過ぎたかもしれない。
彼女の泣き顔はあまり見たくない。けれど、勝手に一人で抱え込もうとしているのを頑張れと応援することは、それ以上に嫌だった。
それに、僕に話してくれたということは、フルミネも心のどこかで、これからのことを不安に感じてるからだと思うのだ。
「確かにさ、僕は七聖じゃないからフルミネの足手まといかもしれないけど、フルミネの支えになりたい」
「そしたら私、絶対シンに頼っちゃう……」
「むしろもっと頼ってよ」
抱え込むより全然マシだ。むしろそうしてほしい。
「そう言うと思った……だから頼れないのっ。傷つけたくないからっ! なのに何で、シンはそんなに優しくするの……!」
「フルミネだからに決まってる」
「私、だから……?」
まだ言うつもりはなかった。フルミネを外に連れ出して、この世界を見て回って、落ち着いたら言おうかなと考えていた。
でも、こうなった以上、言ってしまおう。
「フルミネのことが、好きだから」
「………………へ?」
「だから、フルミネのことが好きだからだよ。そんな理由じゃ、駄目かな……」
恥ずい。今にも顔から火が出そうだ。人生初の告白、まさか異世界ですることになるとは思わなかったけど。
「えっ、あっ、えっ? あ、えっと、うあ、あっ、あうぅ……」
うん、突然こんなこと言ったから混乱するのもよく分かる。急にごめん。けど、ここまで言わないとフルミネも納得しなさそうだったし……。
「それで、返事は……?」
「…………ほっ」
「ほ?」
まさか、他を当たって、とか……?
「保留っ。無理、そんな急には、無理っ! し、シンをそんな風に考えたこと、なかったから……!」
これは、可能性があると喜ぶべきなのか。それとも、異性として意識されていなかったと嘆くべきか。
とりあえず、ポジティブに考えておこう。まだチャンスはある。
……あるよね?
* * * *
――その後、しばらくして落ち着いた(顔はまだ赤いが)フルミネは、僕に問いかけた。
「何で、私……?」
「何で、か」
そう言われると、理由はよく分からない。正直な話、"可愛いから"も少なからずある。
でも、年齢を知るまで年下かと思ってたし、別に僕はロリコンでもない。フルミネだから、なのだ。それでも、強いて言うなら――。
「笑った顔が、魅力的だったから……?」
「――っ、そ、そうなんだ……」
特に、クリスマスをした時のあの笑顔が印象に残っている。
「それで、納得してくれた?」
僕は、再度フルミネに聞く。しかし、返ってきたのは、あまり良い返事ではなかった。
「納得は、うん。でも、やっぱり駄目。シンを危険な目に遇わせたくない」
「……フルミネはさ、師匠を庇ったこと、後悔した?」
「もう少し庇い方があったんじゃないかって思うことはあるけど、庇ったこと自体は後悔してないよ」
「フルミネは、この魔人との戦いで死にかけたよね。それでも、その使命に向き合うつもり?」
「うん」
分かりきっていたことだけど、フルミネの目に迷いは見えない。
「僕も同じなんだ。フルミネを庇ったことを後悔なんてしてない。庇えて良かったとすら思ってる。フルミネが七聖として人を守るなら、僕はフルミネを守りたい」
「それって、シンが危ないよね。嫌だよ、私のせいでシンが死ぬなんて」
「だからフルミネは、人を守るついでに僕も守ってほしいんだ」
「……!」
男が守られるっていうのはなんか格好悪いと思うけれど、僕達の思いには共通していることがあった。"守られるより守りたい"んだ。それなら、お互いを守り合えばいいと思った。
「ぷっ、あははっ、何それっ」
人が考えて考えて考えた末に出した答えを、笑わなくたっていいと思う。その笑う顔を可愛いと思ってしまう僕も僕なんだけど。やっぱりフルミネには笑顔が一番似合う。
ひとしきり笑ったフルミネは、「ごめんね」と言った後に、言葉を続けた。
「まさか、シンに守ってほしいって言われるとは思わなかったから」
「そんなに笑うほどおかしかった?」
「まず、シンの性格からして言わなさそうだもん」
そんなに? 僕ってそんな風に見られてたのか……ってそうじゃなくて。
「フルミネ、これならいい?」
僕はフルミネからの返事を待つ。彼女は、決意したように僕をまっすぐ見て、答えた。
「分かった。シンは、私が守る。だから……」
「フルミネは僕が守るよ。だから……」
「「フルミネ(シン)に守られる必要がなくなるぐらい、僕(私)は強くなるから」」
僕達は誓い合う。守りたいものを守るために、強くなることを――。