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vs【煉獄】第三ラウンド

「フル、ちゃん……?」


 今、ボクはとても間抜けな顔をしていると思う。でも、それほど、目の前で起きたことを信じることができなかった。

 フルちゃんはボクの声に反応してか、一度振り向いて見つめてきたけどすぐに視線を変えた。


「皆さん、下がっていてください」


 フルちゃんは皆にそう呼び掛ける。けれど、そう言われて下がれる人なんていない。

 自分達より小さい子が戦おうとしているのに、黙って見てるなんてできる訳がない。


「嬢ちゃん、俺達はまだ戦えるぞっ」

「いいから下がってください! 邪魔です!」

「なっ!?」


 一緒に戦おうとするライトのお父さんに、フルちゃんは"邪魔"だと言い切る。

 ボク達は理解ができなかった。ライトのお父さんはそこまで弱くはない。むしろ、この集落でなら強い方だと思う。その人を「邪魔」と言い切ったのだ。


 ――けれど、ボク達はすぐに知ることになる。彼女が言った言葉の意味を。


「巻き込まれないように魔物から離れてください。『雷壁』」

「なんだこれっ!?」

「わあああ!?」


 魔物を引き付けていた弓部隊の人達が慌てて戻ってくる。そして、ボク達と魔物の間に緑色の雷でできた壁に隔てられた。


「『神器解放』」


 それは、七聖の証である"神器"の使用宣言。

 フルちゃんの右腕から、黒い何かが漏れ出てくる。その漏れ出た黒い何かは、槍のような形を形成していく。


「黒い、雷……?」


 誰が呟いたのかは分からない。でも、実に的を射た言葉だった。

 七聖という名前には似合わない、禍々しい黒い雷でできた槍。


「ヘレグローザ、力を貸して」


 ヘレグローザ……聞いたことがある。確か十年前ぐらいに、継承者を探していた神器の名前だった気がする。けれど、突然その継承者探しは()()された。ボク達もその理由は知らない。


「やああああ!!」


 フルちゃんは、その槍を斜め上に向かって投げた。瞬間、槍が分裂する。その数、五十以上。

 魔物達に、黒い雷の雨が降り注ぐ。魔物達は半分に減り、残った半分もボロボロの状態だ。そして、フルちゃんの右腕には、二つ目の槍が形成されていた。


「魔人、魔物の相手は七聖の使命です。後は私に任せてください」


 フルちゃんは後ろを振り向いて、再度ボク達を下がらせようとする。

 この光景を見てしまった皆は、素直に頷くことしかできなかった……のだけれど――。


「フルちゃん! 先に行ってっ、二人が【煉獄】と戦ってるの! 二人を助けて!」


 ボクは無意識にそんなことを言っていた。

 その声がフルちゃんに届いたのか、誰かを探すように周囲を見回している。誰を探しているのかはすぐに分かった。


「シン……嘘っ、早く行かなきゃっ」


 ――その焦った声を聞いてか、はたまた偶然なのか。


 生き残った魔物達が集まり、一体の大きな蛙の形をした炎となった。そして行く手を阻むように立ち塞がる。

 核は岩で覆われながら炎の体の中を動き回る、巨大な怪物が。


「邪魔しないでよっ!」


 フルちゃんはまた槍を投げる。さっきと同じように分裂して、巨大な蛙の炎を貫いていく。その槍は核を覆う岩にも何度も当たり、岩の防御壁はボロボロになった。


 けれど核には届かない。炎の体も、すぐに再生してしまう。


「これじゃあ魔力が…………なら、直接壊すっ」


 フルちゃんは三つ目の槍を形成し、それを右手で掴んで巨大な炎へと突っ込んだ――。




 ▼ ▼ ▼ ▼




「まア、七聖じゃなキャ、この程度カ」

「まだだ……!」

「まだ終わってねえぞ……!」


 僕達は既に満身創痍になっていた。でも、ここで退く訳にはいかない。


「『風針』っ!」

「『特避』!」


 ライトが魔法で注意を引き、僕が男の死角に回り込む。


「その根性は認めるガ、弱いやつには興味ねーヨ。そろそろ終わりにするカ。きっちりホムストは潰さねーとナ」

「『S極』っ」


 男はライトの魔法を避けて、僕の攻撃を受け流す。

 そして、動きが鈍くなった僕に男の蹴りが襲う。


「がっ」


 それを避けられずに蹴り飛ばされ、僕は木に体を打ち付けた。


「『水嵐』!」

「しつけーナっ」


 ライトによって放たれた水の竜巻は、男が放った炎の竜巻によって蒸発し、そのままライトを襲う。


「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ」


 男の攻撃をまともに喰らったライトは地面に倒れ伏した。


「ライト! こんのっ」


 僕はまた踏み込み、跳んで、男に蹴りを入れようとするが、直線的な速さしかない『S極』では普通に避けられてしまう。


「お前モ、これで終わりダ」


 そして、距離を取った男は左手を僕の顔に向け――。


「『(エン)』」


 ――熱線が、放たれる。




「ヘレグローザ、お願いっ」


 聞き慣れた少女の声のすぐ後に、雷鳴。それと同時に黒い何かが僕の目の前まで迫っていた熱線をかき消した。


「シンは、殺させない……!」


 ここにいる筈のない少女が、そこにいた。

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