半年間の成果
――レツ/24カ――
居候生活もちょうど半年になる。
僕はこの森に生息している魔獣は全て倒せるようになっていた。
そして、フルミネとの戦闘訓練も、四肢の変型と[雷魔法]を使わせるまでに成長していた。
しかし、未だに一勝もしていない。あと少しというところで、いつも難易度を上げられてしまうからである。
そして、この半年間で最も驚いたことは、フルミネから「ゲンさん」と呼ばれている【水帝】が、異世界に来た初日に自分を殺そうとした亀だったことだ。
――フルミネと別行動で魔獣狩りをしていた時のこと。
その時に再遭遇した僕は、出会い頭にいきなりレーザーを放たれた。
身の危険を感じた僕は[能力改変]を使ってひたすら回避に徹し、【水帝】は容赦なく僕を殺しにかかる。
そんな膠着状態十分ほど続き、フルミネが横から仲裁に入ってくれたおかげで事なきを得た。
その後、本当の名前は"ゲンブ"だということを知り、僕は真っ先に亀と蛇を思い浮かべて訊ねてみると――。
* * * *
「蛇はいないんですね」
「……? 何を言っておるかは分からんが、わしは蛇が嫌いでの。蛇の魔獣の駆除が日々の日課じゃ」
「「え?」」
僕達の声が被る。ゲンブが言った言葉を理解できなかった。
「じゃあ、この森に蛇の魔獣が滅多に出てこないのって……」
「うむ、わしのおかげじゃな」
――隣で、プツっと何かが切れた音がした……気がした。
「シン、いいよね?」
「……いいんじゃないかな」
僕はフルミネにサムズアップをする。彼女もそれを笑みを返してくれた。因みに、目は笑っていない。
「むっ、フルミネは何故準備運動をしておる……? って待て! 待つのじゃ――」
* * * *
その日を境にこの森の猪の魔獣が減り、蛇の魔獣が出現する割合が増えたのだった。
これは余談だが、僕がフルミネの魔法を目にしたのもこの時が初めてだった。
そして、さらにもう一つ、この半年で大きな変化があった。
就寝時に、フルミネが僕の尻尾を抱き枕代わりにして寝るようになったことである。
僕も尻尾を触られると少しくすぐったくは感じるのだが、不思議と嫌悪感というものはなかった。
――そして、それ以来、うなされているようなフルミネの寝言も無くなった。
* * * *
「『魔装』『両足:剛脚』『両腕:魔銃』、『魔弾:散』」
習慣となった戦闘訓練。フルミネは先手必勝と言わんばかりに変型、牽制をしながら突っ込んでくる。
なので、僕はいつものように、始めは回避に徹することにする。
「『特避』!」
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STR:1
DEF:1
INT:1
MEN:1
AGI:35
CON:11
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これは僕が何日も、何十日も調整した結果、一番回避に適していると判断したステータスだった。
『A極』と違うのが、CONにも割り振っている点だ。このCONは、慣れるまでにAGIよりも苦労した。
それでも、慣れるとかなり便利でもあった。『C極』を使うことで相手の先読みや視力に頼らない空間把握が可能なのだ。
……ただし、あくまでそれだけで、その間、攻撃も防御も回避もできないけど。
僕が初撃の『魔弾』を全て避けると、フルミネは距離を取るように後ろに下がる。
「『両腕:ワイヤー』『両足:魔銃』、『魔弾:連』!」
両手からワイヤーを伸ばして蜘蛛の巣のように張り巡らせた後、連射してくる『魔弾』を僕はひたすら避けていく。
――問題はここからだ。僕に遠距離攻撃の手段は無いため、近づくしかない。
しかし、不用意に近づけば[雷魔法]でワイヤーに電流を流されて、気絶させられてしまう。この展開になると、詰む。
それでも、今日こそ攻略してみせる。
ここ最近はこの防御壁を突破するためにずっと作戦を考えてきたのだ。そして、今日、ついにそれを実行に移す。
「『C極』っ」
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STR:1
DEF:1
INT:1
MEN:1
AGI:1
CON:45
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空間把握。五感をフル稼働させてワイヤーの隙間を探し、フルミネに辿り着くまでの障害物及びルートを確認する。
しかし、立ち止まってしまったために『魔弾』は眼前に迫る。
「『A極』!」
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STR:1
DEF:1
INT:1
MEN:1
AGI:45
CON:1
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フルミネの『魔弾』を被弾寸前で躱し、そのまま彼女の真後ろに回り込む。速さだけなら、彼女を上回っている自信はあった。
「『S極』!」
ワイヤーの隙間を狙って一直線に跳ぶ。
僕がわざわざ『S極』に変えたのは、跳躍が脚力――つまるところ、足の"力"が関わっているからであり、AGIが必要ないからだ。
「『散雷』『魔弾:散×連』!」
フルミネが[雷魔法]で体から緑色の雷を放出し、ワイヤーに電流を纏わせる。さらに、そのワイヤーの隙間を埋めるように『魔弾』を連射してくる。
正直、これは想定外だった。フルミネ、結構容赦ないところあるよな。流石に二重迎撃は大人気ないと思う。
……まあ、結果は変わらないからいいや。
「『M極』」
「――っ!?」
普通、『A極』から別のステータスに変えようとすると、変えた瞬間にそのAGIになってしまう。
そのため、どうしても大きく減速することを強いられる。
僕は考えた。[能力改変]を使っても減速しない方法を。
その末に一つの可能性を見出だした。走る速度が落ちるのなら、そもそも走らなければいい。
それがこの"跳ぶ"という作戦……と言えば多少は聞こえはいいかもしれないが、要するにただのごり押しとも言える。
――そして、僕はフルミネに手が届く距離まで接近に成功する。
「『四肢:解除』っ」
今の変型では接近戦ができないと考えたフルミネは、変型を解除する。
でも、蜘蛛の巣状にワイヤーを張り巡らしたということは、それだけワイヤーを伸ばしているということだ。数秒は動けない。
――そのチャンスを逃したりはしない。
「『S=M』!」
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STR:21
DEF:1
INT:1
MEN:21
AGI:1
CON:5
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フルミネに飛び付き、そのまま組伏せる。
「ぅうっ、んっ……!」
フルミネはその組伏せから抜け出そうとするが、今の僕の力は一般人の約四倍。握力の平均が四五キログラム前後だとすれば単純計算でその四倍であり、そうそう抜け出せるものではない。
……なんて考えてたけど、結構キツい。少しでも力を抜いたらすぐに抜け出されてしまいそうなぐらいに。
彼女の手足は魔道具であり、魔力次第で出力も変化するのだ。魔力容量の多い彼女なのだから、それも当たり前のことだった。
「『散雷』! 『散雷』!」
「え、いたっ、痛い痛い!」
力では勝てないと思ったのか、フルミネが今度は[雷魔法]を連発し始める。体全体に、静電気に触れた時のような痛みが断続的に襲う。
[能力改変]で軽減してるのにこの威力。絶対、さっきより威力上げてる。
……それでも、力を緩めたりはしない。
ようやくここまで追い詰められたんだ。きっと、この方法も二度と通じなくなる。意地でも離してやるもんかっ……!
――その後、ようやく抜け出すのを諦めたフルミネが負けを認め、僕は戦闘訓練で初勝利を収めたのだった。