vs【煉獄】第一ラウンド
「シンっ」
「分かってる!」
僕は目前に迫る舌を紙一重で避ける。あの蛙もどき、頭が竜のくせに舌を伸ばすなと言いたい。
蛙もどきの攻撃を避けた直後、次の攻撃が僕達に迫っていた。
「『水壁』っ」
ライトが迫る炎を[水魔法]で防ぐ。しかし、その炎の後ろから岩の魔物が水壁を突き破ってきたのだ。炎の後ろに隠れてたのか。気づくのが遅れて避けることがができない。
「はあっ!」
影からコンフィムが出てきて、転がっている岩の魔物の足元に複数の矢を放ち、軌道を右に逸らした。
「助かったっ」
「ここは任せて早く行ってっ」
「……頼む!」
魔物の群れを抜けるまであと少し。皆が僕達を援護をしてくれている、そんな時だった。
「後ろから来てるぞ!」
ライトの声で振り向くと、背後に大きな炎が迫ってきていた。
「『S極』っ」
その炎を避けるのではなく、逃げ切ることを選択した。だから僕は、思いっきり踏み込み、前に跳ぶ――。
▼ ▼ ▼ ▼
「行ったね……」
二人の背中を見送りながら、一息つく。
これでボクの一つ目の役目は果たした。さて、次の役目を果たそう。
「アアアァァ!!」
「当たらないよっ」
炎巨人の拳がボクを空振り、地面がへこんだ。当たったらただじゃ済まなさそう。でも、当たらなければ怖くない。
「はあっ!」
矢を放っても、核に当たらずに炎の体をすり抜けてしまう。矢も無限じゃない。確実に当てなければ無駄にしてしまう。
「おらぁっ!」
飛んできた石が炎巨人の核に当たって、その核にヒビが入る。すると、途端に炎巨人の動きが鈍くなった。
「こいつら、矢じゃなくても核に当たれば何でも効くぞ!」
「っ、ライトのお父さん、ありがとう!」
それを聞いて、落ちている石を掴んで核をめがけて投げる。けど、そう簡単にはいかず、核に避けられてしまった。
「それより、何でこっちにいるの?」
魔物達の攻撃を避けながら、ライトのお父さんに聞いてみた。ここは魔物の群れの後ろの方だ。ボクは今から皆のいる方に戻るつもりなのだけど、ライトのお父さんがここにいる理由が分からない。
「トトに頼まれてな、フィム嬢を絶対に死なすなってさ」
お父さん……嬉しいけど、恥ずかしいよ。
「ありがたいけど、自分の身が最優先だからね?」
「分かってらぁ。いくぞ、フィム嬢っ」
「うんっ」
皆で、絶対に、生きるんだ――!
▼ ▼ ▼ ▼
魔物の群れを抜けて、森の中を跳んで進む。
「大丈夫か、シン」
「ああ……ライト、降ろす」
「は!? ちょっとま――うわっ!」
ライトが何かを言いかけていたが、構わず僕は肩車を解除した。つまり、落とした。
そして、そのまま魔人と思われる黒肌の男に突っ込んで殴りかかる。
「いきなりだなおイ」
そう言って、男は体を少しずらして拳を避けた。驚いた様子は見られない。不意打ちは想定内か。
「遅かったからてっきり逃げちまったのかと思ったガ、もう少し待ってりゃよかったカ。まあいイ、やろうゼっ」
男が横に手を払うと、火の粉が出現し無数に飛んでくる。一つ一つは小さいが、密度が濃すぎるため避けられない。
「『M極』――っ!」
チクチクとした痛みが僕を襲う。『M極』でもこれか、威力が桁違いだ。
「あア? 効かねえのカ。なら、これでどうダ?」
男が手を上に挙げると、僕の足元が光り出す。これは、喰らってはいけない気がする――。
「『特避』っ」
すぐさまそこから離れると、僕のいた場所に巨大な火柱があがる。
危なかった。火の粉も完璧に防げてないのに、あんな火柱に耐えられる訳がない。
そして、気づいたことがある。この男は、攻撃する時に言葉を発していない。手を動かすだけで魔法を使えるようだ。
「これは避けたカ。なかなか楽しめそうなやつが来てくれたナ」
男はカラカラと笑い今度は左手を前に出し――。
「『水嵐』!」
ライトによって放たれた水の竜巻が背中から直撃、僕を通りすぎて木に激突する。
「ライト、来るのが遅い」
「悪いな…………あれ、何で俺が謝ってんだ」
「――今のハ、及第点だナ」
「「っ!」」
しかし、男はまるで何も無かったかのように立ち上がったのだった。