確認は大事
謝るついでに、失礼を承知でエルフの年齢について聞いてみた。
その結果、エルフの寿命は人間の十倍あることが分かった。
しかし、寿命の長さに比例するように、体や精神の発達速度は遅くなるとコンフィムは言う。
つまり、コンフィムは人間年齢でまだ十四歳であるということである。
そして、僕達はスキルの話に戻った。
「シンが力持ちの理由は分かったけど、このスキルは何?」
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「それは僕もまだ分かってないんだよね」
「んー、固有スキルだとは思うけど」
「……固有スキル?」
「あれ? 聞いたことない?」
聞き慣れない言葉だった。そんな僕に、コンフィムは説明してくれる。
「固有スキルは、世界でその人しか持ってないスキルのことを呼ぶんだよ。ボクの[潜影]や、君の[能力改変]がそう」
「これ、固有スキルだったんだ……」
「そんな万能なスキル持ってる人がほいほいいる訳ないでしょ」
確かに。このスキル、結構便利だし。
「まあ、そう呼ばれてるってだけで、確認なんてできないんだけどね。因みに魔法も固有魔法ってものがあるよ」
「デュアルと同じ認識でいい?」
「うん……って、デュアルは知ってるんだ」
「と、とりあえず、スキルの話は一旦置いとこう。ホムストまで、あとどのくらいで着くの?」
自分の非常識具合が露見する前に話題を変える。
「そんな強引に話題変えなくても……別に知ってるのは悪いことじゃないよ?」
「読心術か何か持ってる?」
「無いから」
そんな意図もコンフィムに見透かされ、僕は彼女に問いかけたが即座に否定される。
「……それで何の話だったっけ」
「ホムストまであとどのくらいか」
「そうだった。もうそろそろだと思うけど……あ、ほらっ」
「……おお……」
僕はコンフィムが指を差した方向に目を向けて、驚いた。
いくつもの巨木が地面に根を伸ばし、その木の幹には螺旋状の階段、そして、果実のように点々と家が建っている。
木の根元には小さな川が流れていて、その周りでは何かを栽培しているように見える。
そこは、たくさんのツリーハウスが集まったような場所で、元の世界では考えられない光景が広がっていた。
そして、その光景は自分が本当に異世界に来たということを改めて認識させる。
「なんか、凄いな」
「あはは、ただの田舎だよ?」
「これ、ただの田舎ってレベルなのか――『S=D』」
直感のようなものが働いた僕は[能力改変]を使用する。
――刹那、襲いくる何者かの飛び蹴り。
「フィムから離れどわっ!?」
「……え? 何?? 誰???」
その跳び蹴りはとても軽いものだった。僕の体を動かすに至らないどころか、跳び蹴りをした本人がずっこける始末である。
そして、何故僕は蹴られたのだろう。今まで、この少年に会った記憶はない。
コンフィムの知り合いかと考えて彼女を見ると、両手で顔を覆っていた。どうやら当たりらしい。
「こんのやろっ」
殴りかかってくる少年に対し、僕はその腕を掴んでそのまま後ろに放り投げる。
「くっ、でりゃっ!」
「しつこいなっ!?」
放り投げられても綺麗に着地を決めてめげずに攻撃をしてくる少年に、思わず突っ込んでしまった。そして、受け流すように再び少年の腕を掴み――今度は強めに放り投げた。
「ぐっ!?」
勢いが強かったためか、少年は上手く着地できずに尻餅をつく。
僕はその間に少年を観察する。
その少年はコンフィムと同じ尖った耳を持ち、短い金髪。
これは、あらかじめコンフィムから聞いていたエルフの特徴に合致していて、ホムストの住人であることは推察できた。
「こんのっ……! これでもくらえっ……!」
「……っ、『通常』!」
少年は起き上がってすぐに両手を前にかざすと、少年の周囲の風が不自然な吹き方をし始める。
僕は[能力改変]を使い、身構えた。
――その時、僕の横を一つの影が通り過ぎる。
「『とっぷ「いい加減にしようね!?」ぶぐふぉああ!?」
コンフィムに蹴り飛ばされた少年は宙を舞った。フィギュアスケート選手もビックリの横回転を決めて。
「ふぅ……」
どこかスッキリしたような顔をしたコンフィムは、僕に向き直る。
「ようこそ、ホムストへ!」
「いや、説明してくれ」
「……だよね」
コンフィムは少年について完全スルー決め込もうとしたが、流石に今のはスルーできない。四六時中襲われる村とかお断りだからね?
「でも、説明と言われても……本人から聞いたら?」
「不意打ちもらったぞっ!」
高速回転を決めて蹴り飛ばされた筈の少年が再復活を成し遂げ、ご丁寧に不意打ち宣言をしながら殴りかかる。
……そんなあからさまな不意打ちが通用する訳がない。
「――ぁがっ!? 痛い痛いギブギブ――!!」
僕は半身をずらして拳を避け、頭をしっかりと掴んだ。[能力改変]による筋力増強のせいで、少年の頭からは鳴ってはいけない音まで鳴っている気がするが、気のせいだろう。
……怒ってないよ?
「うわぁ、人の頭が実際にミシミシいってる音初めて聞いたよ……」
「いやいや、コンフィムの蹴りもなかなかのものだったよ。人ってあんな風に飛ばせるんだ」
「あ、分かる? あれ、飛ばし方にコツがいるんだよ」
「コツか……難しそうだな……」
「でも、シンの脚力ならもっと回転力上げられるんじゃないかな」
僕達は蹴り飛ばし談義に花を咲かせる。ミシミシ音のBGMを添えて。
「離せっ、離せよっ!?」
「……シン、そろそろ離してあげて?」
「……うん、やりすぎた」
僕が手を離すと、少年は地面に尻餅をつく。そして、その少年はコンフィムに怒鳴った。
「おいっ、フィム! こいつ誰だ!」
「王都に向かってる旅人さんだよ。名前はシン。そうだ、この猪を換金できる場所に連れてってあげて」
「……本当にそれだけか?」
「本当にそれだけだよ」
少年はコンフィムの目を真剣な眼差しで見つめている。コンフィムも目をそらさない。
ピリピリとはまた違う、会話に入れない雰囲気。僕はそれを黙って見守ることしかできなかった。
――その状態がしばらく続き、ようやく少年が口を開く。
「分かった、信じる」
そう言って、少年は僕の方に向き直る。
「いきなり悪かったっ!」
「へ? あ、はい」
そして、頭を深々と下げてきた。
今の二人のやり取りや少年の態度の急変についていけず、僕はその勢いに押されて謝罪を受け入れてしまう。
とりあえず、もう襲われないって認識でいいのか……?
「じゃあ、ボクはお父さんに報告してくるから。ライト、あとはよろしくね」
そう言って、コンフィムは僕達を置いて走り去ってしまった。僕は話に全くついていくことができず、呆然とすることしかできない。
「それで、シン、だったか? 俺の名前はストライト・ピアだ。ライトでいいぞ」
「あ、うん、よろしく」
ストライトという少年から手を差し出され、僕はその手を取って握手する。
今の話から、彼が案内人になってくれるということはなんとなく分かったシンだが、案内を受ける前に聞かないといけないことがあった。
「この集落って、部外者立ち入り禁止だったりする?」
「いや、むしろ歓迎すると思うぞ。ここって滅多に外から人が来ないからな」
「じゃあ、ライトは何でいきなり襲ってきたのさ」
「フィムは俺のものだ」
フィムというのはコンフィムだということは僕にも分かる。でも、俺のものって…………まさか、そういうこと?
確認のために、もう一歩踏み込んで聞く。
「二人は付き合ってるって認識で合ってる?」
「ああ、フィムは俺の自慢の彼女だからな」
「……つまり、僕のことを浮気相手とかナンパ野郎とかに見えたってこと?」
「……悪かった」
ライトは再び僕に頭を下げる。
――僕は、今まで口を出せなかった分の全てを乗せて、ライトに怒鳴った。
「確証も無しに襲うなよっ!?」
「……そこなのか?」
そこです。




