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元副団長改め

 ここに来るということは、コンビニさんはラミアさんに用があるということだ。


「僕、話の邪魔になるなら帰りますけど」

「いい、すぐに終わる」


 僕は遠慮して退出をしようとすれば、引き止められる。僕にも伝えておくことって何だろう。


「ガロウナムスを発つのか?」


 ラミアさんはおずおずといったように、コンビニさんに訊ねた。


 僕はそれで思い出した。コンビニさんは騎士団員じゃない。

 ここに来た理由も、団員達の顔を見に来ただけだと言っていた。だから、もうここに留まっている理由はないとも言える。


「いや」

「だが、いつまでもここに居る訳ではないだろう?」

「居ることになった」

「……え?」


 ラミアさんは惚けたような声を漏らした。僕も話があまり理解できないでいると、コンビニさんは気まずそうな面持ちで言う。


「守人(ガーダー)より騎士団の方が性に合ってるみたいでな」

「…………」

「勝手に引退した奴が何言ってるんだって思うだろうが……うおっ」


 ――ラミアさんは、コンビニさんの胸に顔を埋めるように飛びついた。


「おいおい、そんな動いて大丈夫なのかよ」

「とっくに治っているっ……」


 泣きそうな声でラミアさんは答える。そんな彼女の頭に、コンビニさんはそっと手を置いた。

 二人の間に何があったのかを知らない僕は、黙って会話に耳を傾ける。


「おかえり」

「今度は別部隊に着くことになったから、あまりお前らとは居れないぞ」

「それでも、おかえり」

「……ああ、ただいま」


 やっぱり、入れない。僕の存在を忘れているのではないかと思えるぐらい、二人だけの空間を作っている。

 けれど、どこか温かい光景だった。男女の間柄というよりも、家族の再会を見ているかのようで。


「騎士団を……団長(テト)と副団長(シンシア)を支えてくれてありがとな」


 コンビニさんの言葉にラミアさんは肩を震わせて、彼の胸元を濡らした――。




 * * * *




 ラミアさんの病室を出て、僕はコンビニさんとある場所に向かっていた。

 その道中で、前から少し気になっていたことを訊ねてみる。


「コンビニさんは元騎士団員なんですよね。一度辞めた理由って聞いてもいいですか?」

「……ああ」


 ――そして、僕はコンビニさんを知った。


 フォース前団長はコンビニさんの親友で、目標だったらしい。

 しかし、フォース前団長が神器に選ばれ、団長になった頃からその差は広がった。コンビニさんも副団長になったが、その頃から自身の限界に気づき始めたのだという。

 彼は追いつけないと分かっていた。それでも、その背中を追い続けた。どんなに遠くても、見えていたから。


 その後、フォース前団長の突然の失踪……亡くなった。コンビニさんは親友を、目標を失った。


 そこに残ったものは、騎士団員達の上に立つ者としての重荷だった。

 フォース前団長が背負っていたものの大きさを、そこで初めて直視した瞬間だったらしい。


「それで、俺は歳を言い訳にして騎士団を辞めた。あいつらに重荷を背負わせたのは俺だ」

「それが気になって、帰ってきたんですか?」

「ああ。だから、思い切って久々に様子を見に来たんだが……」

「どうでした?」

「変わらなくて、なんか安心した。皆、俺が思っていた以上に強かったんだなって」


 コンビニさんは苦笑しながら言う。

 強いというのは"精神的に"ということだろう。でも、その気持ちは僕も少し分かる。

 ジョニーさんなんて片腕失ってるのにもう前を向いている。ポジティブ過ぎて逆に怖いぐらいだ。


「あと、残りの気がかりはラミアのことでな。あいつがこんな小さい頃から知ってる身としては、最期を看取る義務がある」


 コンビニさんは手でラミアさんの幼い頃の背丈を表現しながら言った。

 僕はその言葉の中にあった気になる単語について聞き返す。


「最期……?」

「……知らないのか」

「何をですか?」

「それは……」


 コンビニさんは少し躊躇するように説明を渋る。僕はそんな彼に駄目押しする。


「教えてください」

「……【双聖】は二つの神器を使用する。でもな、あんな力を二つも使えば、普通なら体が耐えられない」

「ラミアさんは使ってますよね……?」

「【双聖】は自分の寿命を削ることで、二つ同時の神器使用を可能にしてる。それが原因で、短命になる」


 ……寿命を削る?

 ラミアさんが短命だなんて、俄かには信じられなかった。あんなに元気そうなのに。


「あいつの怪我自体は治ってるのにまだ入院してるのは、休まないと体が保たないからでもあるんだ」


 ラミアさんは一言もそんな話をしていなかった。してくれなかった。

 理由は分かる。心配させないためなのだろう。彼女は多分、そういう人だ。


「何かできないんですか」

「なら、あいつが無茶するようなら止めないで、皆で支えてやってくれ」


 止めないで支える――その言葉を否定する気はない。ただ、本当にそれでいいのかというモヤモヤとした思いが募る。


「【双聖】が短命って話は一般常識だ。だから、皆知ってるさ。その上で、いつもラミアの無茶を容認してる」

「……僕も容認しろと」

「頼む」


 素直に頷くことができない僕に、コンビニさんは言った。


「限られた時間を騎士団としての生にしか費やせないラミアに、俺達はこれだけの自由しか与えてやれないんだ」

「……分かりましたよ」


 選択肢なんて最初から一つしかない。

 諦める……という表現は間違っているのかもしれないけれど、できることはそれぐらいしかないのだ。


 それからしばらくして、僕達はようやく目的地に辿り着いた。


「ここに来たのは初めてか?」

「はい」


 そこにあったのは魔人や魔物に殺され、戦死した騎士団員達が眠る慰霊碑。

 その前には、多くの種類の見慣れない花が咲き誇る花壇。


「今回は誰も死ななくて、本当に良かった」


 コンビニさんは慰霊碑を見つめて、そう呟く。


「きっと、次も誰も死にません」

「……ああ、そうだな」


 これは理想に過ぎない。でも、理想は現実にすることができる。だから、そんな希望を持っていたっていい筈だ。


「シンも死ぬなよ」

「フルミネを置いては逝けませんよ」

「……こんな場所で惚気(のろけ)るな」

「惚気てはないです」


 これは僕なりの覚悟のつもりだったのだけれど。言葉って難しい。


「そういえば、今日は巡回とかないのか?」

「巡回はないですね。午後に鍛錬場が使えるぐらいです」


 魔人を退けたあの日以降、巡回と鍛錬は怪我が治り次第徐々に参加するという形式になっている。

 とは言っても、どちらも団員の半数以上は復帰しているという話はテトさんから聞いていた。今日の鍛錬もラミアさん以外の遊撃部隊は全員集まるだろう。


「……分かった。シン、帰り道は覚えてるよな」

「え? 覚えてますけど……」

「じゃあ、俺は行くところがあるからここまでだ。また後でな」

「は、はあ」


 コンビニさんは立ち去ってしまい、僕は取り残されたような感覚に陥る。少し慌ただしく感じたのは気のせいだろうか。


「……まあ、いっか」


 深く考えても仕方ない。時間も時間なので、僕は一人で食堂に向かった。




 * * * *




 食堂に着いた僕は辺りを見回して知人を探す。すると、背中に何かがぶつかった。


「……レティ?」


 振り向くと、目が閉じてるのか開いてるのか分からないレティがいた。

 彼女は僕にぶつかったこと自体に気づいていないらしい。フラフラとした足取りで、そのまま突き進んできた。


「んむ」


 レティは僕の胸辺りに顔を押し付けて前進しようとしてくる。寝ぼけているのだろうか。

 僕がレティの肩を持って軽く揺さぶれば、ようやく目を開けた。


 レティが顔を上げれば、僕と目が合う。そして、目が覚めたらしい彼女に、僕は軽く突き離された。


「えーっと、寝不足?」

「……ん」


 普通に距離を取られたことに僕は内心へこみながらも、めげずに話しかける。


「魔道具?」

「ん」

「順調?」

「……そこそこ」


 話しながら、僕達は昼食の注文をするために列に並ぶ。

 ……と言っても、これは質問と応答であり会話ではない。レティからも話し出してくれないと、なかなか話が膨らまない。


「そういえば、昨日はフルミネと何してたの?」

「新しい、魔道具、作る。協力、頼んだ」

「そっか」


 レティの言葉は相変わらず単語が多い。必要最低限の言葉しか話さない理由は知らないけれど、意外に会話は難しくない。

 今の言葉も、"新しい魔道具を作るために、フルミネの魔道具を見せてもらっていた"という内容だろう。


 僕の質問も尽きてしまい、会話はそこで途切れる。

 話を無理に続けるとしつこいと思われかねない。僕は前に向き直り、黙って並ぶことにした。


 そして、あと少しで順番が回ってくるところまで進むと、後ろからチョンチョンと背中を突かれる。


「シン」

「何?」


 まさか声をかけられるとは思っていなかった僕は、軽く驚きながら後ろを振り向いた。

 レティは何を考えているのか分からない無表情のまま、視線を左右に彷徨わせる。


「どうかした?」


 無表情でも、流石にこの反応は分かりやすい。

 何かを迷っている彼女にもう一度声をかけると、ゆっくり視線を合わせて口を開く。


「フルミネ、魔道具、本当?」


 ――その問いの意味を理解するのに、数十秒の時間を要した。

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