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可愛らしい神様の召喚理由

 ――そこは、真っ白な空間だった。

 起き上がり、周りを見回す。しかし、ここがどこなのか、皆目見当もつかない。


 そこで、僕は自分が気を失うまでの出来事を思い出した。


「……死んだんだ」


 記憶がよみがえる。自分は血を流しすぎたことで死んだ。

 それならば、ここは死後の世界か何かなのだろう。ひとまず、立とうか。


 ……死んだにしては体が重いけど、こんなものなのかな?


「ぱんぱかぱーん! あなたは運が良いですよ! 私に召喚されたのですから!」


 元気な、女の子の声が耳に入った。しかし、辺りを見回しても誰もいない。


「幻聴か」

「前にいますよ?」


 今度はやけにテンションが下がった声が聞こえる。同一人物だとは思うが、こちらが素なのだろう。

 しかし、その声の言った通りに前を向いても誰もいない。


「……まさかフェイクで後ろ!?」

「何で後ろ向くんですか!? 前って言いましたよね!?」


 予想が外れ、僕は三度目の前方確認をする。しかし、人影は確認できない。


「下! もう少し目線を下げてください!」


 言われた通り目線を下げる。


「…………あ、いた」

「気づくの遅くないですか!?」


 そこには、白い髪に白いワンピースを着た白い肌の、とにかく全体的に白い幼女が立っていた。


 ……気づくのが遅れたのは、その白さのせいだよ。

 その言葉を飲み込み、僕は先程の言葉を聞いて浮かんだ疑問を投げかける。


「召喚? 転生じゃなくて?」


 ゲームやラノベの(たぐい)(たしな)んでいたこともあり、そっち方面の知識もある程度持ち合わせている。

 それが理由で、驚きのようなものも薄く、この不思議空間も簡単に受け入れることができていた。


「まず、一つあなたは勘違いをしてます。あなたは死んでませんよ」

「…………はい?」

「あなたは、死んでいません」


 そんな筈はない。確かに自分は死んだ筈だ。


「死にかけてはいましたけどね。それは私が治したので大丈夫です。自己紹介が遅れてしまいましたが、私の名前はホワルです。この世界の神です」

「あ、どうもこれはご丁寧に。僕の名前は信です……じゃなくて、神様?」


 ずっと天使的な何かだと思ってた。神様って、もっとこう、ヨボヨボのお爺さんなイメージが……。


「はい……といっても、私はここに閉じ込められてるんですけどね」


 閉じ込められてる、か。


「神様、あなたは何をしたんですか」

「何もしてませんよ! 封印されてるだけです! 私の意思じゃないですけど……外から一方的に封印されるんですよ?」


 ……神様にも色々あるのだろう。

 分からないことを考えても仕方ない。単に考えるのが面倒だった訳ではない。


「でも、何で死にかけの僕なんか召喚したんですか?」

「シンを召喚した理由ですが、休憩ついでに誰かとお話がしたかったんです」

「お話?」


 神様はこくりと頷く。


「私はここから出られないので少し寂しくて……ランダムなので、シンが召喚されたのは完全に偶然です。召喚したら血だらけの人が出てきたのはビックリしました……」


 なんか、見た目通りの精神の神様なんだな……神様だから僕よりずっと長く生きているんだろうけど。

 気まぐれとかここから出してほしいとかじゃなく、寂しくて召喚したというのがなんとも可愛らしい。


 ……それなら、僕は神様に命を救われたのか。お礼は言っとかないとな。


「神様、助けてくれてありがとうございます。自分で良ければお話、付き合います」


 ホワルは不服そうな様子で僕を見つめてきた。何が不服だったんだろう。考えても分からない。

 ホワルはため息を吐く。


「……ホワルと呼んでください。堅いです。そんなに畏まらないでほしいです。何だか距離を感じます」


 ホワルの要望は、"フレンドリーに接してほしい"ということだった。神様は敬語使ってるのに。

 それでも、恩人の要望である。ならば、きっちりそれに答えるべきだろう。


「分かった、ホワル……これでいい?」

「はい!」


 確認するように問いかけると、ホワルは満足そうに頷く。


「では、シンの世界のお話、聞かせてくれませんか?」


 それから、僕はホワルが満足するまで、地球のことやおとぎ話を聞かせたのだった。




 * * * *




「やはり、外は面白いですね。今回、私に付き合ってくれて、ありがとうございます」


 ホワルは丁寧に頭を下げてお礼を言ってきた。


「これくらいお安いご用だよ。逆にこれだけで良かったの?」

「ありがとうございます。でも、そろそろ休憩は終了する予定ですから大丈夫です」


 そういえば、さっきも"休憩ついでに"とホワルが言ってたな。


「休憩って、ホワルはいつも何してるの?」

「この空間の破壊です」


 ……可愛らしいにも限度はあると思うんだ。


 ――話を聞くと、ホワルは封印されてからずっと、この空間を脱出するために空間の破壊というものを行っていたらしい。たまに、このような休憩を入れながら。

 そして、やっと亀裂を入れることに成功したホワルはもうすぐ出られるということで、今回、最後の休憩を入れた……ということだった。


「自由になったら、自分の世界の観光でもしてみたいです」


 世界を創ってからすぐ(と言っても千年ぐらい)に封印されたため、ホワルは自分の世界が今どうなっているのか、全く把握できていないらしい。


 話を終えたホワルは急に真剣な顔つきになり、僕は少し不安を抱く。


「シン、あなたに良い話と悪い話があります。悪い話から聞くことをお勧めします」

「良い話で」

「お願いします悪い話の方から言わせてください話が繋がらなくなるんです」

「いや、なら何で聞いたのさ」


 懇願するホワルに、思わず疑問を口から漏らしてしまった。本当に何で聞いたんだ。


「それで、話って? この空間から出られないとか?」


 ――召喚されて帰れない。それはファンタジー小説のテンプレとも言える。

 それぐらいなら命を救ってもらった分、僕にとっては全然許容範囲内のことだった。


「いえ、空間からは出られますよ? それはできるのですが……」

「はっきり言って。別に怒ったりしないから」

「……シンを、元の世界に帰すことが、できません……」


 テンプレだった。


 しかし、悪い話と言うからにはまだ何かあるのだろう。そう考えて、僕はホワルの次の言葉を待つ。


「すみませんっ!」


 しかし、次の言葉は"帰れない事実"に対する謝罪。


「え、それだけ?」

「……それだけと言うと、それだけですけど……え? え?」

「よかった……」


 予想を下回る謝罪内容に、僕は凄くホッとしたのだだった。

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