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トラウマ

「私は、物心がついた時から王宮で暮らしてた。七聖の一人、【氷聖】で私の師匠、グラス・フィンブル。その人が私の親代わりだったの」


 ずっと謎だった師匠の正体がようやく分かった。

 まさか七聖だったとは思わなかったけど、不思議と納得してしまう自分がいる。フルミネの対人戦闘の技術は、魔人との戦闘を想定したものだったのか。


「私が神器に選ばれたのは十歳の時。七聖が死んだ場合に残った神器は、王宮の"選定の間"で継承できるかどうか試すことができるの。そこに入る条件は、"守人(ガーダー)であること"と"二十歳以上であること"。私はその時、師匠にお願いして見学させてもらったんだ」

「その時、フルミネもその継承を試してしまった?」

「……うん。師匠達が魔人と戦って帰ってきた時、いつも怪我してたから…………お手伝いがしたかったの。私も手伝えれば、師匠達の怪我が減るんじゃないかって」


 それは、フルミネの純粋な思いだったのだろう。けれど、その思いが消え去ってしまうほどの出来事があったということだ。


「神器に選ばれた時、魔力を一気に使う感覚に慣れてなかったから、その日はそのまま気絶しちゃってね。その次の日から、師匠に神器の使い方や戦い方を教えてもらった。それから五年、十五歳で初めて魔人との戦いに参加した時なんだけど……」

「フルミネ、無理はしなくていいよ」


 フルミネは震えていた。フルミネが今から話そうとしているのは、きっと過去のトラウマだ。

 トラウマは無理に聞くべきことではない。伊達に孤児院で育ってないから、それぐらいは分かる。


 それでも、フルミネは話を止めなかった。


「その時の魔人は三獄の一人、【溶獄】。私ね、その魔人に体を溶かされたんだ」

「――っ」


 僕は絶句してしまった。フルミネの体が魔道具なのは知っている。でも、その体になった理由は聞いていなかったのだ。

 ――たった十五歳でそんな目に遭えば、トラウマになるのも当たり前じゃないか。


「【溶獄】がね、魔物達に紛れて師匠を奇襲してきたの。師匠は私を補助しながら戦ってたから、全く気づけなかった。だから、近くにいた私しか気づけなかったんだ。それで、師匠を守るために【溶獄】の攻撃を私が受けて、こんな体になっちゃった」

「フルミネ」

「【溶獄】は私も七聖だって分かった途端、私を閉じ込めて、嗤いながら手足を溶かしていくの」

「もう、やめろ」

「魔人と戦うことが、こんなに怖いんだって知らなくて。痛みで意識が飛んで、目が覚めた時、私の手足はもう存在してなかった」

「フルミネっ!」


 フルミネは明らかに無理をしていた。顔も真っ青で、いつ倒れてもおかしくない。


「止めないで。私はもう、逃げたくないから」


 そんな状態でも、フルミネは話を続けるつもりらしい。瞳には、彼女の強い覚悟が感じられた。


 彼女は勇気を出して、自分の辛い過去を僕に打ち明けようとしてくれている。

 だから僕は、彼女の話を最後まで聞くことに決めた。


「……それでね、後から聞いたんだけど、師匠は死にかけていた私を凍らして、【溶獄】を退けた後、私が死なないように、内臓の魔道具を10カも寝ないで作ってたんだって。その後に手足の魔道具も作ってくれたんだ。見つかったばかりの幻の金属を全部使っちゃったんだよ、私なんかのために」




「その20カ後……ぐらいだったかな、また魔人が人の街を襲ってきたの。私は魔道具の体にも慣れて、充分に動けるようになってた」




「だけど、私は部屋から出られなかった。部屋を出たら、戦わなきゃいけないって思ったから」




「結局、師匠達は私を置いて魔人と戦いに行ったの。帰ってきた時に、部屋に来てくれた。けど、師匠以外の目は冷たかった。臆病者って、王宮にいる兵士さん達の陰口も聞いた。仲良くしてくれていた人達が、私を失望したような目で見てきた。私は何度も部屋を出ようとしたけど、出られなかった。魔人も、人も、怖くなった」




「もう、誰も部屋に入れたくなくて、入ってこようとする人達には神器を使って追い返してた。師匠も、他の七聖も、兵士さん達も、皆追い返してた。それから、皆が私の部屋に来ることはなくなった…………師匠を除いて」




「しばらくして、師匠は部屋の扉を壊して強硬手段で入ってきた。神器も持たずに。私はまた追い返そうとして攻撃した。けど、師匠は全部避けないで、ただまっすぐ歩いてきた。本当は痛い筈なのに、なんでもない風に笑って私を抱き締めてくれた」




「師匠が言ってくれたんだ。もう無理はしなくていい。休みをもらったから、王都から離れようって」




「師匠だけが私の味方だった。それから、私は師匠と王都から離れてあの森で過ごしたの。大体は師匠の魔道具作りの手伝いと、魔獣討伐でリハビリだったかな」




「私、最初の頃は魔獣も倒せなかったんだ。初めて魔獣に遭遇した時、怖くなって神器を使ったんだけど、神器ってね、感情に左右されるところがあるから。それで制御ができなくって、この左目も、その時に自分で潰しちゃった」




「師匠は左目の魔道具も作ってくれた。魔獣討伐も、師匠は強要しなかった。だけど、私は少しでも師匠に恩返しがしたくて、魔獣を神器無しで倒せるようになるまで、克服できたんだよ」




「魔獣を倒せるようになったって言ったら、師匠は小さい頃によくしてくれていたように頭を撫でてくれたんだ。でも、そんな師匠と過ごす時間は、長くは続かなかった」




「魔人にこっちの事情なんて関係ない。魔人のことを聞いた時、戻らなくちゃいけない時が来たって思った。だけど師匠は、私が戻りたくないって言ったら、お留守番を頼んできたの。魔人を全部倒して帰ってくるからって」




「だから、私はそれを信じた。それに甘えた。今まで、一度も倒すことができていない魔人達を全部倒すことが、どれだけ難しいかなんて少し考えれば分かるのに」




「これが私。人を守るっていう七聖の使命から逃げた臆病者。シン、今まで、騙しててごめんね」




「私は、この使命からもう逃げない。だから王都に行こうと思う。師匠にこのことを伝える。七聖として、魔人と戦う。シン、短い間だったけど、今までありがとう。シンの存在が、私を変えてくれた。本当に、ありがとう……」


 フルミネは、使命に向き合う覚悟を決めていた。だから、僕がそれを止めることはできない。止めたら、彼女は前に進めないだろうから。


 けれど、それとは別に僕の中の()()()()()が膨らんでいく。


「フルミネ、怒っていい?」


 それは、僕がフルミネに対して初めて持った感情だった。

Q.フルミネは自分の誕生日を知らないのに自分の年齢が分かるのは何故?

A.それは、ステータスカードに正確な年齢が表示されてるからなのです。フルミネは常にステータスカードを見ている訳でもない……というかこの世界の人々は、自分のステータスカードを見るのは相手と交換する時ぐらいしかないので、フルミネの場合は気づいたら歳を取ってた、みたいな感じになっちゃうんです。


Q.ステータスカードについて。

A.それは産まれた時から存在するもので、出そうと思えば赤ちゃんでも出せます。赤ちゃんがステータスカードを自覚すればの話ですが……。


以上、簡単な疑問解決コーナーでした。

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