一致しない外見と
換金所に行く途中、僕達は歩きながらお互いのステータスカードを交換して見ていた。
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ストライト・ピア 151歳 男 エルフ
魔力:B
魔法:[水魔法][風魔法]
スキル:
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「シンの異常な硬さはこのスキルか」
「……そんなに異常?」
「跳び蹴りした時、木かと思った」
それはもう人間を辞めた何かだと思う。
……既に自分が種族の問題で人間を辞めていることに思い出し、僕は膝から崩れ落ちた。
「急にどうした!?」
「現実を直視した結果だから気にしないで……」
「お、おう」
* * * *
猪の魔獣丸々一頭の換金で、僕の手持ちは小金貨5枚となった。
ストライトの話によると、王都でステータスカードを直すためには小金貨一枚が必要のようで、彼も十年に一、二回の頻度でそこにお世話になっているらしい。
「じゃあ、次はフィムの家行くか。シンのことは、フィムがトト様に話しておいてくれてるから」
「トト様って誰?」
「集落長」
「把握しました」
歩きながら腕だけビシッと敬礼。ストライトは不思議そうな顔をして訊ねてくる。
「何でいきなり敬語になったんだ?」
「えっ? き、聞いちゃうのかそれ」
まさか説明を求められるとは思っていなかった僕は、ストライトの純粋すぎる目も合わさって、精神力をガリガリ削られていく。
「あえて言うなら、ノリ?」
「変な奴だな」
「ぐふっ」
その言葉は僕の心にクリティカルダメージを叩き出し、再び崩れ落ちかけたがなんとか踏み留まる。頑張れ僕。
「お、着いたぞ」
どうにか心の安寧を保っているうちに、目的地に到着してしまった。
「この階段を上って一番上にあるから、間違えんなよ?」
「ライトは来ないんだ」
「この後は魔獣の討伐に行かないといけないからな。一応、俺も守人だし」
ライトも守人だったことに驚きつつ、先程の自分に対する攻撃を思い出して少しばかり心配した。主に不意打ち宣言していた辺り。
でも、復活もその分早かったし、心配するだけ無駄か。いつものことみたいだし。
「分かった、ここまで案内ありがとう」
「気にすんな、またな」
「ああ、また」
そして、ストライトと別れた僕は階段を上り始めた――。
* * * *
階段を上っている途中で何軒も家らしきものの横を通り過ぎる。
それらの家は、大体が一軒家とさほど変わらないぐらいの大きさのログハウスだった。
入り口にはドアが付いておらず、窓にもガラスは貼られていない。防犯性が全く無いそれらの家に疑問を持ちつつ、階段を上り進める。
「ここか……?」
ついに螺旋階段を上り切ると、そこにあったのは今まで見たものと同じようなログハウス。
呼び鈴らしきものも見当たらないので、仕方なく僕は大声で呼びかけてみる。
「すみませーん! 集落長さん、いますかー!」
「――いるよ」
「わっふぁっ!?」
「わっ!?」
突然、耳元に囁かれるように声をかけられ、僕は驚きのあまり飛び上がる。そして、後ろを振り向いて言った。
「心臓に悪いわっ……!」
「あはは、ごめんごめん。まさかそんなに驚くなんて思わなくて」
「[気配遮断]使ってた人が言う台詞じゃない気がする……」
「ナンノコトカナ」
才能の無駄遣いならぬスキルの無駄遣いである。
僕がコンフィムにジーっと視線を送ると、コンフィムはサッと目を逸らした。
「そんなことより、早く中に入って入って」
「そんなことよりって――ちょっ、分かったっ、分かったから押すなっ」
コンフィムに背中を押され、言われるがままに中に入る。
「やあ、いらっしゃい」
「あ、どうも。こんにちは」
家の中に入ると、コンフィムのお兄さんらしき人がテーブルに料理を乗せた皿が並べているところだった。
「シンも早く座りなよ」
「早っ」
いつの間にかコンフィムは席についており、隣の椅子をぽんぽんと叩く。
僕はどうしていいか分からずに立ち尽くしていると、皿を並べていた青年が声をかけてきた。
「座っていていいよ。もう少しで準備は終わるから」
「それなら、手伝いますよ?」
「客人にそんなことさせられないよ。私はいいから座ってなさい」
そこまで言われると、僕も従わざるを得ない。そして、コンフィムの隣の椅子に座ると、換金したお金のことを思い出す。
「コンフィム、手、出して」
「え? いいけど……あっ」
その一瞬を見逃さず、コンフィムが差し出した手のひらの上に小金貨を三枚置いた。
「受け取るつもりなかったのに……」
「だろうと思った。だからこんな方法を取らせてもらいました」
「ふふっ、シン君の方が一枚上手だったわね」
奥から、コンフィムのお姉さんらしき人がカラフルな木の実を乗せたパイを運んできた。
「こんにちは、お邪魔してます」
「全然邪魔じゃないですよ」
「……えっと、お世話になってます?」
「冗談ですよ」
そう言って、その女性は微笑を浮かべる。
……ビックリした。この世界は"お邪魔してます"が通じないのかと思った。
「ねえ、シン。やっぱり、受け取れないって」
「大丈夫。ちゃんと半分受け取ってるから」
「……嘘じゃないみたいだね」
僕は約半分受け取っているから、正確には嘘ではない。
[真偽判定]というスキルに意外な抜け穴があったことに内心で驚きつつ、それを顔に出さないように僕は表情筋を引き締める。
「フィム、そこは受け取っておきなさい。別のことで返せばいいのよ」
「いや、返してもらう必要もないんですけど……」
「分かった、お母さん」
「聞いてないし…………お母さん?」
僕はコンフィムの後半の言葉を復唱する。そして、ゆっくりとお姉さん(?)の方に首を回転させた。
「ああ、すみません。名乗るのが遅れました。私はカカ・ホムストです。集落長であるトト・ホムストの妻をしております」
「…………わー……」
空いた口が塞がらない。ずっとお姉さんだと思っていた人物が、まさかお母さんだったとは思ってもみなかった。
「ということは……」
「私が集落長をしているトト・ホムストだよ」
「…………ほー……」
つまり、夫。
その事実が信じられず、これも何かの嘘なのではないかと考える。だって、見た目が若すぎる。十代って言っても違和感ないぐらい。
けれど、コンフィムが訂正しない辺り、それが本当のことというのが分かる。
「あら、まだ自己紹介してなかったの?」
「ははっ、すまない。言い出すタイミングが分からなくてね」
笑いながら頬を掻く集落長を呆然と眺める。そして、訊ねてみた。
「失礼ですが、お歳はいくつでしょう……?」
「今年で370歳になるね」
それは、人間年齢で言うところの37歳であるということを表していた。
……嘘でしょ?




